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「脂肪にドーン」の衝撃・サントリー黒烏龍茶問題を追う(3) 根拠なき要望「あり得ない」

2012年 8月 2日 10:42

法的根拠がない。それだけで、今回の要望がいかにおかしなものであるかは自明だろう。その「行政手法」を、法を所管する行政や、業界関係者はどう評価するか。

 今回、日本健康・栄養食品協会とサントリー食品インターナショナルに渡された書面は、消費者委員会からの「指摘事項」と、これを伝える消費者庁の事務連絡文書だ。

 「指摘事項」とは、特定保健用食品(トクホ)の許可文言を審議する消費者委「新開発食品調査部会」が出すもの。通常、申請された文言とエビデンスの整合性から、その不備を伝える。消費者庁を通じて多くは口頭で個別企業に伝えられ、公表されることはない。今回はこれまで例のない業界への提言であり、周知を図るため公表された。

 だが、実際に部会の議事録を見れば個別企業の宣伝手法との関連性が明らかだった。そこでさらに消費者庁が個別企業にも文書を渡したことが問題の引き金になった。

 「指摘事項」とこれに付随する事務連絡を、消費者庁は「要望」と認識していない。「お知らせ」(同庁食品表示課)と弁明している。また、文書の通知も「仲介しただけ」(同)と、なんら法的判断を下していない。こうして行政サイドやサントリー食品、消費者の印象に温度差が生じた。

 だが、それも当然といえる。こうした書面が個別企業に渡れば、その位置づけはともかく、個別企業にはプレッシャーになる。意図しないにせよ、報道されれば書面は"お知らせ"以上の効力も発揮する。今回の「行政手法」はそうした瑕疵を生じさせる要因がいくつもあった。そもそも"お知らせ"が法的にどのようなレベルの権限に依拠するか不明だが、その手法は法律の執行主体として適切だったか。

 「(法的根拠のない要望のようなものを出すことは)ない。こちらとしても法的根拠で動くようにしているので、国レベルでも『根拠はないけど要望は出しました』というのがまかり通ってしまうのはどうなのか、と思う」。自治体で健康増進法による監視指導を担当する行政関係者はこう苦言を呈す。

 「事態は消費者と同じレベルで知った。(指摘事項ではなく)『要望』であれば、自治体に一言、情報提供するべきではなかったか」。指摘事項を自治体へ伝える必要はないが、要望ならば連携を図ることも必要だろう。書面のあいまいな位置付けは無用な混乱も招いている。

 業界関係者の反応はどうか。日健栄協は「法律に抵触しないと思っているが、そこが明確に判断されてない。CM表現を一概に判断できないが、書面は誤解を生む形で出された。きちんと判断して納得できるシステムを決める必要はある」(特定保健用食品部)とする。

 一方、ある業界関係者は「薬事法(=法的根拠)に基づいて出された点で『4・13事務連絡』と異なるが、ほぼ同じ構図」(事業者)と指摘する。

 「4・13事務連絡」とは07年、厚生労働省監視指導麻薬対策課が自治体宛てに出した事務連絡文書。販売されている具体的な商品名62例を例示し指導を依頼したやり方に"言葉狩り"との批判が噴出した。CM全体から受ける印象にはさまざまな意見があるにせよ、問題とされる「脂肪にドーン」という表現の是非を判断できる法的根拠はない。他のトクホCMとの決定的な違いも見出せない。が、確かに「脂肪にドーン=クロ」という印象だけは残した。

 別の関係者は「CM表現の判断は難しい。ただ、なぜそういう表現になっていくかと言えば"言えない"から。むしろ規制が厳しいからエビデンスに基づかないグレーな宣伝が多くなっている」(健食業界紙代表)と表示制度の不備に言及する。法的根拠があいまいな中で取られた「行政手法」は、結果として消費者庁自ら健増法の限界と、「表示制度不備」という根源的な問題に直面していることを認めている。(つづく)

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