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消費者庁、制度育成に舵<機能性新ルール、運用始まる> 取締り回避のスキーム構築

2020年 7月 9日 10:15

 機能性表示食品の新ルール運用が始まった。消費者庁は、表示対策課に「ヘルスケア表示指導室」を新設。取締りから事前の「指導」に舵を切る。エビデンスや広告をめぐる諸問題をあらかじめ解消する司令塔の役割を果たし、取締りを回避するスキームを構築。業界団体と連携して企業の積極的な制度活用を促す。

 
ヘルスケア表示指導室、司令塔に

 消費者庁は4月、機能性表示食品に対する景品表示法執行の予見性を高める目的で策定した「事後チェック指針」の運用を開始した。

 指針は、「エビデンス」と「広告」の留意点を示す二つのパートからなる。

 「科学的根拠」は、臨床試験、研究レビューによる機能性表示について、問題となる事例を具体的に示す。「広告」は、その構成要素である「実験結果」、「医師・専門家の推奨」、「体験談」など7項目について、景表法上問題となる事例をあげる。

 運用は、表示対策課に新設した「ヘルスケア表示指導室」が行う。室長には、田中誠前機能性表示食品特命室長が就任。ほか3名の職員で業界団体と連携しつつ指導にあたる。

業界団体と連携 事前相談窓口設置

 これに先立ち、消費者庁は、事前相談の窓口設置を業界団体に依頼している。

 景表法上問題となるリスクは、「届出表示と広告表現のかい離(広告)」と、届出した「科学的根拠の妥当性(エビデンス)」をめぐる問題の大きく2つ。過去の例でいえば、「葛の花事件」が前者にあたる。後者は、企業が届出を行った根拠資料をもとに調査に着手した「甘草由来グラブリジン」の事案がある。

 広告は、日本通信販売協会と日本健康・栄養食品協会(=日健栄協)の2団体、エビデンスは、日健栄協と日本抗加齢協会の2団体が窓口を設置。「ヘルスケア表示指導室」と景表法上の考え方について目合わせを行いつつ、企業からの”事前”の相談にあたる。判断が難しい事案は、指導室に相談しつつ、販売前に問題を解消する。これにより「取締りは最大限回避できる」(田中室長)とみる。

第三者機関、エビデンス妥当性評価

 事前相談の対象は、指針の運用を開始した4月以降に販売する製品が中心になる。機能性表示食品は、導入から5年が経過。届出数は、3000件(撤回を含む)を数える。過去に届出された製品や広告に景表法上の問題がある可能性も否定できないため、4月以降、届出を行う企業に電話やメールで事前相談の活用を促している。団体に加盟しないアウトサイダーを含め、各団体に相談への対応を依頼している。

 とくに、エビデンスに疑義が生じた場合は専門的見地から客観的評価が必要になる。これは、業界4団体が5月末に設置した第三者機関「エビデンスレビュー評価委員会」(事務局・健康食品産業協議会)を活用する。

 委員会は、複数のアカデミアで構成。公正性維持のため、その陣容、メンバーは非公開。「発生した疑義の内容に即して適宜、専門分野の学識経験者を選定して評価する」(同)としており、消費者庁と連携しつつ、問題の解消にあたる。

 同庁の食品表示企画課が行うエビデンスの事後チェックはこれまで、エビデンスに疑義が生じた場合、表示対策課と連携して、専門家に諮問する「セカンドオピニオン事業」を活用して対応方針を決めてきた。

 今後は消費者庁と企業に見解の相違が生じた場合、「ヘルスケア指導室」が企業に第三者機関におけるエビデンスの妥当性評価を促す。結果を踏まえ、消費者庁は「撤回指示」や「届出維持」の最終判断を下すことで、不意打ち的な景表法調査を回避する。このスキームを活用した製品については、景表法が企業に求める「表示管理の相当注意義務を払った」(同)と判断。仮に見解の相違から調査、処分につながった場合も課徴金対象になることはないとみられる。

定例会合で、制度育成の施策検討

 事前相談窓口、第三者機関が設置され、指針運用に必要な枠組みは、一通り固まった。消費者庁は指針策定に向け、これまで行ってきた業界団体との連絡協議会を今後も継続。月1回、定例の会合を持つことで、相談窓口で吸い上げた広告やエビデンスをめぐる問題を共有する。

 協議会傘下に「広告」や「制度の消費者への普及」などテーマ別のワーキンググループも設置する考え。とくに広告関連では、届出表示の一部を切り出す「言い切り表現」、臨床試験とシステマティックレビュー(SR)の違いを反映した表現の区別について、より詳細なルール化に向けた議論を進めるとみられる。

 業界は昨年10月、日本通信販売協会と健康食品産業協議会が機能性表示食品の「公正競争規約」策定に向けた検討を開始した。「ヘルスケア表示指導室」もこれを支援。規約を運用する公正取引協議会の設立を待ち、将来的に分散する事前相談窓口の一本化も視野に入れる。

 消費者庁自ら制度育成に乗り出したことで、機能性表示食品と健康食品の規制をめぐる状況は、大きく異なるものになりそうだ。



事前相談で問題解消、健康食品「これまで通りバンバンいく」

<
指導室設置の目的は?>

 ヘルスケア表示指導室設置の目的を田中誠室長に聞いた。

 ――表示対策課、「食品表示対策室」とのすみ分けは。

 「指針の運用、業界団体との調整など取締りではなく指導に力を入れる」

 ――運用の対象は。

 「4月以降の届出が中心。事前相談の各窓口で答えが示せるよう、団体と景表法の考え方で絶えず目合わせを行う。判断に迷う場合はこちらに相談してもらう」

 ――消費者庁も相談対応は行っている。

 「景表法の一般論が中心で個別表示に踏み込んではいなかった。とくに、すでに広告・販売がなされた既往の行為は答えていない。事業者が知りたいのはより踏み込んだ内容。各団体に受け皿になってもらいたい」

 ――機能性表示食品の取締りは行わない。

 「相談を経れば取締りのリスクは減る」

 ――事前相談する限り、一発取締りはない。

 「過去の届出はその内容をすべてチェックできておらず、個別に指導するものはでてくるかもしれない。ただ、最大の目標はトラブル回避。新しいものは相談すれば、よほどのことがない限り景表法に抵触しない」

 ――相談を活用する企業にいきなり調査をかけることはない。

 「それはない。表示対策課とも情報は共有する。機能性表示食品の問題は、すべからく指導室で把握する。調査も指導室を通さず行うことはない」

 ――相談を活用しない製品はどうなる。

 「放置はできず、問題があれば取り締まりは否定できない」

 ――相談が調査の端緒とならないか。

 「販売前なら調査することはない」

 ――既往の行為に対する事後の相談で広告やエビデンスの疑義が生じれば、調査の端緒となる可能性はある。

 「そこは否定できない。今回のスキームは、届出から発売までの一定期間にリスクを減らすもの。既往の行為は相談したら許されるものでもない」

 ――広告は販売戦略の中で変化する。

 「その都度、相談してもらいたい。その中で、団体と企業が目合わせをしてほしい」

 ――対象は機能性表示食品に限る。

 「そうなる。トクホは、公正競争規約ができた。公正取引協議会に対応してもらう」

 ――健康食品に対する取締りは。

 「相談の仕組みもなく、これまで同様バンバン(取締りに)いく」

 ――指針の変更は。

 「言い切り表現などは整理したい。ただ、ルール化したからといって過去のものをすぐ取り締まることはない。ルールが追加されれば、徐々に直してもらうスタンスをとっていく」





外挿性を問題視か、6月撤回、水面下で綿密な調整

<「アフリカマンゴノキ」届出撤回>


 消費者庁が機能性表示食品の育成に舵を切る最中、「アフリカマンゴノキ由来エラグ酸」を含む機能性表示食品の届出が相次いで撤回された。公表数は25製品。6月末時点で6製品を除き撤回された。

 製品は、「体脂肪や中性脂肪を減らすことをサポートする」などと表示する。昨年から今年にかけて、その評価に疑義が生じたとみられる。撤回理由を消費者庁は「個別案件」として答えていない。ただ、問題視したのは、日本人への「外挿性(あてはめ)」のようだ。

 機能は、SRで評価。ただ、試験が行われたのは「カメルーン共和国」。被験者は外国人であり、結果を日本人にあてはめることに対する説明が不十分だったとみられる。届出は外国人を被験者とした試験の場合、外挿性の考察を求めている。ほかに「エラグ酸」の含有量など機能性関与成分設定の適切性、痩身効果の程度も問題になったようだ。原料を扱う龍泉堂からは「担当者が不在」として本紙掲載までに詳細の回答は得られていない。

 ただ、撤回までの経緯は、突然の疑義浮上から混乱を招くなどしたこれまでと様子が異なる。今年に入り、届出企業から撤回の承諾を得つつ、企業側は「再試験で改めて届出できる6月末まで猶予の交渉を進めていた」(業界関係者)と、水面下で綿密な調整が行われていたという。撤回に至っていない企業もあるが、「撤回を予定している」(販売する1社)と話す。

 「ヘルスケア表示指導室」の田中誠室長は、一般論として「疑義が生じたものは行政や第三者機関の妥当性評価を経て、撤回指導など最終判断を下す」とする。ただ、「事業者がそこまで対応したものを、後々、景表法で背中から刺すようなことはしない」(田中室長)。

 指針は、新たな知見で根拠の合理性を欠くことが判明した場合、速やかな撤回を行えば景表法上の問題としないと明記する。今回の撤回は、指針運用のモデルケースを示すものともいえそうだ。





 
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