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“豪華な体験”を訴求<ジャパネットが挑むラグジュアリークルーズ> 全室スート、バトラーサービスも

2024年 5月 9日 12:00

 ジャパネットグループが展開する大型客船で各地を巡るクルーズ旅行の販売が順調だ。クルーズ旅行を商材として販売する事業者は増えているが、ジャパネットでは単にクルーズ船の客室を販売するのではなく、客船一隻すべてをチャーターすることで船内のサービスに主体的に関与、クルーズに不慣れな日本人客が過ごしやすいように船内のサービスや接客を工夫、また、そうしたサービスやクルーズの楽しさをテレビ通販などで分かりやすく訴求していったことで参加者は順調に拡大。昨年、13回催行したクルーズ旅行はどれも盛況。年間累計参加者は4万人を超え、同社では過去最多となった。今年は好調なクルーズ旅行をさらに拡大させるために、リピーターや富裕層向けにより豪華な体験ができるラグジュアリークルーズを展開することを決め、第一弾として豪華客船「シルバー・ムーン」によるクルーズ旅行を催行した。全室スイートルームの客室を備え、専属バトラー(執事)によるサービスといったラグジュアリーな体験ができるほか、これまで培ってきた乗客の利便性を高めるためのノウハウが生かされた工夫が盛り込まれている。ジャパネットが新たに手掛ける”豪華クルージング”とは――。
 
日本初就航の豪華客船で巡る

 ジャパネットグループでクルーズを含む旅行事業を手掛けるジャパネットツーリズムは船会社のシルバーシー・クルーズが運営する日本初就航となる豪華客船「シルバー・ムーン」をフルチャーター(全室貸切)し、3月30日に東京を出航し、和歌山・熊野および新宮、徳島、韓国・釜山、長崎、鹿児島、奄美大島、伊勢志摩に寄港しながら、再び東京に帰港する10泊11日の同社で初のラグジュアリークルーズを催行した。

 同社がクルーズ旅行で主に使用している客船「MSCベリッシマ」の総トン数は17万1598トン、19デッキの船内には2217室の客室があり、5000人以上が宿泊できるのに対して、「シルバー・ムーン」の総トン数4万700トン、11デッキの船内には客室は298室、乗客定員は596人と客船としては比較的小型だ。

 ただし、小型ながらも国際的なクルーズ船の格付けで最高評価の6スター+を獲得している船会社のシルバーシーが所有、運航するラグジュアリーシップで、乗客数が少ないからこそ、混み合うことなく優雅で快適な体験が楽しめるような設備・サービスを備えている。参加費についてはジャパネットが手掛けるクルーズで一般的な「ベリッシマ」での9泊10日日本一周クルーズの場合の中心価格は一人30万円前後であるのに比べて、「シルバー・ムーン」では最もリーズナブルな客室でも一人109万8000円と高額。しかし、その分、船内には乗客が快適に過ごせる客室、行き届いたサービス、上質な食事を提供し、他のクルーズ船とは一線を画したものとなっている。
専属バトラーが 要望聞きサービス

 客室は広さ(36~146平米)などによって8種のグレードがあるものの全室ともスイートルーム仕様。寝室とリビングスペースが仕切れる作りとなっており、また、客室にはベランダとバスタブが付いている。特にバスタブは船という限られたスペースであることや文化の違いで外国船にはない場合が多い。日本人客にはうれしい設備といえよう。

 同船最大の特徴と言えるのが専属バトラーによるサービスだ。乗客は自身を担当するバトラーに客室内の電話や直接話しかけることで様々な要望を伝え、バトラーはすぐにその要望に対応したサービスを行うもの。バトラーマネージャーのムンテアヌ氏によると、専属バトラーが勤務外の時間には他のバトラーがカバーする形で24時間、乗客の要望に対応する。「お客様には何でも要望頂きたい。できる限り本当に何でも対応する」(ムンテアヌ氏)とし、船内にあるレストランやスパの予約の代行や食事や飲料などのルームサービスのほか、硬さなどが異なる枕の交換、風呂の準備、荷ほどき、靴磨きなど乗客からの様々な要望に対応する。コミュニケーションは英語となるが接客のプロとして乗客の要望を察するように各バトラーが努力したり、日本語でのあいさつを行うなどし、利用のハードルを下げることでバトラーは便利だと乗客の評価も上々だったようだ。

人気日本料理店が特別に船内出店 

 食事もこだわった。「日本食も海外船でありながらもラグジュアリー船のレベルにあうよう日本で食べるよりもおいしいと思って頂ける日本料理の提供を目指した」(同社)という。通常、船内にはフレンチやイタリアンなど様々なジャンルのレストランやバーなど9店があり、そうした船内レストランへの出店は船会社が主導で契約することが普通。今回、ジャパネット側が直接交渉してジャパネットのクルーズ限定で7年連続ミシュラン1つ星の東京・荒木町にある日本料理店「鈴なり」が船内出店した。「鈴なり」では「名物料理の『玉地蒸し』を提供できるように本来のレシピを変えたり、焼き魚も店のように焼き台がない中でもクオリティが保てるような焼き方を考えたり色々と工夫した」(「鈴なり」店主の村田明彦氏)。

 クルーズ船によっては入れ替え制で食事する時間、また、レストランもあらかじめ、決められていることも多いが、「シルバー・ムーン」では営業時間は店ごとに異なるが営業中であれば、好きな時間に好きな店で追加料金なく食事を楽しむことができる(※一部のレストランではディナータイムは事前予約が必要。また、テーブルチャージ料が別途必要)。料理も毎日、異なるメニューを提供するレストランも多く、日替わりはもちろん、朝食・昼食・夜食すべて毎日、異なるメニューとし、乗客を飽きさせない趣向を凝らした食事を提供した。

各種船内設備やイベントも充実

 船内で乗客を楽しませる設備やイベントも充実。カジノやスパ、ビューティーサロン、フィットネスジム、プールなどの施設は自由に利用できる(※一部、有料および要予約)ことに加えて、もともと船内にある洋書が置かれたライブラリースペースでは青山ブックセンターに選書してもらった日本の書籍を1000冊以上をジャパネット側が持ち込んで無料で貸し出しを行う「ジャパネットライブラリー」なども用意。また、座席数が300席以上ある「ベネチアン・シアター」などを会場に船内コンサートを頻繁に開催。「シルバー・ムーン」側が企画するものに加えて、著名なジャズ・トランペット奏者の日野皓正さんらによるジャズコンサートや歌謡ショー、漫才などジャパネット側による事前に内容を明らかにしていない企画も随時、実施しているため、ほぼ毎日、イベントが開催されている。

 また、ジャパネットが企画したイベントとして意外な盛況ぶりとなったのが10・11デッキにあるプールの周りを会場に毎朝開催したラジオ体操。参加するたびに専用カードにスタンプが押され、一定数に達すると寄港地に由来したものを景品として贈与する。「子供のころ、夏休みに通ったことを思い出して楽しい気持ちになる」と参加者からは好評だった。イベントを多数行うことで乗客同士のコミュニケーション作りにも一役かっていたようだ。

寄港地ツアーもラグジュアリー

 各寄港地で実施するオプショナルツアーにも力を入れた。自由に観光することもできるが、ガイド付きのバスで当該寄港地の名所を巡ったり、地元の有名料理店で昼食を食べたりできる時間や料金が異なる複数のツアーを同社スタッフが地元の旅行会社などと連携しながら有料ツアーとして各寄港地で企画した。例えば徳島に寄港した際には鳴門市にある特殊技術によって陶板に原寸大で再現した古代壁画から現代絵画まで世界の様々な美術館が所蔵する約1000点の名画を鑑賞できる大塚国際美術館を完全貸し切りして同ツアーの参加者のみがゆっくり鑑賞できるなどラグジュアリークルーズ旅行にふさわしい企画となっている。

 また、「シルバー・ムーン」は客船としては小型で、大型客船では難しかった港にも寄港できるため、これまでジャパネットが手掛けるクルーズ旅行では行ったことのない、例えば奄美大島のような寄港地で新たな体験ができることから、より現地でのツアーの満足度も高かったようだ。

船内オフィスで サービス磨き込み

 豪華な客室や食事、施設、イベント、オプショナルツアーが「シルバー・ムーン」によるクルーズ旅行の”醍醐味”であることは間違いない。ただ、全体のクオリティーを高めることに強く貢献しているのはジャパネットのスタッフ主導による船内の状況を把握した上で行うサービスだろう。

 これまでのクルーズ旅行と同じく「シルバー・ムーン」にもジャパネットツーリズムのスタッフが乗船。客室一室を「船内オフィス」として福岡の本社と連携しつつ、船内スタッフが船内の状況を船側や乗客からのアンケートなどをもとにリアルタイムに把握しながら適切かつ必要な取り組みや改善を行っている。

 例えば毎日、客室に配布する「ジャパネットクルーズ通信」は記載する内容を直前まで変更できるよう作り置きではなく、船内オフィスに持ち込んだプリンターで印刷している。そのため、例えば、「バトラーサービスをどう使えば分からない」という声があった場合に「バトラーサービスの1つに『靴磨き』がある。専用袋にいれて伝えると磨いてくれます」という内容のコラムを「バトラーに感謝を伝える簡単な英語表現」とともに記載するなど、そのタイミングに掲載すべき適切な内容を盛り込むことができている。

 また、レストランで食事をする際に本来の英語でのメニュー表記の上に日本語メニューを挿入する、接客スタッフが除菌シートを配る、客室内の冷蔵庫に補充される飲料に日本のメーカーのビールを入れる、寄港地の銘菓を配る、というような細かな施策も船が出航して時間が経過したタイミングで行われた帯同するジャパネットのスタッフが船内の状況を把握したうえで、適切に対応または船側に協力を依頼することで実施したことだという。

 加えて、これまでのクルーズ旅行でも実施したように「シルバー・ムーン」でも船会社のカウンターとは別にジャパネットのスタッフが対応する日本語が通じるカウンターを船内に設置。”ちょっとした困りごと”に対応したり、本来の業務ではない場合に必要なところにつないだりと英語が堪能でない多くの乗客にとって頼れる場所となっていたようで、「日本語が通じて助かった」との声も多く聞かれた。

 派手ではないが、こうした取り組みこそ、日本人客の満足度を引き上げる大きな要因となっているだろう。

 「ジャパネットでは優れた商品を見つけて、よりよく改善して、それを分かりやすくお客様に説明するという『見つけて磨いて伝える』ことを大切に事業を展開しており、クルーズも同じ」(ジャパネットツーリズムの茨木智設社長)とする。

 初のラグジュアリークルーズとなった「シルバー・ムーン」によるクルーズ旅行。今後もクルーズ初心者をターゲットとした大型客船によるクルーズと並行して、リピーター向け、富裕層向けとクルーズ旅行に慣れている人をターゲットした商品としてラグジュアリークルーズを今後も催行していく考え。「今回の経験を踏まえて、次(のラグジュアリークルーズ)はよりよいものにできるはず。船内サービスや寄港地の選定、オプショナルツアーの内容などをさらに磨き込んでいきたい」(茨木社長)と意気込む。
 
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