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【トクホ 終わりの始まり 3 消えた「機能性食品㊥」】

2021年 4月15日 12:30

薬に加え栄養サイドも抵抗

 大胆で先進的なコンセプトを打ち出した「機能性食品」。しかし、社会実装へ向けた制度化の検討過程で「骨抜き」が続く。背景には薬機法の大きな壁があった。さらに食品サイドには、内にも強い抵抗勢力が存在していたのだ。

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 89年の「機能性食品懇談会」の中間報告で「機能性食品」の範囲を通常の食品形態(明らか食品)に限定する方針が示され、業界は大きく落胆する。

 健康食品の主流であった錠剤・カプセルの製品が一律に排除されたショックに加え、そもそものコンセプトを破壊しかねないルールメイキングだからだ。

 機能性食品の定義では「体調調節機能を生体に対して十分に発現できるように設計し、加工された食品」となっていた。

 つまり、体内で機能を発揮することに重点が置かれていた訳だ。しかし、剤型を「明らか食品」に限ることで、機能を発揮できる充分な量の成分を含有させることが技術的に難しくなる。また、継続的に摂取させて、十分に機能を間違いなく出すことにも黄信号が点る。効果を期待して同じ食材、例えばソーセージを毎日食べる人はいなかろう。機能性食品が最も効果を発現するための剤型の可能性が閉ざされる訳だ。

 その後、具体的な制度化プロセスのために90年3月から開催された「機能性食品検討会」において、さらに見事なまでに換骨奪胎される。

 最も象徴的なのは「機能性食品」という名前が「特定保健用食品(トクホ)」に変更されたことだ。

 これは何とも奇妙で珍妙な造語である。

 「特定」とは「特にそれを指定すること」(広辞苑)で「保健」は、「健康を保つこと」(同)。「特にそれと指定した健康を保つ食品」という、何やらよく分からない代物だ。

 定義(別掲)も「健康」や「保健」が散りばめられている。この2つは同義語であり、意味がわかりにくい。そもそも食品は健康のために摂るものであろう。

 「生体防御、体調リズム調節、疾病の防止と回復等に係る体調調節機能」をコンセプトに掲げた「機能性食品」は名前と共に検討の過程で姿を消した。

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 マジックの種は薬機法だ。医薬品の定義の第二号「人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている物(略)」と第三号「人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物(略)」が立ちはだかった。

 医薬品の定義をテコに「疾病や機能という言葉は絶対に食品の定義や名称には使わせないというのが薬務課のスタンスだった」(厚生労働省OB)。

 報告書にあるトクホ制度化にあたっての配慮事項にも「薬務行政との整合性」がわざわざ記載されており、薬サイドの圧力の強さを示している。

 厚生労働省内で食品部局と薬務部局は旧来から犬猿の仲で、それぞれ4階と8階に部局があったため「48(ヨンパチ)戦争」と評されていた。

 ただ、法律的には薬機法が食品衛生法に先行して成立している。このため今もなお医薬品か否かの判断は薬務部局が「有権解釈」可能で食品の機能性の位置づけは、なお難しいスタンスを強いられている。

 機能性食品がトクホに矮小化された原因は、食品サイドに「内なる敵」がいたことも大きかった。リードしたのが「栄養」グループである。それを具体的に示すのが先の配慮事項に残された「食生活の改善に寄与し、国民の健康維持増進に役立つ」「食品又は食品成分と健康のかかわりに関し、医学・栄養学的に正しい知識を提供する」という文言だ。

 一見すると、問題ないのが罠だ。これをテコに、食品である以上、「機能(三次機能)」だけでなく、「栄養(一次機能)」と「感覚(二次機能)」も、兼ね備えるべきというロジックが生まれる。

 「栄養」のカテゴリーを「機能」が侵犯することを嫌った訳だ。

 つまり、(1)栄養があり(2)美味しくて(3)健康への働きがあるものが「特定保健用食品」なわけだ。無理筋であろう。

 薬だけでなく、栄養サイドが強く抵抗したことで、「機能性食品」は、蜃気楼の彼方へ消えた。(つづく)

 
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