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コロナ禍こそやるべきことやる【髙田旭人社長に聞く ジャパネットの現状と今後】 通販で生産者支援、反響大

2020年 9月17日 12:30

 ジャパネットホールディングスが好調に業績を伸ばしている。コロナ禍による巣ごもり消費を背景に生活家電などの売れ行きが伸び、上半期(1~6月)の売上高は前年同期比で拡大している。一方で通販と両輪の同社の事業の柱として、昨年から本格展開し始めたスポーツ・地域創生事業にとって、コロナ禍は”逆風”で事業面では苦戦を強いられている。ただ、そうした中でも新しい試みを次々に開始するなど攻勢を強めている。同社を率いる髙田旭人社長にコロナ禍の中での事業の状況や今後の方向性について聞いた。
上半期の売上高昨対増で推移

 ――コロナ禍で事業にも影響が出ていると思う。上半期(1~6月)までの状況は。

 「事業面でいうとコロナはマイナスとプラス両方の影響が出ている。マイナス面では今年の春分から予定していたクルーズの催行を中止したため、お客様に販売していた売上額では約108億円がキャンセルとなった。また、当社グループのプロサッカークラブ、『V・ファーレン長崎』でも試合の中止などにより、恐らく今年は10億円近い赤字が出るだろうと思っている。ただ、それ以上にプラスの効果が大きい。”巣ごもり”や1人10万円の特別定額給付金の支給などにより、通販事業が伸び、上半期の全体の売り上げは(前年同期比で)増えているはずだ」

 ――売れ筋は。

 「全カテゴリーで伸びているが、特に動いているのは掃除機、炊飯器、寝具など家で使用する商品が非常に売れている。

 加えて、(一昨年6月から開始した天然水の製造から水および専用ウォーターサーバーの配送・設置、メンテナンスなどすべて自社グループで一貫して手掛ける)ウォーターサーバーの販売も非常に伸びており、生産が追い付かないほどだ。これも自宅で過ごされる方が増えたことなどによる需要増も大きいと思うが、当社としてもウォーターサーバーにはかなり注力して品質はもちろん、価格面でもかなり、がんばってきたので、それらが加わって売れ行き増につながっている」


「会社として強くなれた」

 ――コロナの感染拡大を受け、販売先が減少した生産者を支援する目的で各地の生産者から直接仕入れた食品をテレビ通販などで販売する取り組み「生産者応援プロジェクト」の成果は。

 「4月末からまず三重県の県産品から販売を開始して、以降は様々な地域の食品を取り扱い、累計で20万件以上の受注を受け、想像以上に反響が高かった。正直、収益面でいえば家電を販売した方がよいのだが、収益云々よりも困っている生産者の方に対して当社としてできることはないかと考えた結果だ。

 生産者応援プロジェクトを開始したのは緊急事態宣言が発令され、飲食店が一斉休業し、商品を納入できなくなった生産者が困っているというニュースを見たことがきっかけだ。出荷ができず、保存しようにも冷凍庫に入りきれずに破棄せざるを得ない、養殖魚も出荷せずにいると次が育てられないといった差し迫った状況に置かれている生産者の方々がいると知り、それから急ピッチで準備をした。当時は多くの社員が在宅勤務体制に移行しており、バイヤーもそうだったが、約20人のバイヤーと週2回オンライン会議を行い、緊急性の高い支援が必要な生産者はどこかなど話した。また、私も含むバイヤーなどのメンバーは取り扱う食品は実際にほぼ食べて、その商品は本当に競争力がある買う方も喜ばれる商品なのかなど、時間のない状況でもしっかりと話し合い、短期間で販売することができた。

 当時、すでにインターネット上では販路のない生産者の食品を販売することで支援する取り組みを行っているところはあったが、インターネットでの購入に馴染みのないお客様も多くいるので、当社がテレビショッピングでご紹介することでより多くのお客様にお届けできると考えた。

 また、やはりネット上の販売よりもテレビショッピングの方が、販売できる量が多い。それなりの在庫量を抱えていらっしゃる生産者も多かったのでこの取り組みの意義は大きかったのではないか。実際に生産者の方々から涙ながらに喜びの声なども頂き、本当に喜んでもらえた。それは本当に通販事業者冥利に尽きるというか、その言葉で当社の社員みな元気になった。限られた時間の中で形にできたということも含め、今回の経験を通じて会社としても強くなれたと思う。

 生産者応援プロジェクトはもともと7月末までと考えていたが、困っている生産者がまだまだいるので続けようと思っており、引き続き調査・準備を進めているところだ」


コロナで働き方に変化

 ――コロナ禍は働き方を変えている。

 「今までは集まる、通勤するということは当たり前で、みなそこは疑わなかったが世界は変わった。当社も3月末から在宅勤務を始め、4月から社員の半数以上がリモートワークとした。6月からは段階的にリモートワークを解消し、現状は月に2回、隔週月曜日を『リモデイ』として、原則、リモートで働こうという日を設けた。業務内容にもよるがリモデイは多くの社員が在宅で勤務している。

 また、リモートワークによって、打ち合わせや会議もオンラインがベースになった。各拠点にオンラインでの打ち合わせ用として周りを囲った1人席を用意したり、もともと導入していたテレビ会議システムを廃止してオンライン用テレビを全拠点合わせて50台以上導入したりしている。

 加えて、コロナを機に情報共有の大切さがわかったことは大きい。4、5月の原則在宅勤務期間中に木曜を除く毎日、午前9時から30分間にわたって『ユーチューブ』でグループ会社それぞれの役員や部門長が今、取り組んでいることやこれから取り組もうとしていることなど現状や方向性などを報告する全社朝礼の配信を行っていたのだが、社員からは『各社が取り組んでいることがよく分かった』『会社の動きを知ることができた』などの声が寄せられており、想像以上に直接的な情報共有が効果的だと実感した。

 それを受けて7月から新ツールを導入した。社員が個人の携帯電話に入れて使用するアプリだ。当該アプリ上で社員へ直接、伝えたい情報を発信できるようになった。例えば、このアプリでは私の場合は『旭人のつぶやき』というタイトルとなっているが、私を含む各社の社長たちが『ツイッター』のようにつぶやける機能があり、社員に考えていることを伝えることができる。

 また、このアプリを通じて、社員は給与明細なども確認できるようにした。便利なのはもちろんだが、そうなると『給与明細を印刷する・配布する』という仕事がなくなるなど効率化にもつながっている。

 このほか、社員を組織ごとに顔写真付きでプロフィールなどを見られるようにしており、例えば『趣味』を切り口に検索でき、好きなプロ野球チームで検索すると全拠点の『〇〇チームのファン』の社員が分かる機能などもある。試合中にファン同士でコメントを送りあったりしている。また、先日は新人社員の自己紹介動画をアプリ上で見られるようにした。そうしたことでコミュニケーションが始まるツールにもなっている」


 ――リモートワークを恒常化する事業者も出てきている。

 「先ほども申し上げた通り、会社への通勤という当たり前と思っていたこともコロナによってそうした常識が変化している。その時に会社としてコアにしているものを見失わないようなジャッジができるか。経営者としてそのバランス感覚が大切だと思っている。

 例えば、働き方として在宅勤務なのか、オフィスで働くのかという議論もそうだ。確かにコロナにより、リモートワークを導入せざるを得なくなり、不安ながらも実際にやってみた上での率直な感想としては『意外に問題ないな』と感じた。多くの企業もそうなのではないか。しかし、ではそれを受けて今後、リモートワークを恒常化するかというとそれは別途考えなければいけないと思っている。

 リモートワークを恒常化するのはある意味で簡単だ。ただ、時々の状況や会社として大切にすることを考える必要があると思う。もちろん、リモートワークのメリットもある。一方で完全に在宅勤務としてしまうことがよいことか。コロナ自体もそうだが、先行きに不安を持っている人もいると思う。そうした状況で、皆が常に顔を合わせない状態というのは危険ではないかと思っている。オンラインでも話はできるが顔を合わせる時間をどれだけ作れるかも大事ではないか。また、企業文化や一体感など大切にしてきたものを失ってしまうことになるのではないかと危惧するところもある。そのバランスを判断して、その判断基準をすべてオープンに社員に説明をする責任が経営者にあると思う。当社でも時々刻々と色々なことが変わる中で、様々な判断をしていくが、とにかく何を考えているかを社員には話していきたい」


コールセンター拠点は分散化へ

 ――コールセンターでも新しい働き方の取り組みを行っている。

 「コロナの感染拡大を受け、コミュニケーターの安全性を優先し、また、コールセンターの密集状態をなくすことに加えて、緊急事態宣言で休業せざるを得ず、苦しい状況のホテル業界の力になれればという想いから、福岡市内にある休業中のビジネスホテルを借り受けてコールセンターとして1人1部屋で電話対応業務を行う取り組みを4月27日から開始した。

 まずは福岡から開始したが5月末からは東京でもホテルを借り受けて福岡での取り組みと同様に顧客対応を行なっていた。

 現状、福岡では4棟のホテルでコールセンター業務を継続している。9月末で終了させる予定だが、分散拠点化は進めていく。これまで福岡市内のコールセンターは基幹センターと西新地区に設置した小規模な拠点で業務を行ってきたが、この度、新しい拠点を追加で借り、稼働させ始めた。これに加えて、10月からは250坪程度くらいの広さの拠点をあと3つ、稼働させるように準備を進めている。やはり、まだコロナが終息しない中で密な状態は避けたいし、従業員の通勤距離を短くしたい。コミュニケーターの住まいの最寄りにサテライト拠点を構えて通えるようなオペレーションに切り替える。

 なお、拠点分散化でスペースが空く予定の基幹センターにはインターネットやペーパーメディア(紙媒体)の制作部署やシステム部署の一部を各拠点から異動させようと考えている。大きな流れとして拠点は地方回帰が必要だと思っており、東京は縮小させ、福岡や長崎、佐世保など地方の拠点を増やしていくなど拠点戦略の見直しを行っていく」


スポーツ・地域創生事業の今後

 ――通販事業にとっては追い風だったコロナだが、昨年から本格化させたスポーツ・地域創生事業にとっては逆風だったのではないか。

 「本当に恵まれていることに我々の通販業界はコロナ禍の中で数少ないほぼ逆風を受けない業界だった。その中にいる我々がコロナだからと言って、スポーツ・地域創生事業について立ち止まるべきかと悩んだ。その上で、こういった時だからこそ、日本を、地元の長崎を元気付けたいと7月に新しい取り組みを発表した。

 ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(Bリーグ)への参入に向けて、長崎に初のプロバスケットボールクラブを立ち上げるという発表や8月7日に長崎市内で当社グループが運営管理する稲佐山公園で開催した『稲佐山音楽祭2020』などだ。

 コロナで先が見えず、立ち止まりたくなるが、幸いなことに通販事業を生業として前に進むことができる状態である我々は立ち止まらず、進むべきだという想いだ」


 ――2024年に完成予定で現在、長崎市内に建設中のサッカースタジアムを中心とした複合施設「長崎スタジアムシティ」の運営に携わる管理職の人材募集も7月21日から開始した。

 「当社が地域に、社会にできることは何だろうと考えた時に、コロナで人材の流動性が高まり、一方でその受け皿が減っている今こそ、おこがましいが雇用を生むのが我々のやるべきことなのではないかと思った。

 先を見据えて想いを持った人に良い機会を提供したいと。当然、当社にとってもよい人材を集めるチャンスでもある。募集はスタジアム、ホテル、アリーナなど各施設の事業責任者や行政折衝マネージャーや料理長など幅広いポジションを募っている。10人程度は採用したいと考えているが、人ありきで幅を持って採用したい。

 例えばホテル管理の責任者で本当に素晴らしいプロフェッショナルに来て頂いた場合、複数名を採用する可能性はある。その場合はひょっとするとスタジアムシティのホテルができる前に、長崎でホテルを経営するようなことも視野に入れている。同じく想いとスキルを持った料理人が採用できたら先に飲食店の運営をやってしまうかもしれない」


 ――ジャパネットグループでホテルや飲食店の運営に乗り出すということか。

 「コロナによって、長崎の経済にも逆風が吹いている。長崎の地域創生という観点で長崎のホテルや飲食店などが苦しくなり、そこをジャパネットが代わって行うことが長崎にとってプラスと判断すれば、参入するという選択肢も十分にあると思っている」
 
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