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広告主への執行強化<アフィリエイト広告規制> 「供給主体性」解釈明確化で厳正対処

2021年12月 2日 13:00

 消費者庁は、「アフィリエイト広告」の規制をめぐる検討で、広告主の責任の周知を図り、景品表示法の執行を強化する。販売者・製造者にとどまらない、商品・サービスの「供給主体性」の解釈を明確化。一体的な事業活動が認められる関連事業者も規制する。一方で、”何人規制”など法改正を含む規制対象の範囲拡大は、見送られる公算が大きい。
 




 11月26日開催の「アフィリエイト広告等に関する検討会」の第5会合で、アフィリエイト広告規制の方向性が示された。消費者庁は、12月23日開催の会合で報告書案を提示。委員の合意を得られれば、年内から年明けに報告書をまとめる。

 アフィリエイト広告規制は、(1)問題のある広告に対する執広告の管理強化(未然防止)、(3)関係者による情報共有体制の構築の観点から行う。

海外ではASP等への措置例も

 広告規制は、欧米に先行事例がある。米国は、連邦公正取引委員会が連邦取引委員会法(FTC法)で不当表示等を規制する。対象は「人、パートナーシップ、企業」などいわゆる”何人規制”。訴訟提起による広告差止め、是正措置や制裁金、行政措置がある。

 健康食品の減量効果表示をめぐり、アフィリエイト・サービス・プロバイダ(ASP)が広告主、アフィリエイターらとともに処分された事例がある。ASPがアフィリエイターの行う欺瞞的な表示を”知っていた”ことなどから判断。同様に広告の最終的な承認・修正権限を有していることで、広告主が責任を問われた事例もある。

 英国は、英国競争市場局が不公正な取引方法からの消費者保護規則(CPRs)で不当表示等を規制する。対象は、トレーダー。基本は広告主だが、委託を受けてフェイクレビューを行った広告代理店など、消費者と直接取引関係にない事業者も対象になりうる。裁判所を通じた措置命令や確約により対処。ASPを対象にした確約事例もある。広告主の責任は、米国同様、確認・修正権限がある場合や、テーマ、投稿日時・回数の指示等から判断される。

「供給主体」解釈明確化で執行強化

 諸外国と異なり、日本の景表法は、その規制対象を商品・サービスの「供給者」に限定する。

 アフィリエイト広告は、広告出稿プロセスにASP、アフィリエイターが絡む。このため、責任逃れをする広告主がいた。ASP、アフィリエイターにも遵法意識が醸成されにくい面があった。

 ただ、消費者庁は今年に入り、連携共同して事業活動を行うなど、実態を重視した法執行を行う。今年3月には、広告素材の提供、内容の合意など確認・修正できる権限があることを前提に、アフィリエイト広告を対象に初めて広告主の責任を認定した。11月には、インスタグラム投稿のハッシュタグ等を指示していたとして、共同で事業運営していた販売者、実質的な業務を受託していた2社を景表法で処分した。

 消費者庁は、「供給主体性」の解釈の明確化、周知を図り、意図的に問題ある表示を行う広告主、共同で事業活動を行う事業者も対象になりうるものとして法執行する。対象は、いわゆるASPだけでなく、プラットフォーマーに及ぶ可能性もある。

 ただ、景表法の措置は、「優良・有利誤認」の表示是正にとどまる。法人の清算・設立により、違反行為を繰り返す事業者もいる。特定商取引法の業務停止命令、個人を対象にした業務禁止命令を活用しつつ、規制の実効性を確保する。

「何人規制」など法改正は見送りか

 一方、「何人規制」など、景表法の規制対象の範囲を拡大する法改正は見送られる公算が大きい。検討会でも学識経験者の委員から「景表法の措置は表示是正など限定的。柔軟な措置が可能な海外法と異なるため、措置内容の議論が必要」との指摘があった。消費者サイドの複数の委員も業界自主規制の先の将来的なステップと捉え、今後の検討課題として継続的な議論を求める。

”外部委託”の管理指針追加へ

 未然防止の観点から、意図的とは言えないものの問題のある広告を行う事業者は、景表法第26条「事業者が講ずべき表示管理上の措置」の運用強化で対応する。同条は、メニュー表示偽装問題を受け、景表法の14年改正で導入。消費者庁は、コンプライアンス体制の構築に向け、社内に「表示管理責任者」を設置することなど、具体的な措置を指針で示す。

 ただ、現行の指針は、社内体制の整備が中心。アフィリエイト広告など第三者投稿の「外部委託」の管理措置の詳細は示されていない。検討会と並行して行った実態調査でも、企業間で管理にばらつきがある実態が浮き彫りになっており、指針を改訂して充実を図るとみられる。

 消費者サイドの委員からは、広告データの保存、問題のある広告を確認した際のアフィリエイターに対する是正要請・委託契約解除等の措置、苦情対応窓口の設置などを求める声がある。また、アフィリエイト広告に「対価を得た広告である旨」の表示も検討される。

 膨大な数の広告のデータ保存は、企業のコスト負担が大きい。また、ASPには、広告主を直接関与させないことで信頼性を担保するなど、広告主の管理に限界があるものもある。一律の措置ではなく、実効性を踏まえ慎重な検討を求める意見もあった。

官民で情報共有体制構築を検討

 情報共有体制の構築では、機能としてASP等による業界自主ルールの策定、広告データの保存・共有、悪質な広告主の共有・排除等の役割を求める声があった。膨大な数のクリエイティブ審査に限界があり、悪質広告主の判断は独占禁止法違反のおそれもあることから、官民連携による共同規制の枠組みを求める意見があった。

 「供給主体性」の解釈周知による広告責任の明確化は、すでにプラットフォーム規制でも言及されている。ウェブを中心に広告・マーケティングの複雑化が進む中、さまざまな立場から広告に影響を与える事業者に対する規制は今後も強まることが予想される。


悪質層はごく一部

過剰規制に慎重論、情報共有カギ

<広告主の表示管理強化>

 消費者庁の「アフィリエイト広告等に関する検討会」では、適切な表示管理を行う広告主の負担増の懸念から、表示管理措置等の設計に慎重な対応を求める意見もあがる。

 消費者庁が、2万人を対象に行ったアンケート調査では、アフィリエイト広告を「知っている」と回答した約1万1000人のうち、商品を購入する上で「大変参考になる」「ある程度は参考になる」との回答が36%あった。18%が広告を通じて「商品・サービスを購入したことがある」と回答。このうち「満足している」「ある程度満足している」と回答したのは約86%だった。

 ネットを利用すると答えた約2万人のうち、約88%が第三者の体験談、くちコミ、レビューを「大変参考になる」「ある程度参考になる」と回答。一方、企業から報酬を得て書かれたものである場合、「大変参考になる」「ある程度参考になる」との回答は約34%まで減少した。

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 検討会では、委員が「34%まで減少したのは、報酬を得ている広告と知らない人がいることを示す」(池本誠司弁護士)と指摘。「対価を得ている広告」の明示を義務化を求める。調査でも「広告と分かるようにしてほしい」との回答は、約87%あった。

 一方、「迷惑メール規制にオプトアウト規制を導入した時も『※未承諾広告』と記載するよう求めたら、悪質事業者から注記のついた広告がどんどん送られるようになっただけ。『広告』と表示したら悪質なアフィリエイトがなくなるかといえばなくならない。むしろ積極的に表示するだけ」(万場徹日本通信販売協会専務理事)など、慎重な対応を求める意見があった。事業者への調査でも「努力義務では表示しない者が得をする。法的義務にしてほしい」(ASP)などの声があった。

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 アフィリエイト広告は、約1万1000の広告主が利用し、広告数は約600万サイトあるとされる。

 問題が多い健康食品、化粧品関連では、広告主が数百から数万の提携サイトを管理する。データ保存は技術的に可能だが、細部の変更も含め頻繁に内容は変更されるため、保存データ量やコストが膨大になり、個々の事業者では限界がある。媒体社やプラットフォーマーも巧妙に大量の不適切な広告を出稿する事業者への大量に苦慮している。消費者が誤認したあとで変更される可能性もあり、広告主、ASPが問題のある広告を特定することも難しい。

 国民生活センターの「PIO―NET」に寄せられた通販の定期購入トラブルの相談件数は、約5万件のうち相談数の多い10社で全体の約半分を占める実態が明らかになった。意図的に悪質なアフィリエイト広告を運用する広告主、ASPはごく一部。表示適正化には、法執行と情報共有体制の両面から悪質な広告主の排除を進める必要がある。

 ただ、情報共有体制を構築しても、「膨大な数のクリエイティブ審査は限界。悪質事例が蓄積され、判断する頃には十分な売り上げをあげ、別の顔で取引を始める」(日本インタラクティブ広告協会・柳田桂子事務局長)。官民連携で機動的な対応が行えるかがカギになる。
 
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