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組織移管、医系大臣、安倍派解体【小林事変 ③マーフィーの法則】

2024年 4月18日 11:59

 最悪の事は最悪のタイミングで起こる。さまざまな出来事を、ユーモアとアイロニーを交えて格言としたマーフィーの法則はこう告げる。今回の小林事変はまさにこの警句が現実化した。

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 厚生労働省と消費者庁。今回の小林事変の対応と収拾は両省庁にまたがることとなった。別の組織が完全に呼吸をあわせて動くことが難しいのは、企業に身を置く方なら言わずもがなであろう。

 今回、さらに事態をややこしくしたのが、組織移管だ。事変発生が3月22日。ところが4月1日から厚生労働省の食品基準行政は、消費者庁に移管。その最終準備を進めていたのだ。総勢50人単位で異動。さらに新設の課や審議官ポストも伴う大掛かりなものだ。消費者庁に新設された「食品衛生基準課」がそれに当たる。これを司る根拠法、食品衛生法も厚労省と消費者庁の共管となった。

 移管対象には、食品安全行政も含まれ、端境期でサプリメントはおろか、食品業界の歴史にも残る事変が発生した訳だ。

 話はさらに複雑だ。今回の移管対象は「食品基準行政」。実際に監視や取締りを行う「食品監視行政」は厚生労働省内に留め置かれた。

 食品監視行政は全国468箇所の保健所が司令塔であり「食中毒」の監視処置のほか、感染症対策なども対応しており、所長は医師のポストだ。コロナ禍のことを思い出すと理解が早いだろう。

 保健所を消費者庁がハンドリングすることは、完全にキャパオーバーなため、監視行政はそのままとなった。

 小林事変の処理では初動で役割分担が必要となっただろう。霞ヶ関用語でいう「割もめ」だ。食品衛生法の運用はどちらが行うかだ。

 3月27日の関係省庁を集めた連絡会では、小林事変の仕切りは、議長となった厚生労働省の健康・生活衛生局と決まる。

 現在の大坪寛子局長は国内でのファーストコロナ対応となったダイヤモンドプリンセス号のケースを仕切ったことで名を馳せた人物である。

 その後、彼女が小林事変の処理や原因究明の司令塔となっている。

 一方の消費者庁。同庁では小林製薬の製品が機能性表示食品であったため、こちらにフォーカスした対応にシフトする。ここで問題となったのは初期対応で打ち手を誤ったことだ。

 消費者庁は事変発生から4日後の3月26日の段階で機能性表示食品の全製品(約7000)に対し、健康被害の有無を調査すると発表した。

 この段階では健康被害が「原因不明」にも関わらず、機能性表示食品を総点検する。まったく見当違いの施策であろう。3月28日の消費者庁の長官会見でこれを質した本紙の質問に新井ゆたか長官は「厳しくない。確認することで消費者の信頼を高める」と強弁した。

 しかし、この意味不明な総点検が、あたかも機能性表示食品の安全性に懸念があるようなメッセージを広げ、以後マスコミは「機能性表示食品制度は届出制なので安全性が緩い」という主旨の論調を展開。これが機能性表示食品への風評被害を生む。

 「機能性表示食品は怖い。返品したい」。企業にはこんな声が次々に届いているという。

 霞ヶ関で火事が起こったからといって、全ての市町村に「火事が起こったことがあるか総点検せよ」と指示を出したら、どうなるか。呆れられるだろう。少なくとも火事を消してから、行うべきだろう。

 今回も原因が分かってから、それに基づき総点検であれば、百歩譲って理解はできる。慌てふためいたのか、営業日換算で、2日で「総点検」を命じたのは明らかに風評被害を招いた。今後、この政策判断のプロセスを検証する必要があろう。

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 大臣の布陣もある意味で偏っており、これも政府の方針に影響しているだろう。

 厚生労働省のトップは武見敬三大臣(参議院議員5期)。父は日本医師会のドンと呼ばれた武見太郎氏だ。医師会とは長い関係性がある。

 消費者庁の担当大臣は、自見はなこ大臣(参議院議員2期)。自身が医師で、日本医師会の推薦候補。医師関係から年に億単位の献金を受けている。

 父の自見庄三郎議員も医師会の推薦議員で、武見氏と推薦枠をめぐって対立したこともある。担当両大臣とも日本医師会の強い影響下にある。医師会がサプリメントや機能性表示食品に否定的なことは、改めていうまでもなかろう。

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 そして政治の不在。「健康食品の機能性表示を解禁いたします」と宣言した安倍晋三元総理は2年前に凶弾に倒れた。そして自民党の最大派閥だった安倍派は年末からの裏金問題で瞬く間に解散。主要幹部は離党することにすらなった。

 機能性表示食品を創設して、その成長を見守ってきた政治家が影響力を失った。そして立憲民主党はアベノミクスの弊害として機能性表示食品を標的にしている。

 「最悪の事態に備え、最良の結果を希求する」。英元首相ベンジャミン・ディスレーリ公の言葉だという。これまで「最悪」に企業と業界がいかに備えていたのかも問われている。(つづく)


 
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