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「データの乱用」にメス 欧州委が米アマゾンに警告、出店者データ不正利用か

2020年11月26日 07:30

 各国の競争当局がプラットフォーマーによる「データの乱用」への監視を強めている。EUの欧州委員会は、米アマゾン・ドット・コムにEU競争法(独占禁止法)違反の疑いがあるとの見解を通知。米アマゾンによる出店者データの不正利用の可能性にメスを入れた。「データの乱用」は、すでに同様の行為がある可能性が日本国内でも確認されている。公正取引委員会もEUの調査を注視する。
 




「支配的地位乱用」の疑いで調査  

 欧州委は昨年7月、米アマゾンによる出店者データの利用に関する調査を開始した。11月10日、EU競争法の「支配的地位の濫用」違反の疑いがあると警告する「異議告知書」を送付。米アマゾンが出店者データを不正に利用して販売戦略を調整したと指摘している。また、商品の検索表示において自社の小売部門や、自社の物流サービスを利用する出店者を優遇していたとして調査を開始する方針も示す。

 日本国内の独禁法調査と異なり、欧州委の調査内容、証拠資料はアマゾン側にも公開される。今後、アマゾンには欧州委や各国の競争当局代表者の前で反論の機会が与えられる。これら手続きを経て、欧州委は最終的に禁止決定(措置命令)を判断する。

小売部門、出店者データ利用か

 指摘されたのは、販売者に売り場を提供する「運営者」の立場を利用した「データの乱用」だ。アマゾンは、「運営者」であると同時に、小売事業者として、出店者と競合する「販売者」の側面も持つ。運営者の立場では、出店者の商品の注文数や出荷数、販売実績、出店者が行ったオファーに対する消費者の反響などのデータにアクセスできる。

 欧州委の調べでは、アマゾンの小売部門の従業員は、これら大量の非公開データにアクセス。これを活用し、オファーや販売戦略の意思決定に活用していたという。とくにEU最大の市場であるフランス、ドイツで「優位性を活用」と指摘。小売事業者の間で通常発生するリスクを回避し、出店者に不利益を与えていたとする。

自社、FBA利用者の表示優遇も

 サイト表示でも「支配的地位の乱用」の疑いが持たれている。

 アマゾンの通販サイトは、販売価格が安いなど諸条件を満たすことでサイトトップに商品が表示される”カートを取る”状態になる。他の商品より目立ち、売り上げにも貢献する。このため出店者も”カートを取る”ことを重視する。

 アマゾンは、自社の小売部門や、出店者に提供する物流サービス「FBA(フルフィルメント・バイ・アマゾン)」を利用する出店者の商品に有利になるよう検索結果を表示していたという。

 欧州委は、アマゾンのこうしたビジネス慣行についても2回目の詳細な調査な調査を行う方針を通知。昨年、イタリアの競争当局が先行して国内市場に焦点を当てた調査を開始しており、連携して調査する。

出店者の4割「後追い販売」懸念

 「データの乱用」への警戒感は、日本国内でも強まっている。

 公取委は2017年に行った「データと競争政策に関する検討会」で、データの不当な収集や囲い込みが問題となるとの見解を示した。従来、金銭を媒介とした商取引を取締り対象にしていたが、データに金銭と同等の「経済的価値」を認めた。

 昨年10月に行った実態調査では、出店者からプラットフォーマーが出店者データをもとに同種の商品を後追い的に販売しているなど、EUが指摘する「データの乱用」と同様の指摘も多く寄せられている。

 調査では、アマゾンが出店者の商品と類似・同一の商品を自社販売することが「あった」と回答したのは41%。次点の楽天は16%にとどまり、他のモールを圧倒している。

 類似・同一商品の販売方法(複数回答)も「より低い販売価格で販売した」(83%)、「優位な条件を設定して販売した」(57%)との回答が寄せられ、8割超の出店者が事業活動に「深刻な影響」「ある程度影響」と回答した。

 サイトにおける商品の検索結果の表示(複数回答)も、アマゾンに対し、「表示位置等の決定する基準、検索順位を決める基準が不透明」(56%)、「運営事業者の販売する商品を有利に表示させる」(36%)、「優位な表示位置、検索結果を表示させるには、運営事業者のサービスを利用するなど対価の支払いが必要」(38%)といった回答が寄せられている。いずれも「データの乱用」や、FBA利用者の優遇の可能性を示唆するものだ。

 政府は今年6月、プラットフォーマーによるこうした行為を事前に規制するため、「出店者の商品売上額等のデータ取得・利用条件」、「検索順位の決定に影響する事項」などの開示を義務づけるプラットフォーマー規制法案を成立させている。

                                                                   ◇

 EUの調査を受けた今後の対応に公取委は「調査を行うかどうかは言えない」とする。ただ、EUの公表翌日に行われた定例会見で、菅久修一事務総長は、「日本における対応に生かしていきたい」と発言している。

 アマゾンの実名を挙げて行った実態調査からも「データの乱用」に対する出品者の不満は顕在化している。公取委もこれら行為が独禁法の「競争者への取引妨害」にあたる可能性があるとの考えを示している。今後の公取委の対応が注目される。


争えば違反認定10年か、自発的措置で改善の可能性も

<EU調査、国内への影響は?>

 GAFAと呼ばれる巨大IT企業にEUの欧州委員会は一貫して厳しい姿勢で臨んできた。自国企業がターゲットとなる米国はこれをけん制してきたが、昨年、プラットフォーム市場の実態調査を行うなど圧力を強めている。公正取引委員会はどう動くのか。

 「データの乱用」に対する監視は、欧州委による規制が先行している。17年6月には、グーグルに対し、消費者が入力した検索語に対応する「グーグルショッピング」を優先的に検索結果として表示していたとして問題視。検索エンジンとしての支配的地位を乱用したとして約24億2000万ユーロ(約3000億円)の制裁金の支払いを命じている。デジタルプラットフォーマーの公平性・透明性確保を図る規則においても検索エンジンを規制対象にする。

 一方で、アマゾンによる出店者データの不正利用に関する調査の行方について、独占禁止法の専門家は、「結論を得るには10年かかるのでは」とみる。

 前出のグーグルに対する調査が始まったのは、15年4月。ただ、グーグルは、欧州委の判断を不服として訴訟に発展しており、結論は出ていない。

 日本では16年、マーケットプレイス出店者との間で価格・品ぞろえに関する同等性条件を定め、出店者の事業活動を制限しているとして公取委が立ち入り検査を実施。アマゾンが同条項を撤廃する方針を示したことから審査を終了した。

 18年には、商品の納入業者に不当な協力金を負担させていたとして、「優越的地位の乱用」の疑いで立ち入り検査を実施。今年9月にアマゾンの確約計画を認定している。

 ただ、「データの乱用」を対象に正式に審査が行われた例はないとみられる。背景の一つに立証のハードルがある。

 欧州と日本における独禁法調査の違いの一つは、警告にあたる「異議告知書」の送付にあたり、欧州委の調査データ、証拠等が情報開示される点。このため、アマゾンの反論も予想される。欧州委も競合の排除効果、排除の可能性について大規模な経済分析を行い立証する必要がある。

 公取委は、欧米の競争当局に比べ、経済学や博士号を持つ職員、弁護士など有資格者が少なく、人員、予算とも不足する。このため、確約手続きなど事業者と協調的解決を図ることで、迅速に市場の公平性確保を図る対応を優先する傾向が強かった。

 出店者データの不正利用が関連する独禁法の条項は、告示で指定する「競争者への取引妨害」。データを不正利用した販売により、結果として出店者による消費者への販売を妨害したり、出店者がメーカーから商品を仕入れることを結果的に妨害するなどの行為が想定される。そこに不当性があれば違反認定される。ただ、「調査を行い、公取委自らデータへのアクセス、利用方法を明らかにするのはハードルが高い」(前出の専門家)とする。EUの調査を受け、「日本国内においてもアマゾンがビジネス上の判断から自発的措置で改善する判断はありうるのでは」(同)との見方もある。


制裁金巨額に、EU競争法との違い

 EU競争法における「支配的地位の乱用」は、競合の排除を規制する「排除型」、取引先への協力金などの金銭提供を要求する「搾取型」の2通りがある。「データの乱用」は前者にあたる。禁止決定に対する制裁金も世界の総売上の1割など巨額になる可能性がある。

 日本の独占禁止法では、「排除型」を「私的独占の禁止」、「搾取型」を「優越的地位の乱用」でカバーする。出店者データの不正利用、自社や自社の物流サービスを利用する出店者の優遇措置も「競合の排除が極端なものになれば『私的独占の禁止』にあたる」(公取委)とする。

 ただ、「私的独占の禁止」は、市場におけるシェアを50%以上とする指針が示されている。「どの分野で市場を確定するかによって異なる」(同)としており、絶対条件ではないが、楽天やヤフー、実店舗とも競合する市場における適用のハードルは高い。

 一方、公取委は、運営者としての立場を利用して得た出店者の販売情報、顧客情報等の取引データを自らの販売活動を有利に行うために利用し、競合する出店者と消費者との取引を不当に妨害すれば「競争者への取引妨害」(不公正な取引方法)にあたるとしている。「私的独占の禁止」と異なり課徴金対象ではないが、「不当性」を立証できれば適用でき、広範な取引に対応している。

 
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