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狙いはステマ規制か、「規制の範囲」重要課題の可能性

2022年 3月31日 13:00

 消費者庁で景品表示法の見直しが始まった。広告が売り上げを大きく左右する通販にとって、景表法は最も注意すべき法令で、その結果は事業活動に大きく影響する。しかし、消費者庁が選んだ委員は法学者や弁護士が中心で、通販事業者はおろか業界としての意見さえ表明できない状況だ。これを踏まえ、本紙では景品表示法に詳しい業界識者を集め、「景表三人衆」を結成。消費者庁が行う「景表法検討会」が終了するまで、検討会での議論や内容の検討と解説を行い、連載で並走することとした。消費者庁の景表法検討会、さらに業界内、企業内で同法の理解と議論が深まる一助になれば幸いである。

 
ステマ、くちコミ強い問題意識

 ――アフィリエイト広告検討会を2月に終えた直後に景表法の検討会。受け止めは。

 次郎「寝耳に水。全く事前情報がなかった。アフィリエイトの規制を検討している流れから次はこれでやると決めた感じはする」

 三郎「アフィリエイト広告をじっくり検討し、報告書は従前からの責任主体を整理告知した。業界としては『やれやれ』と思っていたところに本丸の見直しだ。これはやる気だ」

 ――狙いは何か。

 太郎「一回目の委員のコメントは幅広で見えづらいが2つあると思っている。一つは『規制の範囲』。ステルスマーケティング(ステマ)の問題は確実に出てくると思う。供給主体・表示主体の制約から第三者投稿は景表法から切り離される。新しい問題に対処できていませんね、となる。今は野放しだが、何法で規制するかという時に景表法が手を挙げることは考えられる」

 三郎「もう一つは『制裁強化』。景表法は課徴金が3%。昨年新たに導入された薬機法の課徴金は4・5%。また課徴金はこれまで72件に命じられた。1億円以上は8件。欧米の規制などを踏まえ、もう少し算定率を引き上げ、制裁効果を強めてもという話は出てきてもおかしくない」

 ――先の検討会でもステマやくちコミレビューに対する問題意識は出ていた。

 次郎「それらを含めた検討となると分野を一つに絞るのではなく『景表法検討会』でということなのだと思う」

 太郎「2月末には消費者委員会に『デジタル化に伴う消費者問題ワーキング・グループ』も設置された。そこでもデジタル広告に関する問題意識はかなり出ている。広告手法が不特定多数から特定多数に訴えるように変わった。景表法がこれに追いついていないとの指摘もある。消費者委のWGではひどいステマやレビューについて、発信者を特定する開示請求権を設けてもよいのではという意見さえ出ていた」

 三郎「双方向性はネットの特徴で利点。星の数あるものを規制できるかという話になる。ただ、『いいかげんにしてください』という広告、ステマはあるわけで業界イメージも悪化する。うまく規制してほしいという思いはある」

デジタル化進展で責任主体変化

 ――「規制の範囲」の最近の運用はどうか。デジタルプラットフォーム(DPF)の責任が問われたアマゾンの二重価格表示問題、アフィリエイト広告について広告主の責任が問われた。

 次郎「アマゾン裁判は、現行の景表法においても表示主体・供給主体の面から責任を求めることが可能ではないかという事件。判決もかなり厳しいことを言っている。要するにDPFを構築したアマゾンには消費者の誤認を排除する責任があると判断している。そうなると、掲載商品すべての責任を負わなければいけない」

 三郎「一つでも不当な二重価格表示があれば有利誤認でアマゾンも連座。これはたまらない」

 太郎「10万社から出品者がいるのに、チェックできない」

 ――アフィリエイト広告など第三者投稿に対する広告主の責任も重くなっている。

 三郎「実態としてどこまでやれるかだ」

 次郎「T.Sコーポレーション(昨年3月に処分)は、広告主による関与が深かった。チェックも何もしないということであれば広告主が責任を負わせることは現段階で難しいのでは」

 ――「白紙委任」なら行政も手は出せない。

 次郎「景表法の建付け上はできる。けれど関与の度合いが薄い場合の線引きは、先例があまりないのでよく分からない」

 ――2月の報告書は「白紙委任」を含め広告主の責任を周知するものでは。

 三郎「事件化には表示主体・供給主体のハードルがある。アフィリエイト広告と広告主が一体であると認定できなければ、裁判に持ち込まれて負ける可能性もある。いくら”処分する可能性がある”とけん制しても、事件化のハードルは高い。法改正で最適解を導くつもりに思える」

 ――アフィリエイト広告規制の報告書はどう受け止めた。

 太郎「もともと26条(表示管理義務)があるのだからきちんとしてくださいね、というメッセージだと思う。管理せず好き勝手やらせているものは取締まるという警告と受け止めた」

 次郎「難しいのは関与したら”見たよね”と言われ、放置していたら”放置したね”と言われる」

 太郎「まじめに関与すればするほど、責任を問われる可能性が高い」

 三郎「現場は一体どうしたらよいか困惑している。現状ではセーフティーゾーンが分からない」

 太郎「表対課の幹部からは”わざわざそんなコントロールしにくい広告手法を選んだのはあなた方でしょ。だったら止めればいい”と言われた」

 三郎「ステマもそうだが、一部の事業者がアフィリエイトで景表法規制の隙間を悪用している側面は否定できない。確かにおっしゃる通り。今の法体系では行政も非常に手が出しにくい。悪質なものを排除し、真っ当な事業者への影響を最小限にとどめる。規制強化のジレンマだ」


規制の課題は「立証」のハードル

 ――ステマは、やらせか否かの立証が難しい。

 次郎「”うちの従業員が行っていました。ごめんなさい”と自白してくれれば簡単。インスタグラム投稿の処分事例もあり、現行法で十分対処できる。ただ、現行法はアフィリエイターのように供給主体でない者の責任は問えない。どちらを狙うのか、ということになるが、広告主以外を規制するには法改正が必要になる」

 三郎「あまり踏み込みすぎると憲法で保障する『表現の自由』に抵触する。憲法で規定する公共の福祉や公序良俗もあり、広告すべてで『表現の自由』と主張するのは難しい。

 ロシアのウクライナ侵攻でもフェイクニュースがある種武器として使われている。特に報道を装うものは手を出しにくい。デジタル化が急激に進んだなかで新しく難しい課題だ」


 ――海外の景表法にあたる法令は何人規制運用されている。

 太郎「薬機法に『何人規制』はあるが、事件化するには、警察がアフィリエイターと広告主の一体性を捜査する必要がある。いまはオレオレ詐欺の対応で手いっぱいで、暇ではない」

 ――規制の範囲の議論になると影響は大きい。

 三郎「1962年の景表法制定時には、電通はじめ広告業界が強く反発した。これを受けて現行法は媒体社の責任を問わないスキームになり、表示主体・供給主体という複雑な建付けになっているのではないかと思う。ただ、社会環境も変化して広告手法も複雑になる中、これまで同様の考え方でよいのかを問われている」

 ――何人規制のように全部に網をかけることは条文上可能か。

 次郎「ただ、そうなると景表法が景表法でなくなる。そもそも景表法は各業法で拾えない”隙間案件”を拾う受け皿と教わってきた」

 三郎「上から全体に網をかけるというより、下で受け皿になるということか」

 次郎「そうなる。でも今の議論はどちらかといえば上にかけようとしている。各業法でカバーできないものを是正するのが原点なので、なんでもかんでも一番に手を挙げる法律じゃない。ただ、消費者庁に移管され、消費者法になってから変わった面がある」

 三郎「ただ”受け皿”という性格上、隙間事案のアフィリエイトやステマは、取り締まりたい類型だ」

 太郎「DPFは透明化法、消費者保護法もできた。独禁法でもかなり絞られて、さらに景表法もとなると反発は強い」

 三郎「何人規制となれば媒体はかなり委縮する。特にプラットフォーマーは、嫌がるだろう」


景表法改正のための布陣

 ――検討会委員の人選や事務局運営についてはどう考える。

 三郎「法改正のために南さん(南雅晴表示対策課長、昨年7月着任)を連れてきたとしか思えない。法改正ともなると国会議員をはじめ関係各所に、丁寧な説明が必要になる。加えて、『規制の範囲拡大』ともなれば広告業界も強く抵抗。プラットフォーマーは、米国大使館や在日米国商工会議所も担ぎ出して、ロビーを仕掛けるだろう。エース級の人材じゃないと難しい。前回改正から5年の節目もあり、念頭に置いた就任だと思う」

 次郎「南さんは物腰も柔らかいし部下からの評判もいい」

 太郎「国民生活センターの理事長が山田昭典さんであるということも大きい。公取委の前事務総長で景表法を熟知している。天の時、地の利、人の和という条件が揃った中で、難しい法改正に乗り出した感じはする」


 ――検討委員については。

 次郎「座長はアフィリエイト広告の検討会と同じ。だから続きみたいなものですね」

 太郎「白石忠志委員、増田悦子委員も同じ」

 次郎「古川昌平弁護士は課徴金を導入した16年改正の時の委員。川村哲二弁護士は消費者支援機構関西の役員でもある」

 三郎「委員は基本的に消費者庁の応援団という布陣になる。事業者や業界の声も聞かないと、一方的な議論になる」(つづく)



 
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