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有力通販企業のトップに聞く「今」と「これから」 カタログハウスの髙遠裕之社長

2017年 8月31日 18:22

031.jpg カタログハウス)がテレビやウェブなど新たなメディアでの通販の可能性について研究とテストを進めている。主力媒体である通販マガジン「通販生活」で安定的な収益を確保しつつも新たなチャネルを確立したい狙いだ。「現状の売上規模を維持し、これから先も安定的で持続可能な会社を目指す」とする髙遠裕之社長に同社の現状や今後の方向性などについて聞いた。
(聞き手は本紙編集長・鹿野利幸)

「持続可能な社会目指す」、〝効率〟と〝質〟のバランス大切

――2015年4月に社長に就任した。トップから見てカタログハウスという企業をどう見ているのか。

 「第一に"強い媒体力がある"こと、"ロングセラー商品が多い"ことが最大の強みだと思う。カタログ通販が逆風の中でも未だに存在感を保つ基幹媒体である『通販生活』を"母艦"として、そこから派生したベストセラーやロングセラーの商品を紹介する『ピカイチ事典』、化粧品を紹介する『スロワージュ』というカタログの存在。それら媒体で商品のよさを誌面で伝えるクリエイティブ力、コピー力を持っていること。今ではカタログ制作を外注する通販企業も増えたが、当社では社内でしっかりと行っている。『通販生活』はカタログマガジンとして雑誌スタイルを採っているため、一般的な通販カタログよりも圧倒的に文字量が多い。通販は写真と文字で説得するわけだから、その説得材料を自分達できちんと作れるのは強みだ。そうでないと価格などで訴求しなければならなくなり、過当競争になる。商品をきちんと説得してお客様にしっかり伝え、買って頂く。その買って頂くクリエイティブ力こそが最大の強みだろう。第二に非常に意識と購買意欲の高い115万人のお客様が今なお、いらっしゃり、かつ、そうしたお客様と"密な関係"が作れているということ。要は当社のことをよく知って頂けている、もっと言えば当社を好きと思って頂けるお客様に向けた商売をしていけているということが強みだ。それにより、安定した収益をあげられていると思う」

――そうした強みがある中で業績面で言えば、ここ数年は横ばいだ。

 「形振り構わず右肩上がりで業績を拡大させればよいという経営感覚を持っていない。イギリスの経済学者、ジョン・メイナード・ケインズの『経済は市場原理で無限に拡大していく』という主張に対して、エルンスト・フリードリッヒ・シューマッハーはそうではなく『スモール・イズ・ビューティフル』と提唱したが、ひたすら拡大を求めることは決してよいことばかりではない、『拡大』より『バランス』が大事だと言っている。当社でも『スモール・イズ・ビューティフル』、つまりバランスの良さと適正規模をとても意識している。売り上げの増減だけを絶対視するのではなく、年商200~300億円の間で、顧客信頼を維持し、利益もしっかりと出して企業を持続させること、持続可能性こそが最も大切だ。目先の売り上げがよくても、『質』が低下したり、信頼が失われ、先行きが悪くなるような経営スタイルはとらない。それは創業者である斎藤(斎藤駿取締役相談役)の理念でもある。前期(2017年3月期)の売上高は前年比11・6%増の288億4000万円と上がったが、これは3年ぶりに『ピカイチ事典』を発刊したからであり、前の年は『スロワージュ』の発刊をやめたから下がった。そもそも売り上げというのは媒体を出せば上がり、出さなければ下がる。そういうことだと思う。大切なのは『売上』と『利益』、すなわち『効率』と『質』のバランスだと思う」

――社長に就任してこの2年間、注力してきたことは何か。

 「まず『内なる固め』を行ってきた。具体的には顧客信頼の徹底、職場環境の整備、経費構造の見直しなど本当にベーシックな部分だ。私は営業畑でずっと商品開発と編集をやってきたが、会社の経営では顧客対応や物流、人事、経理、総務などすべて把握しておく必要があり、そうすると自分の中で棚卸みたいなことが必要だったこともあるし、例えばだが、今後、いくら新しいことをやっていくらか業績を上げたとしても、これまでのビジネスで同じ分、減収となれば意味がない。今は非常に難しい時代だ。それゆえ、足をすくわれないよう、リスクをきちんとおさえて今の身代を維持する、今のお客様を維持していくということが非常に大切だと思ったからだ。

 例えば、私が社長になって始めたのは毎朝、お客様のクレームをすべて見て向き合うことだ。『カタログの誌面に書いてあるほどの品質が良くなかった』とか、『ここの使い勝手が悪かった』とか、『電話対応での説明がよくなかった』とかネットでの色々な書き込みなども1つ1つ見て、問題があれば対応してその解決方法を作るという仕事だ。お客様の考え違いの場合もあるが、当社の対応がまずかった場合は、その問題がどうすれば起きないかについて全社で話し合って、これを解決するためのシステムを3日間くらいで作ってしまう。それを丹念にやってきた」


――それで改善したこととは何か。

 「色々あるが、例えば、毎週月曜日の幹部朝礼で前週に起きた品質問題について発表してもらい、ある商品の縫製が悪いというお客様からのクレームがあれば、即日会議を開き、実態を確認し、メーカーでの品質管理を見直し、仕様書の精度を向上させ、検品体制や基準を強化する。他の商品も含め同類の不良を二度と発生させないようにする。電話がつながりにくい、というクレームの場合にはオペレーターのローテーションの見直しや増員など様々な対策を行い、それまでのカタログ発行直後の繁忙時に『1分以内につながる応答率80%』という基準を変え、30秒以内に80%つながるようにした。現在では直接、オペレーターが30秒以内に応答する率が96%になっている。また、商品の問い合わせについて『カタログハウスで買ったのに対応はメーカー任せなのね』という声を頂き、体制を変えたこともある。これについてはどこの会社もそうだと思うが、まずオペレーターが対応して、専門的な内容や難しい問題だった場合などは2次対応で社員や責任者、メーカーが対応することになるが、最初に電話に出たオペレーターがなるべくすべて応えられるようにした。そのためにはコストもかかるし、教育も必要だが、お客様のことを考え、会話を重視することにした。クレームを寄せられたお客様と対立構造を作るのではなく、お客様に寄り添い、カスタマーセクションはそれを社内に問題提起し、そのクレームが二度と起きないようにするお客様の声の代弁者にしようと考えた。また、商品不良やお届け遅延、欠品を起こしてしまったお客様には定期的にお詫びの手紙を書いて粗品をお送りするなど信頼回復施策なども丁寧に行ってきた。先々の話も大切だが、これまでのお客様に対してのケアをどれだけできるかが、お客様の気持ちを掴んで固定ファンを作ることに繋がる。それが企業の経営安定の礎となる。経営として極めて重要な業務だと思う。

 もちろん、まだまだやるべきことは多いが、この2年で『内なる固め』はあるレベルまでは整ってきた。社内の様々な問題も自分の中で咀嚼できたし、また、お客様の声による改善活動の流れはできているので、最近は朝、私がクレームを見て関係部署に連絡すると『もう対応しています』ということが増えた。方針が全社に浸透してきたということだ。これは私の数少ない私の功績かなと思う」

――通販市場はここ数年でかなり市場を取り巻く状況が変わってきた。それら外的要因がカタログハウスに与える影響をどう考えるか。

 「カタログ通販が厳しくなってきているというのは事実だろう。我々が始めた30~40年前の通販は"通販会社"しかできなかった。つまり、特別なノウハウが必要だったわけだが、ネット通販の登場でメーカーも商社も個人も誰でも通販ができるようになった。ネット通販が出てきたことで、確かに状況はかなり変わった。以前は送ったカタログの中で商品を選択、購入されるお客様が多かったわけだが、今ではネットを検索すれば当社の商品に近しい他社のものが出てくる。同じ商品であれば安いところから買うのは当然だ。中には当社のことを指しているのだと思うが『あの通販会社のヒット商品が2割引き』のような形で、当社を利用しつつ、安売りしているところもある。そういった点では浸食されているということはある」

――そうした事態に対して、何か対策は行っているのか。

 「1つは当社の優良なお客様が他に行かれないようにすること。商品信頼と価格信頼を徹底していく。『他では買えない優位性の高い商品を適正価格で売っていく』ことが生命線になると思う。これからの時代で生き残っていくためには、どこでも売っているプロパー品をただ紹介するだけでは、先ほど申したように値段の安いところで買われてしまう。だから、よそでは買えないうちだけの商品を開発することに現在、注力している。もちろん、当社がメーカーとなって実際にもの作りを行うわけでない。『メーカー的小売りへのシフト』、要は疑似メーカーになるということだ」

――"疑似メーカー"とはどういうことか。

 「現在、好調な小売り事業者はみな製造小売であり、プロパー商品を販売している企業は苦戦している。我々は製造小売にはならないが、メーカーとしっかりと組み、一緒に商品を開発して、ありていに言うとうちでしか販売しない独占販売商品を増やして、それを大胆な適正価格で売ろうと思っている。無論、これまでもそうした方針でやってきたわけだが、それを当社の大方針の1つに掲げた。具体的には『パートナーメーカー』という制度を設けて、各メーカーと濃密な関係を築き、一体となって商品開発を進めることにした」

―― 「パートナーメーカー」とは何か。

 「日本の大手家電メーカーをずっと支えてきた技術力のある下請メーカーはたくさんある。ところが日本の白物家電は芳しくない状況が続いており、各メーカーさんは自分たちの力で立たねばならない状況となっている。とはいえ、もちろん、技術力はあるが、なかなか自分たちで売れる商品を作り、販売していくことが難しい場合もある。そこを当社が一緒になって商品開発や販売を行っていこうということだ。例えば『理美容分野であればここ』というように技術力の高い各分野で有力なメーカー各社にお声掛けをして現場の担当者はもちろん、経営トップも含めて濃密な関係性を築きたいと考えた。まずは30社ほどを『パートナーメーカー』として認定して勉強会を開いている。勉強会ではメーカーからは今後、作ろうと考えている新商品のコンセプトや商品開発の考え方を、当社は商品の売れ筋のトレンドや顧客が求めている商品や機能性などについてぶつけ合っている。その中で商品開発の方向性を決めて、具体的に売れる商品の開発に着手していくわけだ。こうした取り組みは去年から始めているが、今年1月に各メーカーに参加頂き、都内のホテルで初めて『キックオフミーティング』を開催して、当社としての趣旨、要は『我々と組むとこういうよいことがある』ということを具体的な事例を織り交ぜて説明した。その後は個別にメーカーと当社で5人ずつ程度、参加する勉強会をメーカーと当社で交互に開催している」

―― メーカー側にとっての「パートナーメーカー」になるメリットとは何か。
 
 「当社のロングセラーに育てていく販売力とブランディング力ではないか。例えば雑貨や健康関連商品などは何かがヒットしても短期で商品寿命がなくなってしまう。これをメーカー側は危惧しているわけだ。商品開発の効率が悪く死活問題になるからだ。商品寿命の短命化は類似商品の問題もあるが、家電量販店や大手ネット販売サイトなどで仕入れ価格を叩かれ、安売りをするという部分も大きいと思う。一時期は売れるかもしれないが、すぐにピークが終わってしまうと。それは商品の価値が"安さ"でしか評価されなくなってしまうからだ。一方、カタログハウスで販売する売れ筋の『べスト100』の商品の8割はロングセラーだ。それも中途半端ではなく、20年選手、30年選手がごろごろいる。メーカーからすると一時だけ売れるが短命に終わる商品か、爆発的なヒットではないがロングセラー商品となるか、どちらを選ぶかということだ。また、当社の場合は、メーカーの名前を全面に出して当該メーカーの技術力やその価値を訴求している。メーカーにとっては自分たちの哲学や商品のよさを表現できるため、メリットが高いと感じていただいていると思う。商品の開発でも当社は日ごろの商品販売の中で、マーケティングができている。要は顧客の声を反映した商品作りができるわけで、そうしたところと組むことがヒット商品を作るために必要だと思う。

 今回の取り組みは互いに戦略的にがっぷりと組んで売れる商品を開発、販売していくわけだ。オリジナルでヒット商品を作るということは、メーカーも投資するわけで、当社としても当然、何千、何万個と買い取りを行い、当社としても腹をくくって売れなくても売り続ける。互いにリスクを背負い、真剣勝負をしっかりやっていくと。自分たちだけリスクを取らないと一見、『リスクがない』ような気がするが、それでは成長がない。また、『売ってみたら売れないから、販売をやめます』ではメーカーさんにはついてきて頂けない。『カタログハウスは1回売れなくても何回でもトライして最終的にヒット商品にしてくれる』という信頼感が必要だと思う。まだ、取り組み始めたばかりだがいくつかヒット商品が出てきており、非常に期待している。『パートナーメーカー』としてお声掛けしたのはいずれも技術力があって、当社とはこれまで取り引きがあまりなかったところが中心だ。『新しいメーカーとの新しい取り組みが、新しい可能性を生む』と思っている。メーカーさんとしても期待されていると思う。我々としてはその期待に対して、実際に結果を出して長い取引関係を続けていきたいと思っている」

―― 前期はテレビショッピングにも着手したが状況はどうか。

 「メディカル枕やマキタの掃除機、ドライヤーのルーツアップなど『通販生活』で売れている商品からまずは初めて、最近では健康食品などリピート商品のようなものに変えて可能性を試している。カタログとテレビの表現はだいぶ違う。例えば、テレビショッピングでは『今なら3000円引き』など煽る表現で訴求力を強めるのが主流でそれをやればある程度、売れることはわかっているが当社が今、それをやっても仕方ない。それをやればやるほど過当競争になるし、当社のカラーを損ねることにもなる。目指すべきは『大人がきちんと見られるようなテレビショッピング』で、品があって信頼できる作りや表現の方法を模索している。"ないものねだり"をしているから、なかなか難しく、時間もかかっている。ただし、もともとの目的は『新しいスタイルを確立するための研究』だ。あくまでも当社らしさを突き詰めていきたい。それでもCS局やBS局で関しては利益を出せる構造がしっかりと見えてきた。この時間帯にこの商品でこういう表現であれば大丈夫というような段階に来れば地上波でもやっていけるようになってくると思う。テレビ通販に限らず通販カタログではない媒体での可能性を見ていくことも大切だ。『通販生活』で売れている商品は他でも売れる可能性があるわけで、テレビやウェブ、織り込みチラシと新聞など外の媒体を使ってテストをしていかねばならない。この媒体ではこういう表現をしたら、これだけレスポンスが伸びるだとか、逆にだめだとか。丁寧にトライアンドエラーを繰り返しながら、その成功ルールを今、作っていっているところだ。PDCAを速く回しそれぞれの"お客様像"を見極めていくことが必要だと思う」

――ネット販売についてはどうか。ここ数年、様々な施策を行い、試行錯誤を続けてきたが。

 「まだ、試行錯誤の真っ最中だ。本当の意味で紙の通販会社でウェブで成功しているところはないと思う。強い媒体をもっていると軸足がどうしてもそこに行ってしまうという側面もあるのではないか。当社としても正直、まだ確たるものがないが、モバイルと動画に可能性があるのだと思う。若い層はパソコンは使わず、もはやスマートフォンしか使っていない傾向にある。そのモバイルでモノを売る時に文字で説得して売れるかと考えると難しいだろうと思う。そのため、重要となってくるのが動画ではないかと考え、我々は『購買につながる動画』とはどういうものなのかを研究中だ。活字で言えば商品説明をなぞる文章は誰でも書けるが、『買わせる文章』を書けるかが重要でそれは動画についてもそうだと思う。若干ながら答えも見えつつある」

――今後の戦略は。

 「これだけ混迷した複雑な時代に何年か先の会社の状態とか、経済状況を読み抜いて計画を発表できる経営者はそんなにいないと思う。私もそうだ。ただ言えることは、『通販生活』で安定的な収益を確保しつつ、新たなテレビやウェブ、モバイルといった新たなチャネルを確立し、その連動で収益と顧客リストを集めていく。この新しいメディアへのパラダイムシフトを進めることが重要な戦略となる」

――今期の業績目標は。

 「先ほど、申し上げたようにもともと右肩上がりでどんどん業績を拡大させようという考え方ではない。現実的なことを言えば、今年は鮮度維持とマンネリ防止策として『ピカイチ辞典』を出さないが、新聞広告、折り込みチラシ、テレビ通販、ネット販売などの他の媒体での売り上げ拡大を図っていくつもりだ。今期は前期よりは多少、下がると思う」

――現状の課題は。

 「通販でやることは商品とリスト、媒体の3つしかない。先ほど申し上げたように他では買えないオリジナル商品をしっかり作っていく。それが売れればお客様が増えるし、売り上げも維持できる。『通販生活』にそうした新鮮な商品が掲載できれば、マンネリ防止になり媒体の持続性が高まる。持続性を高めつつ、テレビやウェブ、DMとかなどの他の媒体や、化粧品や健康食品といった新しい商材をその余力を持って成長させていければと思っている」

――カタログハウスという会社を今後、どのような会社にしていきたいと考えるか。

 「『スモール・イズ・ビューティフル』という話をしたが、資本主義経済はフロンティア(未開の市場や消費者)の消滅と富の格差により破たんし、右肩上がりの経済は幻想になった。インターネットの普及により誰もが通販を行う究極の『オーバーストア状態』になった。相対的にモノが売れない時代に、現実を無視して毎年10%アップを目指すといっても絵に描いた餅だ。これからも当社は1000億円を目指すとかいう話はない。現実を無視した無理な計画は何かしらの破綻を生む。大切なのは『確実性』と『安定性』ではないか。今の会社の適性規模とバランスを維持して、社員と社員の家族のために持続可能性をしっかり作って、しっかりと収益を上げて、会社を持続させていく。その結果として当社では様々な支援活動を行っているが、そういう活動も続けられ、社会的な弱者の方たちに手を差し伸べることもできる。そういう会社にしたい。それは私の考えだけでなく、創業者の斎藤が描いた理念でもあり、当社の社員みなが思っていることだ」

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