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アマゾン、新たな「協力金」要請<確約計画から1カ月> 納入価格引き下げ名目に新制度

2020年10月 8日 14:00

 公正取引委員会は9月10日、アマゾンジャパンが申請した確約計画を認定した。独占禁止法違反(優越的地位の乱用)の疑いで審査していたもの。アマゾンは、納入業者約1400社に総額20億円の返金を見込んでいる。だがその一方で、アマゾンは、納入業者に新たな「協力金」の依頼を始めている。
 




これまでより上がる負担額

 アマゾンが返金するとの報道に安堵したある納入業者は、アマゾンから届いた通知を受け取って「面食らった」という。「これじゃ上がっちゃうじゃんと。『BaseCOOP(以下、ベースコープ)』を引き下げるのは分かるが、結局、新しいものが加わっただけ」。この納入業者が明かすのは、新たに始まった「協力金」の存在だ。

 公取委による確約計画の認定を受け、アマゾンは、これまで納入業者に求めていた「ベースコープ」と呼ぶ「協力金」の契約を9月30日で終了することを通知した。「ベースコープ」は、アマゾンがウェブ上で集客のために行った広告運用や、顧客や納入業者の利便性向上に向けたシステム開発・改善の費用の一部の負担を取引先に求めるもの。取扱い商品等で異なるが、この事業者の場合、これまで取引金額の5%を請求されていたという。
 通知では、この契約を一旦は終了するものの、「取引金額の2%」に相当する新たなベースコープの支払いを依頼している。

「ベースコープ」は2%に引き下げ

 今回の独禁法違被疑事件で「優越的地位の乱用」の疑いが持たれたアマゾンの「協力金」は、(1)在庫補償契約(支払額の減額)、(2)販売目標未達の際の金銭補填、(3)共同マーケティングプログラム契約による負担金、(4)システム投資の協賛金、(5)過剰在庫の返品の5つ。「ベースコープ」は(3)や(4)にあたるとみられる。

 公取委によると、現時点で見込まれる返金額は、1400社に対する約20億円。約6割をベースコープが占める。ただ、システム投資や集客に向けた広告運用は、納入業者の売上増大にも寄与している部分がある。このため全額の返金は求めず、アマゾンが示した一定の基準を超える部分を返金する。妥当な協力金が仮に3%とすれば、5%支払っていた納入業者には「2%×3年分(確約計画で認定した対象期間)」が返金されるようだ。

 この事業者のもとにアマゾンから返金の連絡はない。とはいえ、ベースコープは、2%に引き下げられており、「それなら納得できる」とする。「面食らった」のは、これに続く「協力金」の依頼だ。

名目変わるも「結局同じ」

 「『ベースコープ』とは別に、コスト改善、掛率改善のご協力をお願いします。今後の取引において、取引会社から仕入れる全ての商品について、仕入価格(納入価格)を、一定の率引き下げることに、ご協力いただきたいと考えております。引き下げ方法は、別途『Cost Adjustment Rebate(CAR)』をお支払いいただくことも可能です」。名称に”リベート”とあるように、納入価格の引き下げを名目とした新たな「協力金」といえる。

 支払い方法は、納入価格の引き下げか、「CAR」の支払いの選択式。複数の商品カテゴリを扱うその事業者によると、カテゴリや事業者によって提示されている負担額の料率は異なるという。あるカテゴリで求められたのは、「取引金額の7・5%」。このカテゴリではベースコープが減額されても合算で増額される計算だ。

 ただ、通知は納入業者の管理画面である「ベンダーセントラル」を通じて依頼されており、「承諾ボタン」を押すか押さないかで意思を示さざるを得ない。「拒否できるのか、拒否すると発注に影響するのか分からない。見えない圧力に悩む納入業者が多いと思う」と不安を口にする。

 同様の依頼を受けた別の事業者も「どの程度の料率の引き下げを求められているか書かれておらず選択のしようがない」、「現実的な問題として納入価格を一斉に下げると採算が合わない商品が出る。『CAR』を選択するほかない」と話す。

 ある事業者の場合、納入価格に関するアマゾンとの交渉は、ベンダーセントラルを通じて行う。引き下げの要請があり、応じないと「発注書が出せない」と連絡がくるという。多くの商品をアマゾンで販売し、これまでも週に数十案件ほど納入価格の減額の要請を受けてきたが、アマゾンバイヤーに今後その要請がなくなるのかを聞くと、「それとは別物」と言われたという。「名目が違っても『CAR』が請求されれば結局は同じこと」と不満を口にする。

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 一方、今回、返金対象法人となった事業者は「CAR」について、「現時点で把握していない」とする。アマゾンと年間十数億円の取引があるこの事業者は、アマゾンから年数回、「割引補填」の要請を受けていた。当初、返金対象法人ではなかったが、公取委から「対象になるためアマゾンに伝えておく」と連絡を受けたという。ただ、「個人的に思うところはあるが、会社の判断として返金しなくていいと伝えた」とする。これまで家電カテゴリで2つのアカウントを持ち、「ベースコープ」を1%ずつ支払っていた。今回、1本化して2%支払うことになったという。

 「CAR」の要求は、商品や取引事業者で異なり、いくつかのパターンがあるとみられる。ただ、確約計画では、負担額の算定根拠を明らかにせず、「協力金」を求める行為を取りやめること、今後、これと「同様の行為を行わず、この措置を3年間実施すること」を約束している。名目を変えた「CAR」の要求は、「同様の行為」と言えないのか。アマゾンに返金や「CAR」要求の基準について尋ねたが、本紙掲載までに回答は得られなかった。



「事業者に舐められる」、制裁効果弱く違反恐れない

<「確約計画」の評価は?>


 競争上の問題について事業者と協調的に早期是正を図る。2018年末、TPP協定の発効を受けて独占禁止法に導入された「確約手続き」の趣旨だ。公正取引委員会は、この制度の「早期解決のメリットを宣伝したがっている」(独禁法専門の弁護士)という。ただ、「認定が目的になると問題解決が小出しになる」と指摘する。

 アマゾンは一定の基準を設け返金する。ただ、その基準は、「同様の事業を行う企業に”このラインまでは協力金を求めることができる”と誤認を与える」(公取委)として開示していない。

 対象企業は、一般論として取引依存度が低い企業、アマゾンが優越的地位にない大企業は対象外。一方、個別の事情を汲んで、公取委が指定もする。

 ただ、公表した認定の中身は不透明な部分も多い。「同様の事業を行う事業者、業界へのガイダンスにならないという批判がある」(前出の弁護士)。

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 今回、アマゾンと公取委が返金を見込む「1400社・20億円」にも「少なすぎる」と不満を口にする納入業者がいるが、「調査していない範囲まで広げて返金を求めるのは酷」(公取委)とする。また、「アマゾンも事業者から申し出があった場合に基準に照らし対応するとしている」(同)とする。

 ただ、前出の事業者は、「今後の取引を考えると表立って言えない」とする。

 対象期間が17年1月~19年12月の3年間であることも「短すぎる」との指摘がある。

 公取委も17年以前から今回、違反被疑行為とされた「協力金」の要請があったことは把握する。ただ、期間の区切りは、「決めの問題。長期の確認は労力がかかる。迅速処理の求めもあった」とする。

 独禁法は12月に改正法が施行される予定。課徴金の上限は、従来の3年から「10年」に変わる。期間は、改正前の3年を目安にしたとみられるが、前出の弁護士は、アマゾンが16年5月に合同会社を設立したことから「海外法人を含めた命令も行えるが手続きが面倒だったのでは」とみる。(公取委は否定)
              
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 最大の問題は、「事業者が舐めてかかること」と指摘する関係者もいる。公取委は17年、アマゾンが取引先に求めていた「最恵国待遇条項」をめぐり、立ち入り検査を行った。ただ、条項撤廃という自発的措置を受けて審査を終了している。「事業者からすれば、適当な”お土産”を持たせればよいと違反行為を恐れなくなる」(前出の関係者)。実際、確約手続きを通じて、アマゾンは「協力金」のラインで公取委の”お墨付き”を得たとみることもできる。

 公取委も「この料率であれば払うメリットがあるというラインを引き、今後はそれを求めていくのでは」とする。「任意なので賛同しなければ払う必要はない」とするが、「見えない圧力」に頭を悩ませる事業者が少なくないことは、すでに触れた。

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 EUは、昨年、グーグルに独禁法違反で1900億円の制裁金が課し、訴訟に発展している。「事業者側も適正な是正措置を取らなければと恐れる。日本は、実質的に『優越的地位の乱用』くらいしか課徴金がかからず、額も小さい。裁判で判例が示されれば周辺事業者へのガイダンスにもなり、自らの事業を見直す機会になる」(前出の弁護士)。

 「イノベーションを阻害せず」というスタンスとセットで進むプラットフォーマー規制だが、玉虫色の決着は公正な競争環境の維持に悪影響を及ぼす可能性もある。


 
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