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楽天市場・送料課金の余波⑥ 「出店者連合」実現難しく、"報復"恐れ大手は及び腰

2012年11月 1日 15:11

「他の出店事業者にも協力を呼びかけたが、大手ほど楽天の報復を恐れてか、非協力的だった」。

 生活と科学社の猪ノ口幹雄社長は、2005年当時をこう振り返る。同社の公正取引委員会への申告は、02年に楽天が実施した、規約改定による従量課金制導入などを問題としたものだ。猪ノ口社長は「『月額固定料金以外の費用は不要』と宣伝し、出店者を集めてから値上げするという楽天のやり方は、社会通念上許されないもの。勝ち負けよりも使命感が先に立った」と話す。
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 結局、同社の運動は、07年11月に公取委からの「独占禁止法上の問題とすることは困難」という通告で幕を閉じた。ただ、06年に公取委は仮想モールに関する調査報告書を公表している。猪ノ口社長は「報告書は事実上の楽天へのイエローカード。主張は認められたと思っている」と評価しながらも「当社に続く出店者が出てくるかと思ったが、そうはならず、楽天の横暴を止めるまでには至らなかった」と話す。

 猪ノ口社長は自身の経験を踏まえ、今回の送料課金については「値上げに見合うメリットのない出店者が多い点など、楽天の主張の矛盾点を突くことは可能だろう。ただ、楽天に連名で公開質問状を出すなど、大きな運動にしないと公取委は動かないだろうが、それには強いリーダーが必要だ。結びつきが弱いと(個々の出店者への課金優遇などの懐柔策で)運動を楽天に潰される可能性が高い」と指摘する。
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 同社では、楽天市場撤退後の売り上げは一時的に40%落ちたものの、3カ月で回復したという。各出店事業者は、楽天のさらなる値上げがあることも視野に入れ、徐々に楽天への依存度を減らすことも求められる。

 出店者の立場から、生活と科学社と同じく公取委へ申告したケースもある。「楽天市場」で革製品やペット用品のネット販売を行っているH氏だ。

 H氏は約1年半前から「楽天市場」に出店してきたが、電子書籍事業のレビューの件などで楽天の姿勢に不満を募らせており、「今回の送料課金が決め手」(H氏)になって、楽天を退店する決意をブログなどで表明。同時に、公取委の通報窓口に「(送料課金のお知らせの)メールがきたタイミングで」(同)送料課金の問題で通報した。猪ノ口社長同様、他の出店者に協力を呼びかけ、出店店舗が集まる掲示板には通報窓口へのリンクも貼った。フェイスブックにも投稿するなど積極的に動いたが、やはり「なかなか声を上げてくれない」と落胆する。

 同氏は現在、「モチベーションがなくなった」ため楽天市場での活動を停止し、本業の競走馬の馬具の制作に力を注ぐ。もともと楽天市場への出店は副業で始めたもので、現在は本業が多忙になり、「手が回らなくなってきた」状態のため、退店に迷いはなかった。「(退店しても)影響はまったくない。逆に本業に専念できるので全体の売り上げは上がるかもしれない(笑)」(同)。ネット販売は、現在はアマゾンに出店して反応をみている状況だという。

 同店の場合、送料課金の影響はあまり大きくはない。もともと材料を自社で仕入れ、オリジナル商品を製造しているため、他店に比べて利幅が大きいからだ。ただ、こうした強みのない仕入れ中心の店舗は「やはり大変だと思う」(同)とみる。

 実際、今回の送料課金への周囲の店舗の対応をみると、やはり"送料の値上げ"に踏み切る店舗が多いという。「競合店舗と普段から価格競争でチキンレースをしている店舗にとっては、数%の値上げだとしても痛いはず。アマゾンの真似をするのは構わないが、資金のため店舗から強制的に課金するのではなく楽天自身で増資するのが筋では」(同)。

 同氏は送料課金に関連して、楽天市場で最近行われた「購入画面の仕様変更」についても不満を漏らす。従来のデザインを一新しページ上部に商品代金と送料、合計金額をより目立つ形で記載するものだが、「送料無料」を目立たせたいのではないか、というわけだ。

 特に同氏が問題視するのが事前のアナウンス不足だ。決済手段が始めからクレジットカード決済に設定されているため、一部ではうっかり設定を変更せずに購入してしまった顧客から苦情が来ているという。「(仕様変更の)メールは事前に来ていたようだが、楽天からは大量にメールが来るため気づかない人も多い。仕様変更は店舗にもお客さんにも影響があることなので、もっと大々的にアナウンスすべきだったのでは」(同)と指摘する。

 同氏は12月一杯で契約を更新せず、「楽天市場」を退店する。以前「広告は買わない」と宣言してから、楽天のコンサルタントからの連絡はゼロになった。退店は決めたが、コンサルからは現在まで「何も反応がない」状態が続いている。

 多くの波紋を呼んだ今回の送料課金問題。こうした店舗の反応を楽天はどう受け止めるのか。(おわり)

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