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スタジオ使いEC強化へ<ベルーナの中期戦略> SNS活用を本格化

2022年 9月 8日 13:15

 ベルーナでは、2025年3月期を最終年度とする3カ年の中期経営計画において、売上高2610億円、営業利益226億円を目指している。デフレマインドの継続や、コロナ禍による”巣ごもり需要”の減退、原材料・資材の高騰などを受け、当初の計画を下方修正したものだ。目標達成のカギとなるのはネット販売の成長。安野清社長は「ネットはカタログよりも経費がコントロールしやすい。『紙媒体よりも売り上げを伸ばすのは簡単』という気持ちで臨みたい」と意気軒昂だ。

 



 同社の2022年3月期連結業績は、売上高が前期比6・6%増の2201億円、営業利益は同12・1%減の138億円だった。昨年4月までは巣ごもりの影響があったものの、5月からは急速に需要が減退。主力のアパレル・雑貨事業において、既存顧客のレスポンスが悪化し、収益性が低下したことなどが減益の要因だ。

 通販事業(アパレル・雑貨事業、化粧品健康食品事業、グルメ事業、ナース関連事業の合算)における稼働顧客数は、20年3月期においては595万人だったが、コロナ禍を受けて通販事業が急速に伸びた21年3月期は722万人と急上昇。ただ、22年3月期はやや減り、716万人となっている。

 同社の安野清社長は「レスポンス率が悪化したといっても、巣ごもり需要時のレスポンス率が良すぎたというのが実際のところ。新規・既存顧客ともに、レスポンス率はコロナ前に戻ったというイメージだ」と語る。

 ただ、今期に関しても稼働顧客数は横ばいか微減を見込んでおり、アパレル・雑貨事業における23年3月期の売上高は、前期比8・3%減の900億円、営業利益は同23・4%減の16億円を見込んでいる。巣ごもり需要が一巡したことで、今期も踊り場となるとみている。

 こうした中で、重要度を増しているのがECだ。同社の場合、「ベルーナ」や「ルフラン」といった60~70代向け媒体が主力であったことから、これまでEC比率はあまり高くなかった。通販事業全体での22年3月期EC比率は、前期から0・9ポイント減の27・9%。アパレル・雑貨事業においては、3・2ポイント減の23・3%にとどまっている。

 安野清社長は「原油価格の高騰や極端な円安もあり、今までの延長線上の経営では難しい部分があると感じている。ただ、逆に言うとチャンスでもある。旧来の良いものはそのまま継承し、新しいものを取り入れていきたい」とした上で、「やはり今後はどれだけネットへとシフトできるかが重要になる。アパレル・雑貨事業において20%まで来ているEC化率を、いかに30%、40%と増やしていけるかだ」と話す。

 これまで紙媒体を中心に事業を展開してきた総合通販企業は、「既存顧客の注文ツールを紙からネットへ移行させる」ことに腐心してきた。ただ、それでは顧客数が増えず、いずれは先細りとなる。安野社長は「紙の顧客をネットに移行させるのではなく、紙は紙で売り上げを維持しながら、ネットで顧客を開拓していかなければならない。そのためにはMDが重要であり、マーケティング力も大事だ。また、SNS等を使った販促もしていかなければならない」と語る。

 まずは「インターネットで売れる商品」を開発していく。若年女性向けファッションブランド「ジーラ」では今春、カタログを廃止してEC専業ブランドとした。最新のトレンドを、いち早く反映しながらMDを行うのが狙いだ。「EC専業としたことで、商品企画の進め方や情報収集方法が全く変わり、ベンダーも大幅に入れ替わっている。結果的に、タイムリーな新商品を毎月投入できるようになっている。出店している『ゾゾタウン』では急激に売り上げが伸びるなど、成果が出ている」(安野社長)という。今期に関しては、カタログを廃止したことで一時的に売り上げは落ちるものの、来期は拡大基調となる見通しだ。

 また、ジーラよりもやや上の年齢層をターゲットとしている「ラナン」も紙からEC中心へと切り替える。「そのためにも重要なのは、いかに『ラナンらしさ』を出してブランド化していくか。価格訴求以外の要素で売れるブランドにしていきたい」(同)。これまで同社のECは、売り上げを作るためにセールに依存しがちだったが、ブランドごとにトップページを持たせるなど、ブランドの特徴をきちんと打ち出す方針に転換しているという。

 EC強化に向けて、7月には撮影スタジオを備えた「ベルーナ アリコベールオフィス」の稼働を開始した。スタジオはテイストの異なる4つのブースを用意。あわせてジーラなどのEC専用商品企画部門、RyuRyuモール運営部門、新事業部門、大きいサイズアパレル子会社・ミンの企画部門が移転。100名程度が勤務している。

 同社がスタジオを保有するのは初。これまではカタログ通販をメインとしていたため、撮影から誌面への写真掲載までのスピード感はあまり必要がなかった。また、カタログに掲載できる写真の点数が限られており、1商品あたりのカット数が他社対比で少ない状態で展開していた。ところがECの場合、そういった制約がないため、1商品あたり数十カット掲載するのが当たり前になっている。同社がカタログに掲載した商品をネットで販売する場合、少ないカット数で商品を掲載していたため、情報量の点で競合他社に劣っていた。

 同社でもEC専用商品を強化しているため、今後は「自社スタジオで撮影した次の日に写真を載せる」というように、EC時代にマッチした体制に変えていく。また、モデル着用の商品撮影だけではなく、スタッフのコーディネート撮影や、インスタライブの撮影会場としてなど、マルチに活用することを想定している。

 SNS活用に関しては今夏から、ジーラやラナンにおいて、インスタグラムの本格的な活用を開始。すでにセレクトではインスタグラムを使った販促で成果を挙げている。「インスタグラム以外に関しては、まだまだ知見が足りていないので、ティックトックやユーチューブ、ツイッターも積極的に活用していく。顧客との距離を縮めて『応援団』になってもらうという意識で取り組みたい」(安野社長)という。新スタジオを使い、スタッフによるインスタライブなども行っていく。

 EC強化策としては、20~30代女性向けファッションECモール「リュリュモール」を2019年から展開してきたものの、「恒常的にセールを開催する形となってしまい、販促費がかさんだ」(同)ことから、方針を転換。オフィスでのファッション等、仕事着に特化した衣料品などを販売するオフィスファッションサイトへ刷新した。ECでの有名ブランドを集め、手数料ビジネスで同社のEC事業全体を底上げする目論見だったが、「他のファッションECモールよりも規模が小さいのに、似たような商品を同じ価格で販売する形となってしまい、差別化ができなかった」。今後は専門モールを目指すことで差別化し、収益性を確保する。

 一方、60~70代向けアパレルブランドに関しては、引き続き紙媒体を中心に事業を展開していく。現在、アパレル・雑貨事業のうち、60~70代向けの売り上げは60~70%を占めている。ECを強化することで、それよりも下の年齢層で新規顧客を開拓、EC売り上げを倍増させることで、60~70代向けの売上シェアを50%程度まで下げたい考えだ。専門性やブランドとしての「らしさ」を全面に出すことでEC売り上げを拡大していく。

 同社では、中長期的な目標として、連結売上高3000億円、営業利益300億円を目指している。安野社長は「当社の特徴は柱をたくさん作る『ポートフォリオ経営』。ECを強化するとともに、化粧品健康食品やグルメ、ナース関連、物流関連、呉服などの事業をもっとブラッシュアップしていきたい」と意気込む。

 
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