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変わる表示規制、忍び寄る「保健所」の監視② 切り離された"薬事"

2017年 2月 2日 10:04

 健康増進法の「虚偽誇大広告の禁止」に基づく執行権限の移譲後、消費者庁はその迅速な運用を目的に指導指針を改定した。以来、保健所による指導が活発化しているがそれにはワケがある。「広告の定義」が大きく変わったのだ。


健増法では「ダメ」

 「消費者庁からは"薬機法(旧薬事法)に引っ張られすぎー"と。でもなぜと。薬機法には広告と判断する『3要件』がある。商品名がないなら、それは表現の自由じゃないかと」。保健所で健康食品の監視を行うある担当者はこう振り返る。

 担当者が言う3要件とは、薬機法上の広告の定義のこと。「顧客を誘引する意図」「特定の商品名の表示」「一般人が認知できる」という要件をもって広告とみなすものだ。だが、健増法上の広告の定義は異なるという。どういうことか。


消えた3要件

 「過去に商品名がなく、(健食原料の)機能をうたうものがあった。でも表示するような機能の科学的根拠はある。"それなりの根拠だし、企業広告だからいいか"と思ったら、だめだと。それが健増法を運用する上での大きな違い」(前出の担当者)という。

 実際、健増法の「虚偽誇大広告の禁止」を巡る三つの指針を見比べてみると、03年、厚生労働省が策定した当時のまま残る一つ(※1)を除き、昨年6月に改定した「健食留意事項(※2)」など2つの指針では「顧客を誘引するための手段として行う(もの)」を広告とする判断が示され、そこに3要件の記載はない。すべての指針から3要件が消えたわけではないものの、「広告の判断は薬事ではなく、むしろ景表法の考え方が反映されている」(同)と話す。


健増法で「拾える」


 厚生労働省関東信越厚生局管区内の執行担当官を集めて行われた研修会では消費者庁がもう一つ、重要な見解を示している。「企業広告」の定義だ。

 内容は、『企業のイメージ向上を目的としたもので自社商品とまったく関係のない、例えば環境問題等への取り組みなどを広告すること』というもの。一方で、『(広告に)商品名がなくても消費者がその会社が製造している商品であることを容易に認知できれば、当然、その会社の商品と関連づけ、結果としてその広告には顧客を誘引する効果が認められる。よってそのような広告は商品広告とし、根拠がなければ健康の保持増進効果を表示してはいけない』としている。出席者によると、消費者庁はすでに14年頃、こうした見解を示していたという。

 薬事法は、商品名がないことをもってこれを広告とせず、一切見ない。だが、健増法ではその抜け穴をついて誇大な表現をする広告を拾えるというわけだ。


溢れる「商品広告」


 消費者庁に尋ねても広告の定義は「(薬事法と)異なる」とする。実際、その解釈に近いものとして昨年3月、消費者庁が景品表示法に基づく措置命令を下したココナッツジャパンを例に挙げる。商品の販売サイトのリンク先で認知症やガン予防をうたっていたもの。処分は景表法だが、程度の差こそあれ「商品」と切り離しつつ、巧みに消費者に訴求する広告は巷に氾濫している。

 保健所の担当者は「例えば乳酸菌を扱っている会社が商品名を出さず機能をうたい、『企業広告だから』と。確かに薬事はクリアしている。けれど乳酸菌などは○○社の××菌と、独自の菌名がそのまま商品名になっているところもある。そうなるとまさにあの商品を連想させるじゃないかと。そこに顧客を誘引する狙いがあれば商品名がなくても科学的根拠がなければアウト」と、健増法上の解釈を話す。

 科学的根拠も「例えばヒトを対象にした立派な論文がある。けれど機能を得るには5リットル食べないといけない。商品名のない広告なら5リットル必要だろうが、薬事の観点からは得られた研究成果ならウソじゃないじゃんと。でも健増法上『商品広告』にあたれば、もっと食べなきゃというのは根拠といえない」。



 これまで表示規制法といえば「何人も」を対象に疾病の予防など明らかなNGワードを規制する薬機法、「表示主体者」を対象に課徴金を導入した景表法だった。だが、保健所など地方自治体のスケールに合わせ、両法からこぼれ落ちる広告に対応可能な健増法という新たな取締り手法が確立したことで、健食の規制対象の範囲は大幅に広がる。 (つづく


※1 食品として販売に供する物に関して行う健康保持増進効果等に関する虚偽誇大広告の禁止及び広告適正化のための監視指導等に関する指針

 健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について

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