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かけた費用は40億円【大正製薬VSサントリーW ①「怒りの声明」の理由】 訴状ににじむ悔しさも敗訴

2023年 8月31日 12:00

 三浦知良選手と歩んだ4年でかけた広告費はおよそ40億円――。大正製薬は今年8月、イメージキャラクターの起用をめぐる訴訟の判決を受けて声明を発表した(=写真、本紙1906号既報)。怒りの矛先は、訴訟相手の代理店だけでなく、サントリーウエルネス(以下、サントリー)にも向けられている。

 突然の声明は、同業者を驚かせた。「敗訴にも関わらずあえてリリースするとは相当な怒りだ」、「渉外力のある両社であれば違った解決ができなかったか」、「あまり三浦選手のイメージがない」、「一方的な主張で内情が分からない。逆にマイナスイメージでは」などの反応が寄せられた。

 騒動は共感が広がらず空振りに終わりそうだ。声明は高裁判決を受けたものだが、上告は「予定していない」(大正製薬)。サントリーへの直接的な働きかけなど追加的な対応も「これだけで予定はない」(同)という。それでもやり切れない思いを発信した背景に何があったのか。まず騒動を振り返る。

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 大正製薬は16年、電通(のちに博報堂に変更)を通じて、三浦選手の広告出演管理を行うハットトリックと広告出演契約を結ぶ。契約は、「大正製薬と電通」「電通キャスティングアンドエンタテインメントとハットトリック等」との間で交わされた。

 だが、代理店を博報堂に切り替えた後の20年10月、錠剤タイプの「リポビタンDX」の販売にあたり広告出演を打診したところ、契約書に「錠剤」の規定がなく、すでにサントリーの「セサミンEX」の広告に出演させる決定をしたことを理由にハットトリックがこれを拒否。見解の相違が生じて21年1月、東京地裁にハットトリックを提訴するに至った。

 大正製薬は、訴訟で「錠剤」も「リポビタンDシリーズ」に含まれ、他社製品への出演は競合禁止規定に反すると主張。ただ、契約書に「錠剤」に言及した記載はなく、昨年12月、地裁は大正製薬の請求を棄却する。今年1月に控訴したが、高裁も7月、一審判決を容れる形で請求を棄却。これが”怒りの声明”につながる。

 声明では、業界慣習として出演者が競合禁止規定に基づき、競合製品の広告に出演しないことを当然の前提として企業は高額な契約金を支払うと説明。仮に競合製品への出演が許されれば、「莫大な金額を費やして築き上げたイメージを競合他社に瞬時に奪われる恐れがある」と主張する。「リポビタンD」への起用を知りながら、広告に起用したサントリーの行為にも「問題がある」と指摘した。

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 大正製薬は、訴訟の内容について、「リリースがすべて。公表していない」と多くを語らない。

 ただ、訴状では大正製薬の言う「莫大な金額」を明かしている。三浦選手との契約金は、5500万円。16年以降、4年に渡る契約金は2億7720万円、選手の広告制作費は約2億9661万円、広告媒体費は約33億8053万円を投じていたことが分かる。金額を知り「まあ確かにこれだけの投資を思えば、怒りたくなる気持ちも分からなくもない」(前出同業者)との反応も聞かれる。

 損害賠償請求は、イメージキャラクターを起用できず、展開できなくなった広告の制作費に相当する逸失利益、広告の差し替え費用(約24万円)など約2592万円。訴状からは、「約60年にわたり手塩にかけて育ててきた主力シリーズのプロモーションを軽んじ、契約上の権利を侵すもの」、「商習慣上もありえない」と、イメージキャラクターを奪われたことに対する悔しさがにじむ。敗訴を受けても何か言わずにはいられなかったのだろう。

 訴訟に絡み、巻き添えをくらった形のサントリーだが、三浦選手の広告起用には「適切な契約を締結し、それに基づきタレントを起用しており問題ないと考えている」。声明への対応も「予定していない」とする。

 大正製薬の主張はなぜ認められなかったのか。背景には、「錠剤」の解釈をめぐる大正製薬の”誤算”があったようだ。(つづく)


 
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