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組織改革通じ意識改革へ<DHC、再生のシナリオを聞く 代表取締役会長兼CEO 髙谷 成夫氏> 企業に根づく「DNA」見つめ直す

2023年 6月 1日 12:00

 ディーエイチシー(=DHC)は今年4月、経営体制を刷新した。今後、組織改革を通じて従業員の意識改革を進める。髙谷成夫代表取締役会長兼CEOに、再生のシナリオを聞いた。

 










トップダウン経営から脱却

 ――就任の経緯は。

 「オリックスが事業承継案件のM&Aとしてデューデリジェンスが開始した段階で業界、ビジネスモデルに対する知見を求められ、アドバイザーとして関わっていた。買収完了後に打診を受けた」

 ――外部から見ていたDHC、吉田嘉明前会長の評価は。

 「ファンケル、オルビスなどと通販の黎明期に同じタイミングで立ち上がってきた経緯もあり、参考にさせてもらっていた。ベールに包まれた会社、強烈なカリスマ経営者によるトップダウン経営のイメージを持っていた。そこはスピード感や決断力、一歩先を越されるところもあり、羨ましい面もあった」

 ――そのトップダウン経営から脱却を図る。3代表体制に移行したが役割分担は。

 「社長の宮﨑(緑氏)は経営執行の中心を担う。私は、事業構想、事業戦略など中長期的観点で会社をリードする。副社長の小髙(弘之氏)は、オリックスとして多くの投資案件を手掛けてきた中で、成功例・失敗例の経験値を持っている。PMI(M&A後の統合プロセス)や株主とのコミュニケーションで重要な役割を担う」

 ――意思の共有は図れているか。

 「顧客視点に基づく意思決定の判断は共有できており、よい形で進んでいる」

 ――実際に会社に入り、従業員、企業文化に対する所感は。

 「よい面は会社、商品に高いロイヤリティを持つ社員が残っていたことだ。もう少し流出している感覚があったが、今なおそのような社員に支えられ、事業運営のベースとなる顧客志向の文化がしっかり根付いていたことは大きい。反対に極端にトップダウンが強く、横の連携がなかったことも企業文化と言える。カリスマ経営者が退かれた中で変えていくことが必要だ」

 ――全社横断型プロジェクト「ProjectBright」を立ち上げた。進捗は。

 「決済権限の移譲に関する規則、横の連携に向けた会議体の整備など仕組み化を通じて意識改革を進める。これまでは考えたものを上にあげるだけで会議をやらない文化。それではいけないという判断をしている」

 ――外部から人材招へいの構想もある。

 「もちろん考えている」

 ――とくに改革に力を入れていく部門は。

 「まず事業運営のリスクになる面は早急な手当が必要になる。品質保証体制、コンプライアンス、ITインフラの整備はすでに着手し、組織として動ける体制をつくった。今後は、商品・サービスの企画・研究・開発、マーケティング機能の強化が必要になる」

価格訴求見直しブランド再生

 ――DHCの強み、コアの価値は何か。

 「企業がさまざまな人達の思いにより積み上げられてきた価値の束のようなものだとすると、これを形づくるDNAはこの会社にも当然ある。それが顧客志向の文化や顧客資産だ。資産とは単純にリストではなく、ブランドを愛するお客様がいること、そこに真摯に向き合える志向性があることが強みだ」

 「そのベースは商品とサービスのありようになる。化粧品で言えばオリーブオイルからスタートしている。就任早々、スペイン・アンダルシア州の外れにある原料供給元を訪ねた。話を聞く中で40年前、創業者の吉田という人間がこの日本から遠く離れた異国の地に辿りつき、伝承的な抽出方法で精製された原料を探し出し、自ら交渉し、その貴重な原料で商品を作ったことに感慨を覚えた。まさにこれが一つのDNAであり、商品や品質に対するこだわりというより『執念』、よいものをお客様に届けたいという思いのシンボルになっている。商品・品質に対するこだわりは、今なお会社の根底にある。もう一つは顧客志向のベースになるビジネスモデルの強さだ。通販、直営店、流通卸というタッチポイントを持っていることは、優れた商品を届け、最高の顧客体験を提供する意味で大きなアドバンテージになる」


 ――反対に変えていく価値は。

 「企業はいかに強みにフォーカスするかだと考えている。内外で指摘される課題は当然認識している。ただ、弱みを全て解決すればその会社が成長できるわけではない。人格同様、社格もそういうものだ。その意味で強みを磨く。弱みに手を打つ時には徹底的に否定文で語ることが必要になる」

 「これを前提に本来の品質を今一度伝え、最高の顧客体験を提供するために否定すべきものは何か。プロモーションのやり方が価格訴求が非常に突出して伝えられている点は手をつける必要がある」


 ――それは弱みか。

 「DHCはブランドのありようとして、ラグジュアリーブランドのように一握りの特別な方に提供すべき商品・サービスを提供しているわけではない。古臭い言い方をすれば多くの”市井の人々”が手に取れる商品・サービスを最高の品質で提供するのがブランド価値だ。『価格』は重要なファクターになる。顧客体験では、買い物の楽しみやお得感、賢い選択をしたという感覚なども必要になる。それを体現するのは価格だけではないが、価格訴求自体が悪でもない。ただ、自分達で自らのブランドを棄損するやり方、極端な価格訴求は品質、顧客体験にマイナスに働く。大事なところが見失われ、価格だけに突出した点はバランスが必要だろう」

 ――どう変える。

 「プロモーション手法、価格設定、ロイヤリティプログラムも検討する必要があり、簡単ではないが全体最適をつくる。『ProjectBright』は三段階ロケットになっているが、第1弾は組織改革を通じた意識改革、第2段階はいわゆる4P(商品、価格、プロモーション、流通)の改革を基本構想にしている」

流通卸は堅調通販低迷が課題

 ――化粧品事業はここ数年、ヒット不在の印象がある。ブランド戦略を含めた改革は。

 「ヒット商品を作れればこれに越したことはない。ただ、新商品を投入し、成功に導くのはリスクを覚悟するチャレンジだ。当然チャレンジもするが、強みを見つめ直し、お客様にお伝えして認識していただくブランディングが優先だろう」

 ――直営店舗はピーク時の約200店舗から大幅に減らした。チャネル改革の方向性は。

 「最高の顧客体験を提供する視点でいかに組み合わせるかがポイントになる。現状でいえばホールセールは業績的にもかなり堅調に推移している。ヘルスケア中心にサプリでは卸流通のシェア30%を占める。そこは№1ブランドとしての戦い方をしていく」

 「翻って通販の業績はここ数年、非常に厳しい。とくに化粧品領域の低迷は大きな課題だ。直営店は、ダイレクトマーケティングの一環としてリアルな世界観を体現し、通販と連動して顧客体験を提供する。通販でカバーできない市場の開拓を進めるメディアとして重要な役割もある。コロナ禍に収益性の観点から適正な規模(95店舗、7月末時点、予定)に集約してきた。反転攻勢にでやすい環境になっており、スクラップ&ビルドの中で優良な商圏に出店していく」

 ――顧客構造の課題は。

 「中心は中高年層だが、ヘルスケア事業が多くを占める影響もあり、前出の通販大手2社と比較して、少し上の印象だ。化粧品は事業開始から40年経つ。年齢を重ねた固定客に支えられており、かなり上というのが実際のところだ。現状がベストではないが、いかに40~50代の顧客をボリュームとして持つかは継続性の観点から重要だ」

 ――新規獲得の状況は。

 「CPOの高止まりに加え、ここ数年は、前会長の発信が注目され、出稿を強化できない環境から思ったように進んでいない。体制刷新もあり、近くアクセルを踏む」

 ――広告の投資戦略は。

 「一方通行型の広告出稿、メディア活用は効率が合わなくなっている。本来の企業、事業、商品のありようもお客様にオープンな状態になっており、会社の表裏はすぐに見えてしまう。そうなると自分達のありよう自体をきちんとしなければ、時代を勝ち抜けない。SNS、顧客間の情報の流通としてのCtoCを含め、いかに全体として魅力的なコンテンツ、情報を流通させブランド浸透を図るかだろう」

 ――市場の競争環境に対する評価は。

 「ヘルス・ビューティケアの領域はやはり成長市場であるし、やり方次第だ。また、この領域は日本が海外で戦える数少ない領域の一つ。海外展開の成否は、これからの企業成長の大部分を占める」

 ――強化の方針か。

 「まずは中国が重要だ。オフラインで200店舗を展開し、想定していたよりも業績がある。ただ、これまで十分注力できていたわけではない。オンラインとの連携、中国における商品ポートフォリオの見直しなど伸ばせる余地は十分ある」

 ――海外売上高比率は。

 「現時点では開示していない」

 ――市場におけるライバル企業は今もファンケル、オルビスか。

 「特定の1社をコンペティターとして見るというより、各面で対峙すべき相手は違うかもしれない。自らの価値をもう一度紡ぎだすことが今は重要という思いだ」

 ――オリックスグループとのシナジーは。

 「『ProjectBright』をはじめ、PMIの円滑な進行には深い知見が生きている。もう一つ、オリックスの投資対象となる成長市場としてITとヘルスケアを柱に考えている。『医療』、『予防』の各領域で買収案件を持ち、『未病』を担うのがDHCとすると、実業としてヘルスケア領域をかなり持つことになる。DHCとして医療、予防に踏み出す想定はないがシナジーを発揮できる環境は作れる」

業界、社会と接点長期視野に改革へ

 ――改革のゴールと達成のめどは。

 「年内に中期経営計画の策定を進める中でめど値を含め定める」

 ――DHCは不動産を中心に総資産が約1400億円ある。オリックスとしてはこれら売却益だけで十分収益を上げることができる。長期保有で取り組めるか。

 「それは私が答える立場にないが、これまで手掛けた投資案件の多くは長期視点だ。一般的なファンドのように、2、3年という時間軸を前提にはバイアウトやIPOは考えてはいないだろう」

 ――今期の業績見通しは。

 「無理をしてトップラインをあげるフェーズではない。しゃがむ時はしゃがむ必要がある。年内に急激な成長は目指していない」

 ――社会から見た企業イメージなど改革の先にある理想像は。

 「前会長の発言を含め、個人的な政治信条にコメントはない。ただ、法人格として発信したことは真摯に反省すべきと思っている。社会的責任を負う企業としてのガバナンス、前提となるコンプライアンス強化に取り組む大きな転換点になる。とくにダイバーシティの問題は、社会だけでなく、社内的にも尊重することがイノベーティブな会社であろうとするほど必要になる。行動で示すことにより、自ずと顧客や社会からの見え方が変わることを期待したい」

 ――業界との関わりはどう変える。

 「より社会に開かれた会社として日本化粧品工業会や日本通信販売協会など団体、業界との関係性はしっかり作っていきたい」

 ――最後に髙谷会長自身の信条、関係者へのメッセージを聞きたい。今回どのような気持ちで参画を決意されたか。

 「やはりこの会社でやっていくかについて非常に悩んだ部分はある。それだけの重責でもある。ただ、ヘルスケア、ビューティケアの業界でお世話になってきた人間として、もしかしたら最後に近い形での関わりになるかもしれない。その中で最終的に引き受けたのは、DHCという会社のDNAに共感するものを感じた時だと思う。人生100年時代となる中で、そこには健康や、身体だけではない心の豊かさが必要になる。その意味で、より多くの市井の人々が生き生きと人生を歩むための商品・サービスを提供できる仕事、自分の存在意義を賭けて、自分が信じる価値の実現にチャレンジできる環境をこの会社に見出せた気がした。これをDHCの従業員、関係者とともにやり切れるとすれば、こんなに素晴らしく、楽しいことはない。それが信条といえばそうだろうと思う」
 
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