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【揺れる景表法⑦ 沈黙するマスコミ】 メディアも取締りに萎縮、「経済警察」時代に逆戻りも

2019年 5月23日 13:15

 暴力的な破壊力を持つ「不実証広告規制」や広告掲載媒体の責任を問う健康増進法などは「表現の自由」との兼ね合いが問題視されるべきだろう。その役目を担うマスコミで報じられることは稀だ。何故なのか。

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 橫浜の日本新聞博物館。そこではメディアの自戒を込めて、戦時統制の歴史が展示されている。

 「『木炭需給統制崩壊、増産に奏功しながら規制の不備 運用の失敗から』の記事中、経済警察の注意事項に抵触する点あり、御注意をこうむり恐縮し候。今後取扱いに十分注意致すべく、始末書をもって申し上げ候」。

 1940年、河北新報社から宮城県知事宛てに出された「始末書」だ。

 注目は「経済警察」という単語だ。物価や物資等など国民生活全般への情報も統制が行われた戦中戦後、これに関わる言論違反を取り締まったのが、警察に設けられた「経済警察」だ。生活の隅々に至るまで、「経済警察」を理由に警察が介入、記事や広告をつぶす。予見性も低いため、当然に萎縮や忖度も避けられない。正に悪夢のような時代であろう。これを経て設けられたのが、一切の「表現の自由」を保証する日本国憲法21条なのだ。

 こうした経緯を鑑みれば広告にも、当然に「表現の自由」は含まれる。

 商業広告は生活情報として重要な意味を持ちうる。時々の興味や関心を映す鏡とも言えよう。それだけに、取締りの判断は慎重でなければならず、予見可能性が確保されなければならない。だが、消費者庁による景表法と健増法の「一体的運用」は、媒体社の萎縮を招いている。

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 「新聞社、雑誌社、放送事業者等の広告媒体事業者等も対象になり得る」。消費者庁は16年、誇大広告を規制する健増法の地方自治体への命令権限の移譲に際し、運用指針を改定。「何人も」を規制する健増法解釈に媒体責任を明記した。

 記載は、03年の同法改正時にも指針に盛り込まれるはずだったもの。当時は、日本新聞協会の強い反発を受けて削除。16年の改定時も同団体を含む6団体が「表現の自由」への影響を懸念し反対したが、指針に盛り込まれた。

 以降、消費者庁は、健増法を巧妙に使いつつ、広告審査を行う媒体社を通じて、川上から広告表示の是正を図ろうとしている節がある。

 権限移譲を前に、媒体社を集めて行われた説明会でも「『何人規制』を持ち出し注意喚起し、媒体社にプレッシャーをかけていた」(媒体関係者)。

 16年、トクホに対する健増法に基づく指導が行われた際は、新聞関係者が「(広告)審査をより厳しく変えなければいけない」と自粛を表明。一方で「『何人規制』は媒体に適用される可能性がある上、内容があいまいなため、運用次第で言論、表現の自由への影響が大きいと憂慮している」と、懸念を示していた。しかし、その後メディアでこの問題が大きく取り上げられた形跡はない。

 すでに形を変えた「経済警察」による「言葉狩り」は現実になってはいないだろうか。

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 今年3月、大阪府は、産業経済新聞社と販売店2社に、購読契約時の過大な景品を提供があったとして、景表法に基づく措置命令を下した。これを受け、産業経済新聞社は今年4月、自社紙面に謝罪広告を掲載した。そもそも新聞という主張や情報の質と量で差別化すべき商品を、景品で釣る姿勢が問題だ。

 一方明白なのは、新聞であれ、叩けば埃が出て景表法の取締りを受けるということだ。これはテレビも同じだ。08年、テレビ朝日はテレビ通販の広告が景表法違反の恐れがあると警告を受け、テレビ東京のグループは同法違反で排除命令(現在の措置命令)を受けた。当局の取締りを恐れて、最も重要な「表現の自由」の浸食に目を瞑っていないことを願いたい。

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 戦後、強力な権限を背景に汚職が蔓延した経済警察の存在について、ある専門家は「経済法規に通じておらず、そのために公平な検挙が行えず、国民は検挙に疑問を感じていた。『運が悪いものが捕えられる』という思想を植え付け違反の慢性化を招いた」と評した。

 今の景表法違反事件もメディアは一つひとつの事件を、じっくり吟味して報じている訳ではない。実際には消費者庁の発表を要約して、そのまま報道していると言えよう。

 特に、「不実証広告規制」での違反認定が増えている現状では、メディアによる監視は不可欠だ。報道機関こそが「表現の自由」の意味と重要性をもう一度考える必要がある。でなければ「経済警察」の時代に逆戻りしかねない。(つづく)
 
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