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楽天 広告事業が急伸、松村常務が語る広告の未来

2023年10月19日 12:00

 楽天グループの広告事業が好調だ。ここ数年、前年対比で15~20%という成長率で推移しており、2023年度の事業売上収益は2000億円の大台が視野に。キー局の広告収入に匹敵する規模となっている。小売りとメディアが結びついた「リテールメディア」が、世界的にも販促媒体として注目される中、楽天市場は巨大広告媒体としてクライアントの期待にどう応えていくのか。松村亮常務執行役員コマース&マーケティングカンパニーシニアヴァイスプレジデントに聞いた。
 










 ――リテールメディアという言葉が注目されている。

 「日本ではオフラインが中心で、例えばコンビニエンスストアにディスプレー広告を流すのがリテールメディアというような話が多いと思うが、海外ではECやデジタルも含めて、リテールメディアが語られることが多いという認識だ。楽天はこれまでもリテールメディアに取り組んできたわけだが、そういったコンテクストの中でもう一度力を入れようと取り組んでいるところだ」

 ――なぜリテールメディアが注目されているのか。

 「インターネットの世界では検索連動型広告が主流で、10年ほど前からSNS広告が増えてきた。そして、コロナ禍の頃からリテールメディアが成長を見せ始めた。どんなものかというと、実際にデジタル上で物を売っている場所に広告を出すと、検索やSNSのように、少しコンバージョンから遠いところに出稿するよりも効果は大きいということが再認識されはじめたわけだ。もちろん、国内においてもこうした傾向は出ており、例えば物販系ECプラットフォームの広告費は、19年~22年の年平均成長率で21・5%の伸びとなっており、このうち楽天市場のシェアは52%を占める計算だ。ECそのものが伸びているからこそリテールメディアも伸びているわけで、中でも楽天市場の流通総額が大きく拡大している点が大きい」

ブランドが活用

 
――ナショナルブランドが楽天市場に出稿するメリットは。

 「ECの場合、クライアントは『商品購入を検討する』『商品を購入する』段階のユーザーに対して広告を打ってきたわけだが、ナショナルブランドにもっと出稿をしてもらうとなると、『商品の流行を知る』『商品を知る』『商品情報を集める』段階のユーザーへの広告プロダクトの充実が重要なので、その部分に取り組んでいる。要するに、比較検討の段階のユーザーを対象に広告を出してもらうだけではなく、『新商品が出たときに知ってもらう』ことを目的に出稿してもらう、ということだ」

 「ナショナルブランドの人たちにも、楽天の国内月間アクティブユーザー数が4000万人を超えている点、『楽天ポイント』の累計発行数が3・6兆以上のポイント数である点、圧倒的な規模と高い精度の消費行動分析データを保有し、そのデータや人工知能(AI)を活用できるツールがある点を評価してもらっており、最近は『テレビCMに使っている広告費を楽天市場に移していきたい』という声も大きくなっている。楽天市場に投下される広告費用としても、営業部に割り振られた販促の予算だけではなくて、メーカーやブランドが持っているマーケティング予算を含めて出稿し、大きな効果を得るケースも出はじめている」

 ――どのような形で出稿するのか。

 「具体的なスキームとしては、まず楽天市場において、オルビスのように公式店を運営することで、ユーザーにアプローチすることができる。広告やデータ分析のツールを使い、効率的なプロモーションが可能だ。こうした公式店を支援するために、有名化粧品ブランドの公式ショップを集約して掲載するページ『Rakuten Luxury Beauty』を開設している」

 ――楽天市場に出店していないメーカーやブランドもある。

 「楽天市場に出店していない場合でも、『楽天ビック』や『楽天24』のような、当社が運営している店舗で販売する商品については、当社がメーカーやブランドから要望を受けてプロモーションをすることができる。セールやイベントに合わせた販促施策も実施している」

 「また、楽天市場においては、出店する各店舗がさまざまなブランドの商品を同時に販売している。こうした店舗に対して、今までメーカーやブランドは各店舗に対して個別に営業をかけていたわけだが、『全部束ねてマーケティング的なプロモーションをしたい』という要望が以前からあった。これに対応するためのツールとして、2020年に『RMP ―Sales Expansion(セールスエクスパンション)』を開発した。これは、楽天市場内検索結果のファーストビューに表示される運用型広告となる」

 ――メーカーやブランドに今まで以上に出稿してもらうために必要なことは。

 「楽天市場はテレビ局など既存のメディアを含めても、最も大きな媒体の一つといって良い規模まで成長した。ただ、メーカーやブランドにはまだ伝わり切っていない部分があると感じているので、もっとアピールしていきたい」

 「ナショナルブランドは、これまでもECや楽天市場にも販促費は投入してきたと思うが、『マーケ費』という予算までは投下していなかった。それがここ数年は出してくれるようになってきており、公式店を出すケースもあれば、当社が運営する店舗を活用するケースもあるし、自社商品を扱う楽天市場の店舗へ横断的に予算を投下するケースもある。こうした動きをもっと大きなうねりにしていきたいと思っている」


再構築が必要

 ――日本におけるリテールメディアの活用実態をどう見るか。

 「『モノを売る』という部署と、ブランドのマーケティングを行っている部署がまだまだ分断されているように思う。本当は同じ枠組みの中でやっていけば、双方もっと効果が出るのに、なかなかそうなっていないケースが多い。従来は『パイプラインビジネス』というか、商品を企画して作り、それをテレビCMなどでユーザーに認知してもらう。そして、店舗では良い店を確保して、消費者が店舗に行ったときに商品を見つけて『CMで見たことあるな』と買ってもらえる、といった感じで流れていくビジネスモデルだ」

 「しかしデジタルの世界では、商品を制作したあとのプロセスを同時に進めることができるし、ターゲティングもIDを使えば細かく設定できる。マーケティングにかける時間やターゲティングの精度が変わったことで、メーカーやブランドも消費者に対してのアプローチやプロセスを作り直しているところだろうが、現段階ではオフライン・オンラインのメディアそれぞれに対し、広告予算を最適に配分していこうというところで止まっているのではないか」

 ――デジタルを活用しきれていない。

 「もちろん、企業やブランドがマーケティングをする際の選択肢にデジタルが入っているのは間違いない。ただ。従来のビジネスモデルをデコンストラクション、つまり枠組みを壊して再構築するというのが、デジタル活用の本質的意味合いだと思うのだが、そこまではまだまだ至っていないのが実情だ」

 ――海外ではどうなっているのか。

 「アメリカでも、ブランドマーケと営業の組織を一体化しているというブランドやメーカーは極めて限定的だとは思うが、今述べたような意識を持つ企業は多いと思う。新商品をローンチしてプロモーションする際、デジタルで売ることを前提として、逆算的に『どうやって消費者に認知してもらい、ターゲティングを設定し、どれだけ買ってもらうか』というマーケティングや販促のプランを全体としてデザインしている。一方日本の場合、『たくさんの人に知ってもらうためにはまずテレビCMを打ち、ポップアップのイベントをやってデジタルにも広告を出して、全体でこれぐらい予算が必要だね』というような感じで進み、こうしたマーケティングが終わったあとに『どうやって買ってもらおうか』と営業を考え始めることが多く、マーケと営業の分断が目立っている」

 ――日本における先進的な事例は。

 「やはり、フラッグシップとして動いているのは外資メーカー。その様子を見ながら、日本の大手メーカーも動き始めているという感じだ」

 ――楽天市場が物販系ECにおいて日本最大のリテールメディアとなっている理由は。

「ブランドからすると、自分の店を出して、そこで自分たちがブランディングできるというのが大きいのではないか。ページの作り込みや見せ方を自由に設計できるので、自分たちのやりたいブランディングの形で店を作り、そこを起点に楽天市場上でマーケティングできるというのが大きい」

「売上高2千億円へ」

 ――楽天における広告事業の規模は。

 「2023年度の事業売上収益は2000億円に達する見込みだ。2000億円という数字がどんな立ち位置かというと、大手テレビ局の広告関連売上収益に近づいてきている。この数字の多くは『楽天市場』から得ているものだ。これまではモール出店する店舗に、楽天市場のさまざまな広告を買ってもらうというのが主な広告売り上げだったわけだが、ここ5年くらいはナショナルブランドの広告を増やすことに注力してきた。そのために『Account Innovation Office』という組織も立ち上げている」

 ――出店店舗の出稿額とナショナルブランドの出稿額、どちらの比率が高いのか。

 「楽天市場出店店舗の出す広告の方が割合としてはまだ多いが、ナショナルブランドの出稿額の方が伸び率としては高くなっている。特に、新商品を出す際に楽天市場でプロモーションできるような広告の伸びが目立っている」

 ――メーカーやブランドは楽天市場が30~40代女性に強い点を評価しているのか。

 「比率でいえば30~40代女性がボリュームゾーンの一つで、そういった層を取り込みたいという要望は多い。ただ、絶対数でいえばそれ以外の層、もちろん若年層もたくさんユーザーとして抱えているので、さまざまな要望に応えられる」

 ――セールスエクスパンションの活用実態は。

 「ローンチ後、1年~1年半くらいは、お試し期間ということで使ってもらっていたが、効果もだいぶ認識してもらえてきたというのと、プロダクト的な改善もあり、ここ1年くらいはかなり伸びている。消費財メーカーや化粧品メーカー、一部家電メーカーが利用している」

 ――今後の目標は。

 「国内において、物販を行うメーカーが出稿するメディアとしては、一番大きな規模のメディアになるのが最大の目標だ。これはテレビなど既存のメディアも含めて、ということになる。ブランドやメーカーからは『効率は非常に良いが、もっとボリュームを出せるようにしてほしい』という声をもらっている。つまり、購買ファネル別のユーザーでいえば、コンバージョンに近い層に向けたプロダクトは多いが、もっと消費者の数が多い『一般層』や『認知層』、つまり『アッパーファネル』に向けたプロダクトを充実させるのが次のチャレンジだと思っている。さまざまなメーカーやブランドが、より多くの予算を投下できる形にしていきたい」

 
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