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JPとヤマトが協業、ヤマトの小型荷物をJPの配送網で、持続可能な物流に向け両者の強みを

2023年 6月22日 12:00

 日本郵政グループとヤマトグループが6月19日、協業を行っていくことで基本合意した。第1弾としてヤマトのポスト投函型商品であるメール便「クロネコDM便」と小型荷物商品「ネコポス」を日本郵便の配送網での配達に取り組み、今後、協業分野を拡大していく計画。これまで激しく競争してきた両者だが、2024年問題が迫りドライバー不足への対応、またカーボンニュートラルへの対策もあり、手を組むことになった(左から長尾裕ヤマトホールディングス社長兼ヤマト運輸社長、増田寛也日本郵政社長、衣川和秀日本郵便社長=6月19日の会見から)。
 




24年問題・環境問題で競争から共創へ

 今回の協業について、日本郵政の増田寛也社長は会見で、「資源価格の高騰などインフレが進行し、物流業者の外部環境が厳しくなっている。両者で顧客の利便性向上のため、そしてリソースを有効活用することで24年問題や環境問題へ対応していくことを目指す。『JPビジョン2025』を展開し2年になるが、そこで掲げる外部企業との協業を進める『共創プラットフォーム』の実現を目指している。今回の協業もプラットフォームの強化につながるもの」と説明した。

 一方、ヤマトホールディングス・ヤマト運輸の長尾裕社長は、「ともに物流インフラを構築する一員であり、相互のリソースを有効活用するためのスタートラインに立てたことは意義深いことだ。24年問題をはじめとした課題がある中、サービス面で最も優れたネットワーを有する日本郵便との協業で、当社のネットワーク構造の刷新とビジネスモデルの進化につなげられ、環境問題にも貢献していくこととなり、よい化学反応へと進むことになろう」と述べた。

 協業の経緯は一部エリアで行っているメール便のヤマトから日本郵便への委託について、より成果がでるように見直しの話し合いの場を持ったのが発端。そこから、ヤマトの2つの商品について全面的に日本郵便へ委託する話につながった。

 協業の目的は、利便性の向上、24年問題によるドライバー不足への対応、カーボンニュートラルへの対応の3点。それぞれのネットワークの強みを有効活用していくことで、目的を達成していくという。運送事業の労働時間は21年が年間2514時間で、全作業の平均同2112時間と比較し402時間(約20%)の差があるという。この差を縮めるには、「いろいろ壊さないとならない」(鹿妻明弘ヤマト運輸専務)という。

 また、環境問題に関しても、二酸化炭素排出量は19年度に10億2900万トンだったが、地球温暖化対策計画で定められた目標が30年度に6億6700万トンと約40%の削減を求められている。「この削減は普通に取り組んでいては無理」(同)とし、今回の協業を進めていくことが、両者の24年問題、環境問題への重要な対策になるようだ。

ヤマトは投函型の配達を終了へ

 協業の第1弾となる投函型商品の日本郵便への委託は、ヤマトのメール便「クロネコDM便」を24年1月31日に終了し、翌2月1日から「クロネコゆうメール便」(仮称)として取り扱っていくことになる。集荷は引き続きヤマトが引き受けていくが、それ以降の過程においては、ヤマトから日本郵便の引受地域区分局に差し出し、日本郵便の配送網で配達する。

 一方、小型荷物の「ネコポス」は23年10月から順次終了し、日本郵便が取り扱う「ゆうパケット」を活用した新サービス「クロネコゆうパケット」(仮称)への移行を図っていく。ヤマトが顧客から荷物を預かり、日本郵便の引受地域区分局に差し出し、日本郵便の配送網で配達する。最終的には24年度末をめどに、全ての地域で新サービスを提供できるようにする予定。

 ヤマトは現状、通常の宅急便、投函型荷物について別々に仕分けを行うなど負荷が多いとしている。今回の協業を通じて現場での作業が行いやすくなるとの見立てをしている。

 なお、メール便については、これまで15道県でヤマトのものを日本郵便が配達している。ただし、日本郵便が受け持つのはラストワンマイルの部分のみという。

 ヤマトの直近の「クロネコDM便」の年間取扱個数は約8億冊で、売り上げは約500億円、「ネコポス」は同4億個超で、売り上げは800億円弱。合計1200億円となるが、そのうちの一部の金額が日本郵便への委託料になる。

JPの冷蔵冷凍品をヤマトが配達も

 ヤマトはトラック約3万5000台を保有するが、その95%が冷蔵冷凍(クール便)用の設備を搭載。1台当たり、約2000リットルの容量となる。日本郵便は2輪車約8万2000台、軽4輪車約3万台を保有している。

 今回の投函型商品だけでなく、日本郵便の2輪、軽4輪、ヤマトの2トン車、4トン車、さらにヤマトのクール便を組み合わせた取り組みを模索していく。今後検討するとして掲げたのが、ヤマトが日本郵便のクール便を取り扱うことや、ポストの有効活用、受け取り手段など。オペレーションが可能かを見て実現していく方針とした。

JPは佐川とも組むが問題なし

 日本郵便は21年9月に佐川急便と協業を行っていくことを基本合意。それに基づき、日本郵便の「ゆうパケット」や国際郵便サービス「EMS」の佐川急便での取り扱い、佐川急便による日本郵便のクール便の配送などの取り組みを行っている。増田社長は「佐川急便とも関係を深めていく」と述べた。

 また、メール便については、それ以前から佐川急便が集荷したメール便を「飛脚ゆうメール便」として日本郵便が配達。メール便についての独占禁止法上の問題については、「特に大きな問題はない」(衣川和秀日本郵便社長)とした。

確執は過去の話時代が異なる

 会見後の囲み取材で、記者から、以前の対立に関する質問があり、鹿妻専務は「過去はともかく、(現在は)そういう時代ではなくなった。小包・CtoCからBtoCへシフトし、BtoCの荷物が大幅に増えて、考え方が変化したと思う。宅急便はあと3年でスタートから50年になる。50年ずっと変わらないのはおかしい」と回答。一方の美並専務は鹿妻専務の回答を受け、「全く同感、過去にあった確執というのは現在、どうも思わない」と述べた。



再配達を半減、リードタイムの緩和も

【持続可能な物流の実現に向けた検討会 最終とりまとめ決定】 

 経済産業省、国土交通省、農林水産省の「持続可能な物流の実現に向けた検討会」は6月16日、最終とりまとめ(報告書)を決めた。来年4月からトラックドライバーの時間外労働が上限規制されるようになる2024年問題を起点として、今後のドライバー不足への対策に関する規制的措置を含めた内容。通販業界に関連する事項もあり、再配達の削減やリードタイムの緩和、物流価格・コストの可視化などが求められそうだ。

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14%の輸送力不足回避に向け対策 

 検討会は昨年9月に立ち上げ、全11回の会合を行い最終とりまとめに至った。まず、ドライバーの労働時間削減のために具体的な対応を行わない場合、NX総合研究所の試算によると、24年度で輸送能力はドライバーの拘束時間3300時間で14・2%(不足する営業用トラックの4・0億トンに相当)、30年度には34・1%(同9・4億トン)の不足になる可能性があるとしている。

 24年問題に関して荷主企業の認知度が5割程度であり、消費者も物流の危機的な状況に陥りつつあることを見聞きしたのが5割程度。これは、行政による荷主企業や消費者の意識醸成の取り組みが十分でないほか、「商取引において物流コストを明示しない慣習である店着価格制や、商品販売において購入額が一定以上の場合等に送料無料とするサービスが存在」し、物流の状況を理解する機会が少ないことが理由としている。

荷主企業・消費者の意識改革を 

 このような荷主企業や消費者の意識を変えるため、報告書は各種の対応策を打ち出している。一つは荷主企業・物流事業者の物流改善を評価する仕組みの創設をあげる。物流改善の取り組みについて評価するに際し、取り組みを進めるインセンティブとなるもの。2つ目は経営者層の意識改革を促す目的で、一定規模以上の貨物の引き渡し・受け取りを行う荷主企業の経営層に物流に関する管理者を任命し、中長期計画の策定を推進することの検討。

 3つ目は、消費者の行動変容を促す方策の実施で、再配達の削減や置き配の推進、梱包簡素化の受容を求める。1回で荷物を受け取ることや、注文の際の余裕を持った配達設定、配達日の分散に対してインセンティブを付与するといった取り組みをあげた。なお、配達日分散の事例として、アスクルのポイント活用による物流負荷低減施策を掲げており、特定日の荷物量増加に伴う負荷を分散する取り組みを紹介している。

 4つ目が物流に係る広報の強化。様々な民間事業者等と連携するための方策や社会的な運動に発展させていくための戦略の進め方などを調査した上で、持続可能な物流の実現のために各々が取り組むべき事項を伝えることが可能なようなにするとした。

非効率な商慣習・下請構造是正を

 物流事業者のほか、発荷主企業、着荷主企業、消費者などが関与していることから、物流の適正化や生産性向上は社会全体で解決する必要のある課題とした。そこで、物流現場における待機時間、荷役時間などの労働時間削減のための措置、納品回数の低減、リードタイム延長など物流の合理化を図る措置の必要性を訴えている。

 さらに、トラック業界の多重下請構造の是正や運賃の適正収受に資する措置の検討をあげた。下請構造の是正や契約条件の明確化を図るために、建設業法を参考にして荷主企業や元請事業者が実運送事業者を把握できるようにするための運送体制台帳(下請事業者のリスト)の作成などを求めるべきとしている。

 また、発荷主企業と着荷主企業との商取引は、商品販売価格に物流費を含める商慣行(店着価格制)があり、着荷主企業側は物流会社のサービスの程度に関係なしに、発荷主企業に対し同一の商品販売価格を支払うようになっている。これでは、着荷主企業が繁忙期を避けた発注や発注の大ロット化、パレチゼーションなどの物流負荷軽減となる取り組みのインセティブが働かないとする。そのため、物流コスト可視化といった観点から、物流サービスに応じて価格が変動する「メニュープライシング」や「ダイナミックプライシング」の取り組みをするべきとした。

物流標準化・効率化の推進

 最終とりまとめは24年だけの問題でなく、それ以降も物流における人手不足は続く構造的な課題になるとしている。物流標準化や新技術の活用等に中長期的に取り組む必要があるとし、さらにカーボンニュートラルへの対応への対策の推進について具体化するべきとした。デジタル技術を活用した共同輸送や帰り荷の確保に向け、デジタル技術を活用して行うことを一例としたあげた。そのために、官民連携による物流標準化、物流拠点ネットワークの形成等に対する支援をはじめ、モーダルシフトの推進のための環境整備、車両・施設等の省エネ化・脱炭素化の推進に向けた環境整備などを検討するべきとした。

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 最終とりまとめは最後に、政府が6月2日に行った「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」で策定した「物流革新に向けて政策パッケージ」の24年度に不足する輸送力を補うための取り組み目標の表を掲げている。荷待ち・荷役の削減や積載率の削減などともに、「再配達率削減」を取り上げ、現状の12%を半分の6%へ引き下げる目標を掲げている。この削減で14・2%の輸送力不足の3・0ポイント分の効果になるという。

 最終とりまとめは今後、パブリックコメントを経て最終的に決定。そして、規制的措置の法案化を進めるとしている。


 
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