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対策は「再配達削減」が最多<通販各社に聞く 物流2024年問題への対応> リードタイム緩和、賛成が4割

2023年 9月 7日 11:00

 通販新聞社は7月、主な通販実施企業600社を対象に物流業界の「2024年問題」に関するアンケート調査を実施した。働き方改革関連法の中でも物流事業に大きく影響するのが自動車の運転業務における時間外労働の上限規制適用だ。いよいよ半年後に迫った施行に向けて、通販業界でも物流の強化・最適化が進められている。現状の対策はどの程度進んでいるのだろうか。各社から寄せられた声をみていく。
 









対策は同時に複数を展開

 アンケートでは、2024年問題に向けて実施済み(または実施予定)の対策について複数回答で聞き、回答を集計・分類した。その結果、有効回答の中で最多だったのは「再配達削減」(22%)だった。次いで「配送効率化」(18%)、「コンパクト化」(18%)が同数で並び、同時に複数の対策を講じている様子が窺える結果となった。(図参照)

 「再配達削減」の具体策としては、仕様やサービスの変更を挙げる企業が多かった。

 「LOHACOでは今年5月から置き配をデフォルトの配送方法に変更した」(アスクル)、「ヤマト運輸のネコポスなど、再配達が不要な配送サービスを導入している」(全日空商事)、「受注時に配達指定日を選択しないとオーダーが進まない様に切り替える方向」(GSTV)などだった。

 また、再配達削減に関する顧客への理解促進として、「佐川急便LINEサービスのお客様への周知」(アプロス)、「配送荷物の中にチラシを同梱し、宅配業者のLINE登録をすることで荷物のお届け予定通知や配達日時変更などが便利に活用できることを案内している」(アイム)などの対策もみられた。

 このほかの声として、「定期便のおまとめ配送の促進や、ジェルの詰め替え用パウチを販売しメール便で受取ができるようにした。特に、今年5月に新発売した「パーフェクトワンモイスチャージェル」の詰め替え用パウチでは、発売1年間で定期顧客のうち50%の切り替えを目指す。2023年9月期には約2・5億円の物流コスト削減を想定」(新日本製薬)などがあった。

配送効率化や最適化も

 「配送効率化」の具体策としては、「複数の運送会社を利用し、一極集中のリスクを分散」(ベルヴィ)、「まとめての出荷配送施策の取り組み強化」(オージオ)などが多かった。

 また、企業独自で先進的な対策を講じている例も多く見られた。「当社が開発した配送ドライバー向けアプリ『とらっくる』を活用し、経験値に大きく依存する荷物の仕分け作業や配達コースの設計を誰でも効率的に行えるようDX化。同アプリは当社の物流子会社ASKUL LOGISTだけでなく地場の配送業者にも提供している。また、注文商品が遠方の物流センターから出荷されたり、同じ注文が複数の物流センターから別個口で出荷されることを防ぐため、AIを活用して各物流センターの在庫配置と在庫量を最適化している」(アスクル)、「現在は1社単独での物流契約のため、複数社またはマイクロ拠点化して短距離配送の構築を検討。また、グループ企業のギグワーカーを活用し、現在のお手伝いサービス(配送は配送会社が担当)のユーザビリティをより上げるべく、お手伝いサービスつき配送サービスを検討中」(日本直販)など、新サービスの導入なども進められているようだ。

コンパクト化が加速

 「コンパクト化」の具体策では、「ひと箱に収まる商品の外装パッケージのサイズ設計や同じスペースに対して容量を多くする商品設計など、物流効率を考慮した商品開発」(アスクル)、「メール便の導入準備」(ヤマサキ)、「配送会社との連携を密にしながら、梱包サイズの見直しやリードタイムの緩和、物流コントロールなどを実施」(テレビ東京ダイレクト)、「運送費の高騰が予想されるので、従来のダンボール梱包だけでなく、小口のお客様に対しては簡易包装で出荷する体制をスタートさせている」(ランドマーク)などの対策が多かった。

環境改善へ独自施策

 「労働環境改善」の具体策では、「自社ドライバーの給与体系検討及び倉庫生産性向上対策」(フォーレスト)、「顧客向けの物流は日本郵便に委託しており、幹線輸送も日本郵便の子会社である日本郵便輸送にて行っており、(一例として東京・九州間の区間途中でドライバーを交代して中継輸送を実施)労働力確保のため女性ドライバーの確保も積極的に実施。発送拠点を現在の2拠点から3拠点へ拡大し、発地が増えることで幹線輸送を減らす等の対策を講じる予定」(北の達人コーポレーション)、「2023年度に配送委託先も含めた労働実態の調査を始め、ラストワンマイルにおける労働時間のコントロールを実施。具体的には、配送コースの変更や高速道路料金補助などを行った。調達物流でも、納品時間や価格等の影響について主要取引先へヒアリングを行い、同様の対応を実施した」(オイシックス・ラ・大地)などだった。

 また、「送料の見直し」の具体策では、「送料の設定、送料無料ラインの見直しを実施済み。受取り場所の拡大、店舗受取りの拡充を実施。今後は効率配送サービスを検討」(バロックジャパンリミテッド)、「一部運賃を顧客(消費者)に負担していただいている」(八幡物産)などの声もあった。

再配達削減やリードタイム緩和への声は

 アンケートでは次に、物流業界の「2024年問題」への対策として政府が6月に公表した政策パッケージで取り上げている再配達の削減やリードタイムの緩和について自由回答で見解を聞いた。その結果、実施に肯定的な意見が全体の4割強を占めた。一方、慎重な意見は約2割だった。

 肯定的な声としては、「配送の効率化については大いに賛同する。また、過度な配送のリードタイムにならないようにしていきたい」(テレビ東京ダイレクト)、「物流拠点を取り巻く環境を踏まえると良い傾向」(北の達人コーポレーション)、「当社はサブスクリプションモデルで、かつ受取日時をお客様に事前に選んで頂くシステムのため、政府が発表した宅配便の再配達率(12%)より大幅に低い水準で推移している。引き続き再配達率低減を進めると共に、ラストワンマイルの配送を委託しているヤマト運輸と議論を重ね、両社がWINWINになるような取組を推進していく」(オイシックス・ラ・大地)などの声が寄せられた。

 また、具体的な施策として「顧客に対してのリードタイム緩和は、電話やメール等の接点を増やすことで、ワクワクして待っていただけるような状況をどう作るか考えている。顧客満足度向上のためには製品の良さだけではなく、トータルなサービス提供が必要」(日本直販)、「将来的にお届けの日時指定が可能となれば再配達の削減につながると考えている。リードタイムの緩和は、現状が他社に比べ長いので、短縮できるよう改善策を考えている」(ロッピングライフ)などの声もあった。

 一方、慎重派の意見としては、「小売りとしてはサービスが低下して競争力が劣ると収益に直結するので、サービス低下を防ぎながら対応することが求められると考える」(フォーレスト)、「ユーザーに対するサービスレベルの劣化につながることが懸念される。配達が完了せずに戻ってくる荷物が増加し、再配達手配など余分な作業と店舗が負担するコストが増加することが予測される」(ベルヴィ)など、サービス品質の低下を危惧する声も目立った。

 このほかに、「置き配は再配達削減の一つの策としてお客様にも広く受け入れられるのではないか。リードタイム緩和は何とも言えない。結局はAmazon社など大手のサービスレベルに影響されると考える」(オージオ)、
「扱うものが植物(生もの)のため、リードタイムによる商品の傷みなどを考慮した対応が求められる。再配達も同様で、対応できる商品とそうでない商品があるため、取捨選択を迫られることが想定される」(タキイ種苗)といった声もあった。



見直しに大多数が懐疑的、「表示なくても意識変わらない」

<送料無料表示、各社の声>

 本紙アンケート調査では議論が紛糾する「『送料無料』表示の見直し」についても通販実施各社に意見を聞いた。それによると懐疑的・否定的な声が大多数を占めた。送料無料の表示を改めたところで結局、消費者の送料の意識に大きな変化を起こせずに通販事業者の無用な負担が増えるだけになる、との見方などだ。各社の意見を見ていく。

「論点が違う」懐疑的な意見が多数

 アンケートの回答では、送料無料表示の見直しについて厳しい意見が多く寄せられた。

 「表示を無くしたところで送料への意識が変わるほど安易ではない。EC物流で最も改善しなければならないのは再配達であり、置き配や宅配ボックスの普及、SNS事前通知、初回配達による顧客へのインセンティブなどを議論する方が効果的」(山善)、「表現を見直しても状況は変わらないのではないかと懐疑的。他社との競争の中で送料を転嫁できるとは思わない」(富士産業)、「販売側が送料を負担してお客様に還元しているので論点が違う。企業努力を理解してほしい」(ロッピングライフ)、「誤認が増え、サービスが劣化したと考えるユーザーの増加に繋がる」(ベルヴィ)、「居住地域によって送料が変わらなければ消費者が納得しない可能性もあり、無駄に混乱を招くだけだと感じている」(ニッピコラーゲン化粧品)、「一般消費者は送料無料に慣れているので、いくら表示をなくしたところで送料無料をうたう会社は出てくる」(ちゅら花)、「送料無料表示の件は、全く関係ない点について通販業界がいじめられていると思う。今後は小売業のようにお客様に負担してもらう割合が多くなると思う」(世田谷自然食品)などだった。

ルール化の要望強く

 表示の統一化・ルール化を求める声も目立った。

 「『送料無料』表示を禁止とするのではなく、誰が送料を負担しているのか明確に表記する制度にすべき」(北の達人コーポレーション)、「『送料は当社負担』など、表示を統一することでお客様の混乱もある程度は防げるのではないか。逆にルール化をしないと、サイトによって『送料無料』『当社負担』などバラバラした表示となり、ECは分かりづらいなど誤った概念になる可能性もある」(バロックジャパンリミテッド)、「レスポンス率への影響は間違いなくある。それだけ配送費に関するお客様の感度は高い。許容される表現方法の模索は各社で試行錯誤されるのではないか」(オージオ)などだった。

減収を懸念する声も

 収益面を危惧する声としては、「当社では新規顧客に初回のお試し商品は送料無料と打ち出し、既存顧客に対しては定期サービス利用で送料無料と打ち出している。送料無料表示ができなくなることで、新規・既存共に一定数の減少が懸念される」(アイム)、「通販は『送料無料』が当たり前になっており、送料がかかるという理由で購買を控えられる恐れがある」(アプロス)などの指摘もあった。

対応済みの企業は

 既に対応している企業の声では、「現状で配送料を有料としており、今後も継続して実施予定。ただし、年間購入金額等に応じた配送費無料等を検討」(日本直販)、「原則送料を頂いているので影響は少ない」(インペリアル・エンタープライズ)などのほか、「当社では、まとめ買いの促進を通じて単独事業者で取組を行っており、『まとめて買うと割引がある』など、消費者に寄り添いつつ、当社の物流側のニーズを叶えるような取組を行っている」(アスクル)など、独自の打開策を講じる企業も多く見られた。

 
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