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三者三様で存在感を発揮へ<ファッションECモールのOMO支援策は?>

2021年12月 8日 10:30

 ファッションECモール運営企業が取引先ブランドのOMO支援に乗り出している。コロナ禍でECシフトが加速し、リアル店舗の価値が変化しつつある中、アパレル業界では大手を中心にOMO戦略を具体化する動きや、中期経営計画の柱のひとつに掲げる企業が増えている。そうした取り組みは店舗と自社ECが軸になるだけに、これまでファッションEC市場をけん引してきたECモールとしては、それぞれの強みを生かしたブランドのOMO支援をフックに存在感を一段と高めたいところだ。注目モールの取り組み状況を見ていく。

 



取り置き機能で実店舗に送客も

ZOZO


 ZOZO(ゾゾ)は、11月1日に「ゾゾタウン」とブランド実店舗をシームレスつなぐOMOプラットフォーム「ZOZOMO(ゾゾモ)」を始動した。新サービスとして、「ゾゾタウン」上でブランド実店舗の在庫確認と在庫取り置きができるサービスを始めたほか、ブランド店舗スタッフの販売支援ツールとして「FAANS(ファーンズ)」を開発した。

 「ゾゾタウン」上でブランド実店舗商品の在庫確認と取り置き注文ができるサービスは同日にスタート。ユナイテッドアローズやシップスなど大手セレクトショップをはじめとするブランドの店舗在庫が分かるほか、店頭に在庫のある商品は取り置きを依頼できる。

 普段からカタログ代わりに「ゾゾタウン」を利用して服などを探している消費者にとっては、企業やブランドの枠を越えて気になる商品の店頭在庫が確認できる。ECで服を買うことに抵抗のある人も、店頭在庫を確認した上で取り置きを依頼でき、実店舗で試着をしてから店頭決済となるため、安心して買い物ができる。

 当該サービスに参加するブランドにとっては、ゾゾユーザーを実店舗に集客できるほか、リアルの接客を行うことで合わせ買いなども期待できる。

 ゾゾにとっては、顧客の購買行動が「ゾゾタウン」からアパレル実店舗に移る可能性があるものの、店舗在庫を表示したり、取り置きに対応する「ゾゾタウン」の便利さをより多くの消費者に知ってもらうことで、「長期的な視点ではトラフィックの拡大に寄与する」(澤田宏太郎社長兼CEO)とするほか、取り置き商品が店頭で購入された際にブランドから手数料も得られる(※スタート時は手数料無料)。

 取り置きサービスは、利用者が「ゾゾタウン」で取り置き注文のボタンを押すと、店頭販売員の「FAANS」アプリに知らせが届く。販売員は取り置き注文の入った商品を確保し、確保済みボタンを押すと「ゾゾタウン」を経由してユーザーに通知が届き、二次元コードも発行される。利用者が来店したら販売員は「FAANS」アプリで二次元コードを読み取り、当該ユーザーが取り置きした商品に間違いがないか確認する流れだ。

 サービス開始時の対象ブランド数は非公開だが、全国で約700店舗が対応。今後は参加ブランドと対象店舗の拡大を図り、長期的にはすべての「ゾゾタウン」出店ブランドへの導入を目指す。

 「ゾゾタウン」上で店頭在庫の確認と取り置きができるサービスでは、百貨店との取り組みも実施した。

 阪急うめだ本店で11月17~22日に開催されたD2Cブランドのポップアップショップを集めたイベント「マイクリエイターフェス」にゾゾのD2C事業「ユアブランドプロジェクト パワードバイゾゾ」として初のポップアップを出店した。

 その際、D2Cブランドの一部が参加して店舗在庫取り置きサービスと、イベント会場で商品在庫が欠品した際に販売スタッフが丁寧な接客で「ゾゾタウン」での購入を案内する”エンドレスアイル”を同時に実施することで、販売チャネルの垣根を越えた相互送客にも取り組んだ。

コーデ投稿の機能等も実装

 一方、ショップスタッフの販売を支援する「FAANS」は、「ゾゾタウン」で実店舗の在庫取り置きを希望したユーザーへの対応を、ショップスタッフが「FAANS」上の簡単操作で完結できる機能からスタート。今後は、同ツールを通じたコーディネート投稿機能や投稿コーデ経由の売り上げを可視化する機能の追加を予定するほか、ライブ配信やオンライン接客機能などについても検討する。

 また、「ゾゾモ」のプラットフォームには2019年5月に始めた「フルフィルメントバイ ゾゾ」も含まれている。同サービスでは、「ゾゾタウン」の在庫とブランド自社ECの在庫を一元管理することで、欠品による販売機会の損失を最小化できる。

 今後、「フルフィルメント バイ ゾゾ」を利用するアパレル企業が店舗在庫表示と取り置きサービスにも対応すれば、ECチャネルの在庫がなくても実店舗に送客できるため、販売機会ロスはさらに低減できるという。



店とEC“いいとこどり”

楽天・東急

 楽天グループと東急、両社の合弁会社、楽天東急プランニングは11月11日~12月1日、楽天が運営するファッション通販サイト「Rakuten Fashion(楽天ファッション)」のOMO型ポップアップストアを、東京・渋谷の商業施設「渋谷スクランブルスクエア」5階に開設した。ビームスやユナイテッドアローズなどの大手セレクトショップを中心に約30ブランド、180商品を展示。商品に付いたQRコードをスマートフォンで読み取ると、楽天ファッションに移動し、商品を購入できるようにした。

 楽天でファッション分野を統括する、松村亮執行役員コマースカンパニーヴァイスプレジデントは「ECは『誰が何を買ったか』『何に興味があるか』を把握できるのが強みだが、ファッションを買う場合、サイズの問題や色・素材が確認しづらいという課題がある。技術の進化で以前よりはウェブでも対応できるようになったが、依然として『実際に着てみたい・見てみたい』という要望は強い。一方で、実店舗は『誰が何を買ったか』『何に興味があるか』は把握しづらいが、知識や経験豊富な販売員がおり、リッチな顧客体験を提供できる。今回のポップアップストアはオンラインとオフラインの”いいところどり”をしていきたい」と店舗のコンセプトを説明。ターゲットは20代後半~30代女性となっている。

 具体的には、楽天ファッションのビッグデータを参考に、顧客層に合致した特集テーマを決定。それに沿う形でトレンドの人気商品を選び、最終的にはスタイリストが販売するアイテムを決める。また、東急百貨店のスタッフによる、商品説明やスタイリングなどの接客もポイントとなっている。

 ECと実店舗の相互送客に関しては、楽天IDと楽天ポイントを活用。事前にエントリーした上で来店すると、楽天ポイントが貯まる仕組みも導入する。さらには、楽天IDと位置情報を使い、ポップアップストア近辺にいる楽天ユーザーに店舗の存在を周知する。

 今後の楽天におけるOMO戦略について、同社の松村執行役員は「リアルでの購買体験は全てがオフラインでカバーできるわけではないので、新しい顧客体験を作っていくのは大きなテーマ。ただ、当社だけでは実現できないので、今回の東急のように、オフラインに強い企業と組むことで作り上げていきたい」と展望を述べた。

 今後は紳士靴や寝具、家具など、体感が重要な分野でも同様の取り組みを検討する。クロスユースによる「売り場の顧客体験向上」を目指し、まずはファッションをテーマに実験した上で、他の分野にも広げていきたい考えだ。

 近年、楽天ファッションは流通額を大きく伸ばしている。11月11日に開催された楽天の第3四半期決算説明会で、三木谷浩史社長は「ジャンル戦略がうまくいっており、特に楽天ファッションは絶好調だ」と述べた。

 松村執行役員も「以前は、ファッションブランドにとってECは『ゾゾとその他』だったが、今は『ゾゾと楽天』になった」と手応えを口にする。OMO戦略の強化により、楽天ファッションの存在感をさらに高めたい考えだ。




店舗在庫活用型ECで成長

三井不動産

 三井不動産は、運営する商業施設と三井ショッピングパーク公式通販サイト「アンドモール」との連携を深めている。この数年は実店舗の在庫をECで販売する”店舗在庫活用型EC”の仕組みに賛同して「アンドモール」に出店するショップも増えており、11月8日には店舗在庫活用型モデルでカジュアル衣料品ブランドの「ユニクロ」が参加するなど成果も出てきている。

 2017年11月にサービスを開始した「アンドモール」は、出店ショップに新たな販売機会を提供する”リアル施設共生型EC”が特徴。「アンドモール」では各商品の店舗在庫情報を確認できるほか、購入した商品は自宅配送だけでなく、運営する商業施設内のサービス拠点「アンドモールデスク」で商品の受け取りや試着、返品・交換などが可能だ。

 EC購入時のハードルとなるサイズ感などの不安を解消でき、また、商業施設で買い物をするついでにサービス拠点に立ち寄れる利便性や、送料も返品手数料もかからないことから、「アンドモールデスク」の利用者は年々、増えているという。

 また、複数ショップの購入前商品をまとめて試着できるサービスについても今年3月、ららぽーとTOKYO―BAYに開設した「ららぽーとクローゼット」で始めた。

 当該サービス拠点は「アンドモールデスク」の機能に加え、ウェブ試着予約サービス、3Dボディ計測とファッションアドバイスサービス、キッズスペース、カフェラウンジなどショッピングにまつわる周辺機能を集約したもの。

 ウェブ試着予約は、同施設に出店中の店舗以外にも、通常はECチャネルで展開するブランドも誘致。小さい子どものいるママなどが隙間時間にウェブ上で試着したい商品を探して予約し、購入前に試せるようにした。

 一方、この数年は、ららぽーとに出店しているショップが店舗在庫活用型ECの仕組みを利用するケースが増えており、「ユニクロ」が外部ECモールに初めて参加したのも、店舗在庫を販売できる仕組みがあったからだ。

 この仕組みを活用すれば、「アンドモール」の出店ショップは店頭販売商品と別にEC用の倉庫、商品を持つ必要がない。

 「アンドモール」ユーザーの注文内容は各店舗に設置された専用のタブレット端末から、店舗スタッフが注文確認画面で確認し、注文の入った商品を店舗内でピックアップ。配送伝票や納品書、梱包資材といった必要書類などはららぽーとスタッフが店舗まで届けるため、店舗販売員は商品を梱包して運送会社に渡すだけだ。

 「アンドモール」の店舗在庫活用型ECにより、これまで店舗ごとにバラツキのあった在庫リスクがEC注文で低減できるほか、繁閑差などの懸念も減ることで長期的な店舗運営が可能になるといった効果が見込まれるという。

 また、配送先に近い店舗から購入商品を発送することで、配送にかかる時間や費用、CO2排出量の削減にもつながるほか、出荷拠点の分散によって出荷集中時の倉庫負荷を軽減できる利点もあるとする。

 三井不動産では今後もECチャネルと商業施設が一体となって、消費者に新たな購買体験を提供していく。


 
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