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【検証・悠香の自主回収③】 「製造販売業」、形だけの運用か

2011年 9月22日 17:46

 悠香の「茶のしずく石けん」自主回収を巡る騒動拡大の根幹には、前号で指摘した製品リスクに対する認識の甘さと共に、業界関係者から品質保証体制の不備があったとの声が聞かれる。その具体的な指摘の一つが、化粧品のOEM会社社長が口にした「製造販売業の運用」の部分だ。製造販売業の義務は薬事法に定められているが、関係者の指摘からは、その形式的な順守のみでは成し難い品質保証の難しさが浮かび上がってくる。

 悠香の自主回収に対し、化粧品OEM会社の社長は、「製造販売業(以下、製販業)の運用面に問題があったのでは」(本紙1333号既報)との見方を示しており、化粧品大手の幹部も「(研究部門など分社化して)会社としてのストラクチャー(機構)を作ろうとしていたのだろうけど」とコメントとしている。

 まず「製販業」について説明したい。

 「製販業」とは、化粧品の外装に「製造販売元」として表示される事業者のこと。2004年の薬事法改正により、従来の製造業が「製造を担う『製造業』」と、「市場への出荷責任を担う『製販業』」に分離されたことで生まれた。「製販業」の許可を受けていない販売会社の場合、「製造販売元」は製造委託先のOEM会社の名称となり、自らは「発売元」として外装に表示されることになる。

 前段の説明から想像できるように、製造部門を持たない販売会社の「製販業」認可取得に対するモチベーションは非常に高い。というのも、化粧品が女性の心理に訴えかける製品であり、"自社で開発した"というイメージが強い訴求力も生むためだ。「製造販売元」に聞いたことのない企業名が表示されていては、女性の製品に対する信頼感にマイナスに作用する可能性がある。

 それだけではない。事業者からしても「製販業」取得は大きな意味を持つ。

 例えば、OEM先が不祥事を起こした場合。「製造販売元」としてOEM先の企業名が表示されていては、消費者の信頼低下など思わぬ打撃を受ける可能性がある。販売会社とOEM先はあくまでBtoBの関係であり、販売会社が企業体質にまで目を光らすことは難しい。

 もう一つ、OEM先を変更しやすいという利点もある。成長過程では原料変更など製造コスト削減を理由にOEM先を変更する企業が少なくない。「製造販売元」として自らの企業名が表示されていれば、製品イメージはそのままに、顧客に悟られることなく製品を変更できる。

 取得もそれほど難しくはない。製造設備など物的要件を満たす必要がある「製造業」に対し、「製販業」は人的要件さえ満たせば極端な話、自宅の庭先にあるプレハブ小屋ですら所在地として申請することもできるためだ。

 人的要件は「安全管理責任者(通称・安責)」「品質保証責任者(同・品責)」「総括製造販売責任者(同・総括)」の3役を配置すること。だが、配置は容易でもその運用が難しい。その役割を先のOEM会社社長が話す。

 「うちの場合月1回、『安責』が原料の安全性情報、特にネガティブなものを学会や技術情報誌の論文を巡回(注・調査すること)して集める。巡回頻度は月1回が一般的だが、収集できる情報量は会社の規模によって限界がある。うちの場合は国内情報が主。有害情報を探知した場合『総括』に報告して被害防止の対応にあたるなどマニュアルの作成も義務付けられている」。果たして悠香の場合、「製販業」はどう運用されていたか。

 悠香が「製販業」を取得したのは昨年5月。以降、「茶のしずく石けん」に対する出荷責任を負うようになり、このため回収に伴う当事者も5月中旬の製造ロットを境にOEM先のフェニックスと悠香に分かれているが、その運用の難しさは悠香自身、今年6月に取材した時点で「販売が主体であり、04年の薬事法改正以降、『製造販売元』が市場に出て責任を負うようになっているが、それ(品質保証)をやろうとする中で日が浅かった」(商品部品質保証課・竹田典雄氏)と振り返っていた。

 「茶のしずく石けん」にアレルギーが発症する可能性があるという67症例が報告されたのは新しい知見ではある。

 ただ、前号で示したように相模原病院の担当医が製品リスクを指摘した後も対応に遅れがあったこと、また、同担当医が石けんの原料に使用されていた加水分解コムギ末について90年代以降、国内外に6つの文献があることを示していることを考えても「製販業」の運用が適切に行われていたとは考えにくい。
 昨年5月に至りようやく「製販業」の認可を取得し、品質保証を意識し始めたのは、300億円超もの売上高を誇る企業にあっては遅すぎる対応といえる。この対応の遅れが、創業当時から内在していた潜在的リスクを放置することにもつながっていた。(つづく)

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