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【揺れる景表法② 「著しい」とは何か】 高裁が示した“条文解釈”、「顧客誘引性」もって「著しい」判断

2019年 4月11日 13:10

 日本国憲法21条で保証された「表現の自由」と誇大広告等を規制する景品表示法の関係をどう整理すべきか。景表法の立法経緯と条文を検討する必要がある。ポイントは条文にある「著しい」という言葉の解釈だ。

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 景表法は何を規制しているのか。商品やサービスの表示が、事実と相違して「著しく」優良である(優良誤認)、あるいは「著しく」有利である(有利誤認)と誤認させるのを禁じ、違反行為を止めさせるなど行政処分を命じる。

 ではなぜ、この法律ができたのか。引き金は食品の偽装表示だ。

 「缶詰にハエが入っていた」。1960年、ある消費者から保健所に寄せられた苦情を受け、東京都と神奈川県が調査を始めると、食品衛生とは別の問題が浮上した。

 「牛肉の大和煮」として販売されている缶詰のうち、ほとんどが鯨や馬の肉だったのだ。もともと、問題となった鯨肉入り牛缶はあるブランドの偽物だったという。ところが、正規品も中身は鯨肉という笑えない結果。「赤信号、みんなで渡れば怖くない」とばかり、業界に不正表示が横行し、表示が信用できない状況だった訳だ。これでは消費者は製品を選べない。

 「ウイスキーを飲んでハワイに行こう」。時期を同じくして、懸賞広告の極端な高額化が進んでいた。「家電製品で戸建て住宅が当たる」「チューインガムで1000万円が当たる」などと、商品の品質そっちのけで、射幸心を煽る表示がはん濫し、本来の競争が歪められているとの批判が集まった。夢はあるが商品ではなく宝くじを買っているようなものだろう。

 こうした問題を背景に1962年に制定されたのが「不当景品類および不当表示防止法」、略して景品表示法だ。景品や表示の問題は、特定の業界に寄らず、幅広い分野に及ぶため、内閣府に属する公正取引委員会が独占禁止法の特例法として、所管することになる。その目的は(1)違反行為類型の明確化(2)違反処理手続の迅速化(3)業界の自主規制体制を確認の3点とされる。

 注意すべきは法律の名称上、「景品」が先で「表示」は後であること。つまり、立法時の問題意識は過熱する懸賞広告にあったと言えよう。

 実際、初期の表示事件は不動産のおとり広告(駅から徒歩5分と広告していたが、実際は15分以上)、土産品の過剰包装(土産を買って家で開けたら底上げしてあった)などが中心だ。法律の条文の言葉通り、事実と相違して「著しく」優良である表示を止めさせていたのだ。

 「表現の自由」との関係においてもこうした運用であれば、現状のような緊張関係は生じにくい。

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 しかし、ある事件をきっかけに景品表示法の「安全装置」が外れてしまう。2002年に東京高裁で、景表法違反との公取委の判断を支持する判決が出た「クリアベール」事件だ。

 これは空気清浄機の性能に関し「電子の力で花粉を強力に捕集するだけでなく、ダニの死骸・カビの胞子・ウイルスなどにも有効な頼もしい味方です」などと表示したことに、優良誤認で景表法違反としたものだ。

 当時、空気清浄機はまだ目新しい商材で問題となった「クリアベール」シリーズは、パイオニア的な存在だった。

 どの程度の効果があるかは判断が難しく、公取委は専門家に徹底した調査を依頼し、表示と実際のかい離を突いた。

 当該メーカーは公取委から景表法違反の処分を受けた後、販売不振で倒産。ただ、その後も公取委に不服を申し立てて、これが審決で退けられると、今度は審決無効を求め提訴するなど、全面的な争いとなった。

 判決は先に触れた通り、公取委に軍配があがったが、ここで景表法における「著しい」という言葉の定義が法的に示され、これが取締りの「お墨つき」となる。高裁は「著しい」を「誇張・誇大の程度が社会一般に許容される程度を越えているもの」として、「誤認して顧客が誘引されるか否か。誤認がなければ顧客が誘引されることは通常ないだろうと認められる程度の誇大表示」とした。つまり「顧客誘引性」があると「著しい」と判断される。現在、消費者庁は景表法の解説を行う際、このことを強調する。当局には極めて好都合な解釈なのだ。

 しかし、この判例は踏み込み過ぎだ。そもそも、広告表現は顧客を引きつけるために行うもので、誘引性がなければ、広告の意味がない。しかも表示や言葉に「顧客誘引性」があるか否かは、あいまいで、結局は当局の裁量になる。

 この判例によって、「著しい」優良誤認の範囲は、実質的に大幅に拡大することになる。そして、さらに景表法は、表示の取締りにおいて魔力的ツールを得る。それが「不実証広告規制」だ。(つづく)
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