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「脂肪にドーン」の衝撃・サントリー黒烏龍茶問題を追う(4) 誰が"ケチ"をつけたのか

2012年 8月 9日 13:35

 「黒烏龍茶」を巡る騒動を語る上で、ある一つの疑問が生じる。「誰」がCMにケチをつけたのか、というものだ。一企業の事業活動に影響を及ぼしただけでなく、社会に波紋を広げた以上、その委員には説明責任があるはずだ。



 「ご趣旨は何なんですか。発言は特定されないようになっているはずですが。そもそもルール違反じゃないですか」。

 取材を続けるうち、本紙では消費者委員会に近い学識経験者など複数の関係者の証言を得、発言者である委員の特定に至った。そこで発言の趣旨を委員に尋ねた答えが冒頭のものだ。事の顛末は後述するが、この委員が述べた"ルール"とは何なのか。

 騒動は消費者委「新開発食品調査部会」における一人の委員のCMに対する発言に始まっている。言うまでもなく、部会での宣伝手法への言及は、その審議対象の範疇を越える。にもかかわらず、個別企業を特定できる状況で批判を繰り返したのは、「社名公表」に等しい行為。発言者にはその正当性を示す責任がある。

 だが、そこには障壁が存在する。発言者の名は議事録に記されない、というものだ。それが冒頭の"ルール"だ。

 なぜ、非公表なのか。「企業も特定保健用食品(トクホ)の承認を受けて開発利益を得たい。発言者が分かると企業が圧力をかけ、審議が純粋にできなくなる」(消費者委事務局)からだ。



 これに対し、本紙は圧力の存在が明らかになった場合その企業の負う責めが大きく、リスクを侵すとは考えにくいこと、委員名簿は公表されており、非公表は圧力への防壁とならないことなどを事務局に反論した。

 だが、これに対する回答も「最終的に企業が責めを負うかもしれないが、途中段階で委員に多大な迷惑をかけることになりかねない」というもの。「莫大な費用を投じている以上、企業のそういう動き(注・圧力)も否定できない。承認後にその事実が判明しても、一時的に製品が販売されてしまう。その疑念を抱かせない運営が良い」という。以降、「(公表は)まずい」の一点張りで、頑なな態度を崩さなかった。

 そこには委員への手厚い配慮が感じられるが、社会や事業活動に影響を及ぼしかねないことへの危惧は感じられない。そもそも先述したように委員名簿は公表されている。所属団体の志向など、何かしら寄って立つ背景を持たざるを得ない委員の手に承認を委ねる以上、「非公開」や委員の資質への過度な信頼こそ、危うさを孕むものだろう。



 冒頭の経緯に戻りたい。本紙では現役の消費者委委員からも「○○委員の発言がきっかけ」との証言を得ており、発言者の特定を疑う余地は極めて小さいと判断する。

 そこでその委員に発言の趣旨を尋ねたところ「私は非公表が良いと思っているわけではないが、それがルールなので」と、事実確認を拒否。その後求めに応じて取材要旨をメールで伝えたが、返ってきたのは「委員会事務局にお願いします」という答えだったのだ。

 ただ、今のところ実名は控えたい。事務局の言い分に同調の余地はないが、「匿名」に固執して自らの適切な身の処し方すら判断できないその姿勢こそ、発言に信念がないことを物語っているためだ。自由に意見を述べながら、問題化したら「匿名」を隠れ蓑にする。明らかにバランスを欠き、それこそ「非公表」の趣旨を履き違えている。発言に無責任にもなろう。



 そもそも、非公表に固執する割に、消費者委は社会的影響や企業利益をないがしろにし過ぎる。

 消費者委事務局は指摘事項の公表理由を「特定の企業名も書かず企業利益に反しないため」と説明していた。だが、部会発言の話題は再三に渡り上部組織である消費者委で遡上にあがっている。

 「トクホの宣伝の仕方は部会でも話題になっており、メーカーに申し入れをするよう消費者庁に伝えてあります。(略)その結果をしばらく待っていただくと」(6月5日、第91回消費者委員会)。

 「脂肪の吸収を抑えるというお茶などの広告も、非常に問題があるということで実は消費者庁に申し入れをしております」(同、記者会見で記者の質問に応じ)。

 検証するまでもなく、部会発言を端緒とする一連の発言が特定企業との関連付けを可能にした。公然のリークとしか思えない情報管理のずさんさだ。だが、消費者委で部会発言を取り上げた田島眞委員の反応は「企業とのやり取りは消費者庁がやること。今回の騒動も新聞で初めて知り、こちらでは預かり知らぬこと」と、そっけない。

 その無頓着ぶり。機密性の高い情報を扱うに足る資質といえるか。

 だが、トクホを巡る騒動は今に始まったことではない。一部委員の主張に弄ばれ続けたトクホは、その魅力すら失いつつある。 (つづく)


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