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踊り場脱却へECシフト<ベルーナのアパレル事業> ネット専業ブランド増やす

2023年 8月 3日 12:00

 ベルーナでは5月、2025年3月期を最終年度とする中期経営計画の数値目標を修正した。中計の見直しは昨年5月に続き2回目となる。主力のアパレル・雑貨事業が原材料高騰や印刷費・用紙代値上がりなどの影響を受け、減収となるのが修正の主な要因だ。同社では食品通販のグルメ事業や不動産関連のプロパティ事業など、好調事業を強化することで利益を確保する一方、シュリンクが懸念されるアパレル・雑貨事業においてはECへのシフトを図ることで、勝ち筋を見出す。

 







 最終年度となる25年3月期の連結売上高は2300億円、連結営業利益は170億円を目指す。23年3月期連結業績は、売上高が前期比3・5%減の2123億7600万円、営業利益が同18・9%減の112億1700万円だった。

 安野清社長は「外部環境が変われば影響を受けるので、中計も見直すということになる。顧客数が減るアパレル・雑貨事業において売り上げを維持するのは難しいので、とにかく営業利益は確保しなければいけないということだ」と下方修正の理由を説明する。

 当初ベルーナでは、コロナ禍で獲得した新規顧客が定着し、コロナ禍後もアパレル・雑貨通販の規模を拡大させる目論見を抱いていた。ところが「好調だったがゆえに勘違いして強気の計画をつくってしまった。当初考えていたほどは顧客が定着してくれなかった」(安野社長)。

 追い打ちをかけたのが印刷費・用紙代の高騰。数年前に比べても、用紙代は30~40%値上がりしているという。加えて、製紙会社の設備廃棄・転用の問題で量を確保するのも難しい。カタログの発行部数は10~30%削減。さらに、媒体によっては発行回数を減らすことで対応している。

 「通販会社は広告宣伝費のコントロールで利益が決まる。売り上げを取ることを前提にしては会社が成り立たない。ただ、カタログ部数を大きく減らせば売り上げも大きく減るので、それができるのは会社としてパワーがあるかどうか。幸いにして当社はパワーがあるので、部数を減らしても他の事業でカバーすることが可能だ」(安野社長)。

 コロナ禍において通販事業は好調に推移していたものの、プロパティ事業における、ホテル事業に関しては大きな赤字を出していた。しかし、コロナ禍が明けホテルの稼働率が向上したことで、2023年3月期のプロパティ事業における営業利益は、前期比57・6%増の13億6600万円と好調に推移した。

 一方で、紙媒体への依存度が低い、化粧品事業のオージオなどは、用紙値上がりの影響はさほど受けなかった。「規模的にはアパレル・雑貨事業が大きいので、全社での売り上げは減っているが、バランスを調整すれば収益力は維持できる」(安野社長)。

 同社では、以前から「通信販売総合商社」を標ぼうし、経営の柱を何本も作る「ポートフォリオ経営」を推進してきた。それが功を奏したわけだ。とはいえ、国内における紙の生産量が増加に転じることは考えにくく、今後も用紙代は値上がりしていくことが予想される。輸入紙に頼るとしても、進行する円安が逆風となっている。

 一層のシュリンクが懸念される中で、ベルーナでは紙媒体をどうするのか。安野社長は「ネットにシフトしていくしかないだろう。ただ、そっくりネットに移行するのは無理。例えば紙が100だとしたら、ECで20~30はカバーできたとしても、70~80はカバーできない」と明かす。

 千趣会やニッセンなど、カタログなど紙媒体の発行部数を大幅に減らし、ネットへのシフトを進めたカタログ通販会社はこれまでもあった。しかし、カタログを減らすことで大幅に顧客が減少する一方、ネットでの新規顧客獲得が思うようにいかず、会社の規模そのものが大きく縮小してしまった。

 「カタログを見ながら通販サイトで購入している人は、カタログが送られて来なくなってもネットで買ってくれるが、その割合があまり大きくない。カタログを送付したり、チラシを折り込んだりしないと、商品が出ていることに気づいてもらえない。自らネットで検索してくれるというわけではなく、かつそうした顧客の方が多数派だ」(安野社長)。

 一方で、競争が厳しいECの世界において、紙媒体経由売り上げの漸減を上回るペースで新規顧客を獲得するのも難しいのが実情。「ネットはどうしても価格訴求がメインになってしまう。よほどしっかり取り組まないと駄目だ」(同)。

 カタログや折込チラシの配布量は維持しなければいけない一方、用紙代の値上げに苦しめられるというジレンマに悩むベルーナ。果たして5年後・10年後のアパレル・雑貨事業の姿はどうなっているのか。

 安野社長は「正直いってまだ分からない。踊り場に差し掛かっている中で、新たなアパレル・雑貨事業のステージを構築するために試行錯誤している段階だ。『このルートで行けばオアシスにたどり着く』というところまでは来ていない」と吐露する。

 こうした状況下で支えになるのが、同社が確立させたポートフォリオ経営だ。アパレル・雑貨事業が目減りする分を、グルメ事業・ホテル事業といった、好調な事業でカバーする。

 商品開発力を武器とするグルメ事業は大きな飛躍を見込む。23年3月期は323億600万円だが、28年3月期の売上高は542億円まで成長させる展望だ。特に伸びているおせち料理については、23年3月期に32万台を出荷。同社によれば、通販に限らずおせち料理の出荷量では業界で3~4位にあたるという。日本酒通販に関しても、調査会社の調べでは通販国内売上高が6年連続で1位だ。6月には、山梨県の酒造メーカー・谷櫻酒造を買収。安野社長は「製造から販売までを一気通貫で手掛けることで、新たなブランド価値を作っていきたい」と意気込む。

 成長事業が会社を支える中で、アパレル・雑貨事業ではECの強化を進めていく。安野社長は「ネット専業で100億円以上売り上げているブランドは少ない。当社としても1つのブランドの規模に固執するのではなく、30~40億円規模のネット専業ブランドを5個、10個と増やしていきたい」と構想を語る。

 60代以上の顧客が中心のブランドは紙媒体を中心に事業を進めていく一方、「ベルーナ」「ラナン」や「ジーラ」だけではなく、比較的最近立ち上げた「アロッタ」や「ヴィオラエヴィオラ」といった、30~40代向けネット専業ブランドにおいてECを強化。さらには、韓国テイストを取り入れた、20代向けネット専業ブランド「チャンミ」といった新たな挑戦にも取り組んでいる。安野社長は「勝ちパターンを一つずつ作っていくことが大事。今期中には勝ち筋を見出したい」と話す。

 そのためにも大事になってくるのがブランド力。「ネットは価格勝負という面が大きいが、価格が大差ないならブランド力が高い方が勝つ。ただ、ブランド力はすぐに高められるわけではないので、インフルエンサーやインスタグラムを積極的に活用していきたい」(安野社長)。7月には「ジーラ」のランジェリーブランドで初のアンバサダーを募集するといった取り組みも始めた。

 紙媒体の発行部数を減らさざるを得なくなったベルーナだが、中長期の方針としては、連結で「売上高3000億円・営業利益300億円」という目標を掲げて、ポートフォリオ経営の成熟を目指す。アパレル・雑貨事業の利益を維持しつつ、成長事業で稼ぎ、25年3月期には「営業利益200億円」へのめどをつけたい考えだ。



「用紙値上げが逆風に」、全社で収益バランス維持


<ベルーナの安野清社長に聞く①>

 ――2023年3月期を振り返って。

 「コロナ禍で”巣ごもり需要”が発生し、通販市場全体にフォローの風が吹いた。ただ、去年はフォローがアゲインストへと変わってしまい、レスポンス率が悪化した。さらには、用紙代・印刷費が上がったり、中国から商品が入ってこなかったり、原材料費が高騰したりといった事態も起きた。甘くなかった1年という感じだ」

 ――当初はコロナ禍で獲得した新規顧客がかなり定着することを見込んでいた。

 「非常に調子が良かったので、アパレル・雑貨通販においても強気の計画を立てたわけだが、そこは勘違いしてしまったということだ。追い打ちをかけたのが、印刷費と用紙代の高騰だ。当社は主力がカタログ通販なので、もろに影響を受けてしまい、中期経営計画の下方修正を余儀なくされた」

 ――中計の下方修正は2回目だ。

 「これだけ経費が上がってしまうと、これまでのようにカタログやチラシを発行するのは難しくなる。発行量を減らすとなれば、売り上げについては目標を下げざるを得ないので、営業利益は確保しようという方針に切り替えた」

 ――カタログの発行部数はどの程度減らしているのか。

 「10%減らした媒体もあれば、30%減らした媒体もある。また、発行回数を減らしている媒体もある」

 「通販会社は広告宣伝費のコントロールで利益が決まってくる。売り上げを前提として無理してはいけない。大事なのは売り上げを減らすだけのパワーが会社としてあるかどうか」


 ――目減り分は他の事業でカバーができる。

 「全社で収益のバランスが取れればいい。用紙代値上げの影響を最も受けたアパレル・雑貨事業と、コロナ禍の終息で好調に転じたホテル事業の間でバランスを取れば、収益は確保できる。ただ、アパレル・雑貨事業の規模が大きいので、連結では減収となっている」

 ――原材料高騰や急激な円安なども逆風となっているが、一番影響が大きかったのは印刷・用紙代の値上げということか。

 「やはりそこが一番大きい。用紙代に関しては30~40%は上がっている。また、製紙会社が紙の生産を減らしているので、紙の確保自体が難しくなっている。輸入紙もあるが、こちらも円安の影響が大きい」

 ――今後、紙媒体の発行をどうするかを考えないといけない。

 「やはりネットへのシフトということになるだろう。ただ、今の顧客をそっくりネットにシフトさせるのは無理。もちろん頑張ってはいるが、紙媒体経由の売り上げが減っている分はカバーできていない」

 「カタログを見ながら通販サイトで購入している顧客は、カタログが送られて来なくなってもネットで買ってくれるが、その割合があまり大きくない。カタログを送付したり、チラシを折り込んだりしないと、商品が出ていることに気づいてもらえない。自らネットで検索してくれるというわけではなく、かつそうした顧客の割合が大きいわけだ。アパレル・雑貨事業全体をカバーするには、今までの数倍のピッチでネットで大きくならないと厳しい」(つづく)



 
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