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「送料無料」表示の是非<政府の物流改革案> 適正運賃の“足かせ”に「言葉狩り」の声

2023年 6月 8日 12:00

 「送料無料」の是非が問われている。政府は今年6月、物流の「2024年問題」解消に向けた政策パッケージを公表。「送料無料」表示が適正な運賃収受の足かせになっていると言及し、見直しに取り組むと踏み込んだ。「送料無料」は問題の本質なのか。
 









「物流が軽く見られる」

 「無料でないものを表記しないでほしい」。輸送業界の発展を図る全日本トラック協会の担当者はそう話す。

 政府の「物流革新に向けた政策パッケージ」は、担い手不足や物量のひっ迫など物流産業の輸送力不足の問題解消に向け、「商慣行の見直し」「物流の効率化」「荷主・消費者の行動変容」の3本柱で改革を進める。

 「商慣行の見直し」は、荷待ちや荷役時間の削減など「物流負荷の軽減」、担い手の賃金水準向上に向けた「適正運賃収受・価格転嫁」など6項目に取り組む。「適正運賃―」の中で言及されたのが「送料無料」表示の見直しだ。物流事業者は荷主企業に対する交渉力が弱く、適正運賃を収受できない背景に「送料無料」表示があると指摘する。

 前出担当者は、政策パッケージの内容を「商習慣の見直しは業界だけではどうにもならない。国の後押しはありがたい」と歓迎する。「送料無料」表示には、「そもそも送料は、運送の対価として受け取るもの。現場のドライバーの苦労もある。表示することで物流が軽く見られる。消費者にそういった意識を植え付けてほしくない。荷主事業者、消費者に理解を求めたい」と話す。

「企業努力でコスト吸収」

 「2024年問題」は、通販業界にとっても重要な問題だ。荷主、物流事業者、消費者の3者が協力して解決を図る必要がある。ただ、「送料無料」が悪者かのような文脈で語られることには違和感を覚える。

 「運賃交渉といっても(元請けの要請は)値上げか維持。値下げはない。”それなら運べない”とかなり強硬にくる」。中堅通販の担当者はこう嘆息する。

 当然だが、全日本トラック協会の担当者が指摘するように、通販において送料は”タダ”ではない。企業側の負担を前提に、マーケティング上の広告訴求を検討する中で生まれた表現が「送料無料」だ。ただ、そのしわ寄せをすべて物流業界が負担しているわけではない。

 「LTVを重視する中で、最終利益を見込める購入額、顧客を対象に『〇円以上』、『〇点以上』『初回購入』といった条件で行っている。競争環境も厳しく、常時、全品無料はないのではないか」(同)、「商品は、広告宣伝費や人件費などあらゆる経費から原価が決まる。送料もその一つ。利益を取る目的はなく、企業努力によってコストを吸収している」(通販大手関係者)というのが実際だ。

 運賃の交渉も「アマゾンなど大手の一部を除き、通販は弱い立場。値上げを断って運べなくなれば事業は成り立たない」(同)。政策パッケージは、物流サイドの交渉力の弱さを指摘するが、一律に語れるものではないだろう。

 その中で、「送料無料」がクローズアップされたことに、別の業界関係者は、「言葉狩り。表示するとタダと思われるというのはこじつけ。ワーディングの問題で本質的ではない」と憤る。

荷主の問題のみフォーカス

 昨年12月、公正取引委員会は、原材料費の高騰を受けた大手・中小企業間の取引における価格転嫁の状況を調査した。価格交渉の場を設けないなど独占禁止法、下請法抵触のおそれのある13の企業・団体を公表。是正を求めた。指摘を受けた1社は佐川急便だ。

 今年2月には、経済産業省が中小企業を対象に行ったアンケート調査の結果を公表。下請け振興法に基づき、価格交渉や転嫁に消極的な企業の実名を公表した。「最低評価」を受けた1社が日本郵便だった。いずれも物流において積極的に下請けを活用する。

 物流業界は、多重下請構造だ。荷主の委託を受けた元請けが、中小の下請けに配送を再委託するケースも多い。当然、そこには、運賃・料金の交渉が存在する。ただ今回、運賃の適正収受の問題でフォーカスされたのは荷主サイド。全日本トラック協会の担当者も元請けとの運賃交渉には、「元請けも荷主に(運賃を)もらわないと払えない。仲介だけでコストをとっている悪質なところもあるが、多重構造の実態はつかみづらい」と話すのみだ。運賃の適正化は、業界の多重下請構造に潜む問題の解消も重要なポイントになる。

表示見直しで「解決しない」

 担い手不足から、30年には現状の約3割の物量が運べなくなるとされる「2024年問題」。国も明確な統計数値は持っていないが、通販の物量は決して多くはない。

 売上規模でいえば、約19兆円とされるトラック輸送業界の市場規模におけるBtoC、CtoCの占有率は、「3兆円ほどではないか」(運送事業者)。「不足する輸送能力」も、通販の多くが含まれるとみられる「卸売・小売業、倉庫業」は9%。農産・水産品(33%)をはじめ、製造業の48%を大きく下回る。「全体に占める物量は数%」(業界関係者)との見方もある。「物流ひっ迫の問題になるとすぐEC市場の拡大とないまぜに語られる。物量全体に占める割合は決して高くない。問題は、送料無料の是正で解消するものではない」(同)。

 物流業界関係者からも「見直しはイメージ的にはいい。ただ、見直したからと言って運賃をあげられることには必ずしもならないのではないか」、「なぜ報道で送料無料ばかり取り上げられているのかこちらも分からない。政策パッケージの内容ではもっと大事なことがある」との指摘がある。

 ただ、政策パッケージには、「見直しに取り組む」と触れられている。担当は消費者庁。検討の方向性について、「経産省、国土交通省が中心に議論する中で突如降って湧いた話。24年に問題が顕在化するとなると、消費者調査を行うには時間的制約がある。検討会を行うべきなのか、適正な価格転嫁に向け、問題の核心がどこにあるかを見極め、枠組みはこれから検討する」(古川剛参事官)とする。

 通販関係者からは、表示是正に対し、「本来、『販売者が負担しています』というのが正しい言い方ではあるかもしれない」との声も聞かれるが、「送料無料」表示の是正への言及は、むしろ問題の本質を見えにくくしている。荷主事業者、物流事業者、消費者の三者が問題に対する理解を深め、協力して最適解を見つける必要がある。



法整備で荷主の義務強化、対象事業者の範囲が争点に

<物流政策の行方>


 「送料無料」表示を含め、「2024年問題」の解消に向けた検討は今後どう進むのか。

 物流業界が抱える問題は、昨年9月以降、経済産業省、国土交通省、農林水産省が中心となり「持続可能な物流の実現に向けた検討会」で議論されていた。8回目を終えた今年3月、政府の「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」が発足。6月に「物流の革新に向けた政策パッケージ」を公表し、「送料無料」表示の見直しに言及した。検討会はまだ最終報告に至っていない。消費者庁の担当官が「降って湧いた話」と言うのもそうした事情があるだろう。

 一方、全日本トラック協会は、国土交通省が20年4月、適正な運賃収受に向けたトラック輸送の「標準的な運賃」について告示して以降、取り組みを強化してきた。「労働時間の制約で賃金も下がる。長時間労働しても全体の水準を下回り、さらに担い手も不足している。『標準的な運賃』の告示を背景に交渉しようとしてもはねのけられてしまう」(協会担当者)。

 「標準的な運賃」の周知に向け、告示が行われた際には荷主業界向け専門紙16紙への広告掲載を行ったほか、今回もウェブ広告(=画像)で物流の苦境を訴える。自民党トラック輸送振興議員連盟や自動車議連自動車政策懇談会への積極的な働きかけも行っており、政策パッケージも熱心なロビー活動の成果との見方もある。

                                                                     ◇

 政府は政策パッケージの実現に向け、一部は次期通常国会への法案提出で法整備を進める。「商慣行の見直し」のうち、荷主、物流事業者間の物流負荷の軽減に向けた荷待ち、荷役時間の削減は、先行してガイドラインを示した。
 ガイドラインは、荷主事業者や物流事業者に求める取り組みを整理している。

 物流の適正化では荷主・物流の両事業者に、(1)集荷・配達における荷積みや荷下ろし、付帯業務における「荷待ち時間(待機時間)」や「荷役作業」の時間の把握、(2)荷待ち・荷役作業の時間短縮、(3)物流の適正化に向けた取り組みを行う「物流管理統括者(役員等)の選任、(4)取引契約における物流負担の改善提案――などを求める。

 運送契約の適正化では、(1)契約の書面化、(2)ドライバーが行う荷役作業の料金を支払う者の明確化や適正な料金の支払い(運送契約を直接行わない荷主を含む)、(3)運送の対価である「運賃」と、運送以外の役務の対価である「料金」(荷役作業等)の個別契約を原則とすること――などを求めている。現時点でガイドラインに法的拘束力はなく、義務はない。今後、一部は法制化による規制的措置が導入される。

 対象となる事業者には、「現時点で規定はない」(国交省総合政策局物流政策課)とする。

 省エネ法は、規制対象とする荷主事業者を「3000万トンキロ(貨物の重量×輸送距離)以上」と定めている。「通販では1000億円規模の事業者が対象になってくるが、重量も関係するためサプリメントなど軽量のものを扱う企業は対象から外れるなど一概に言えない」(業界関係者)。

 ただ、「持続可能な物流の実現に向けた検討会」では、物流に対する危機感を高めるため、省エネ法の対象が800社程度にとどまることを例に「対象範囲を拡大すべき」との意見も出ている。対象事業者の範囲は、通販業界にとって重要な争点の一つになる。

 政策パッケージは、業界、分野別に、実態に即した自主行動計画の策定も求める。これには、「義務化ではなく促すもの。業界団体や複数社のグループによる取り組みを想定している」(国交省総合政策局物流政策課)とする。



 
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