寝具ではなく睡眠の質を売る【高岡会長兼社長に聞く エアウィーヴの通販戦略とは㊤】 コロナで感じた通販の重要性
2023年12月 7日 12:00
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ーー現在の寝具市場全体の市況について。
「寝具は大きく分けて、ナショナルブランドと地方の小規模な会社がある。一つ言えることは、全体が今すごく伸びているという市場ではなく、新規参入も多くはない。寝具はサイズが大きいため、物流が発展するとともに会社が大きくなり、集約化されていった。
当社の考え方としては寝具を売ろうと思って事業を行うわけではなく、睡眠の質を提供するという点で業界に新しい価値を持ち込んでいる。例えば、『iPhone』が出たことで、携帯が機械としての装置ではなく、社会と繋がる情報を伝える窓口になった。電話というだけではなく社会との繋がりを作ったこと自体が、iPhoneの最大の功績だと思う。当社も眠る道具ではなく睡眠の質を提供するという考え方が今の事業をやる上で大事になっている」
ーーコロナを境にした市場の変化は。
「コロナで家庭内消費というものが進んだことで、寝具業界が潤った面はある。今はコロナが落ち着きはじめ、23年度の寝具業界全体で見ると前年よりもマイナスになるのでは。そういう中で、顧客はより本質的なものを求めるようになっている。当社の場合は前年と同等以上に売れており、我々が取り組んできた睡眠の質を提供するという部分が評価されているのではと思う」
JADMAに入会
ーーJADMA入会の経緯や狙いとは。
「以前から(通販による)非対面の販売は行っていた。しかし、コロナになってから実店舗に訪問できない人が増えたことで、非対面での販売の重要性に改めて気づいた。そのための分かりやすい商品の伝え方など、いわゆる非対面での販売方法について、学びたいと思う。様々な情報収集活動や勉強をしているところ」
ーー通販で売れ筋の商品とは。
「やはり世の中の人が一般的に通販に期待するのは、多少安くなるということ。通販は店頭販売と違い、双方向のやり取りではなくどうしても一方向になり、複雑な内容や多くの情報量を伝えにくい部分もある。一方で、絞った情報量については、通販ではかなり強く伝えることができる。最も強くてシンプルなメッセージを出せる部分や商品に絞って展開するということなのだろう。
当社の初期の頃は薄いパッド1枚だけだったが、今はそのパッドの中でも硬さを変えた商品を出したり、もう少し複雑な機能を持たせたものもある。実は、ベッドマットレスも通販でよく売れるもの。1つには(オフィシャル寝具パートナー契約を結んだ)東京五輪の時に、3分割できるマットレスを選手村に提供したことがある。こうした情報は認知された人がかなりの数でいたため、その商品を通販で見せるとかなり購入される。通販でこのような高価格帯のベッドマットレスが売れるのは当社くらいしかないのではないか。
また、実店舗の場合、商品だけを置くことはなく、必ず販売員がいるため顧客と双方向で情報交換が起きる。通販のような一方向の場合は、大きく商品露出して認知されれば大きく売れる。ただ通販は、多くの商品種類を同じチャネルで見せると顧客も迷ってしまう。そのためチャネルに応じた最も強い商品を1つ見せるようなやり方に絞っている」
ーー通販で展開している商品は。
「自社ECについては実店舗と同じで商品が全部揃っていて、同じプライスで出している。商品構成を変えることはない。一方で自社ECではなく、紙媒体、テレビ、ラジオでは1商品で行う形。ここは双方向でのやり取りが難しいために、顧客が迷うことにもなるため、精査した情報を出している」
ーー通販・実店舗の連携効果などは。
「例えばテレビ通販について。これは一方向の情報発信だが、様々な角度から顧客の質問をイメージして網羅的に情報を出している。例えばこのマットレスは眠りが深く取れるとか、清潔であるとか、分割構造や梱包の簡単さ、今はリサイクルもできるということなど。特にテレビ通販では多くの情報量を出すことができる。時には演者に寝てもらい、使用感を語ってもらうこともある。これは顧客が実店舗で実際に寝ているような疑似体験が得られる効果もあると思う。もちろん、テレビ通販で情報を理解した上で実物に触りたい人もおり、そうした人は来店する。そのため、テレビ通販の放送後は実店舗への来店が増えることもある。
また、実店舗はポップアップで大きなイベントを行うこともある。顧客はそこで商品を見ることになるが、寝具の場合、購入にとても慎重になるため、1回の来店だけでは買わないケースもある。家に帰ってからネットを見て買う場合もある。結局は情報を様々なところから出して、最後は顧客が買うルートを自身で選ぶという話になるのだろう。そういった意味では通販(ネット)と実店舗(リアル)は必ず繋がりがある。トータルで顧客の利便性を高める上で、実店舗と通販との連携はとても大事なことだと思う。
世の中の人に寝具を欲しいかと聞いても、誰も『欲しい』とは言わない。しかし、良い眠りを欲しいかと聞くと『イエス』と答える。つまり、当社は睡眠の質という誰もが欲しいものを売ろうとしているわけだ。眠りに対しての潜在的な需要を顕在化させることが、我々のビジネスの売り上げを作る。潜在的な需要のままだと売り上げにはならないため、実店舗や通販で商品を広く見せていけるよう、タッチポイントを増やしている」(つづく)