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楽天市場・送料課金の余波④ 難しい「事実認定」

2012年10月18日 17:22

 「楽天は公正取引委員会が動くことはないと思っているのではないか」。

 こう語るのは、企業法務に詳しい弁護士。公取委が2006年12月に公表した「電子商店街等の消費者向けeコマースにおける取引実態に関する調査報告書」では、「取引上の立場が優越している運営事業者が(中略)出店事業者にとって不当に不利益な手数料率の設定を行う場合には、独占禁止法上の問題(優越的地位の乱用)につながる恐れがある」と指摘している。

異なる依存度

 ただ、これは「あくまでグレーゾーンを示したもので、実際の運用は別の話」(弁護士)という。例えば家電量販店が無報酬で納入業者に店舗業務を手伝わせたことが優越的地位の乱用となった例のように、前例があって「完全に黒」という状況ならともかく、まだ優越的地位の乱用が仮想モールの運営事業者に適用された例はない。そのため、公取委としても「独禁法上問題がある」ことを示す事実認定を慎重に行なう必要がある。

 ここで問題となるのが仮想モール出店店舗の規模は千差万別ということ。この弁護士が関わっていた、コンビニエンスストアのフランチャイズ(FC)店問題の場合、FC店は規模に大差ないため、本部との力関係はどの店もほぼ同じ。ところが、仮想モールは年商1000億円を超えるメーカーや量販店から、年商百万円にも満たない小規模ショップまで規模はさまざまで、モールへの依存度や運営事業者との力関係も異なることが予想される。「約4万店ある中で、どれだけの店に対して『優越的地位の乱用』となるのか、実態を把握するのはかなり困難ではないか。『これなら楽天に訴えられても勝てる』と判断できない限り公取委も動きにくいだろう」(弁護士)。

 さらには、実際に「社会的な問題となっているかどうか」も判断材料となる可能性は高いという。公取委としても、マスコミなどで騒がれている企業を摘発できれば「手柄」になるからだ。

他の選択肢は

 もう一つの問題は、「店舗側には楽天市場以外の選択肢はないのか」ということ。例えば家電量販店の場合、無報酬で納入業者に店舗を手伝わせる行為は、実際には業界全体で慣習化しているため、不満があっても納入側は別の量販店を選べない。そのため、1社の摘発は業界への警告となるわけだ。

 今回の送料課金の場合、不満があるのなら、楽天以外の仮想モールに出店したり、自社サイトを強化したりといった手法も可能で、このように他に選択肢がある場合は「優越的地位の乱用は適用されにくい」(弁護士)。ただ、仮想モールは事実上楽天市場の「一人勝ち」であるのは間違いなく、楽天市場の集客力を考えると依存度が極端に高い会社が多いことも予想される。弁護士は「こういった事情を公取委側が斟酌(しんしゃく)する可能性はあるのでは」と指摘する。

まずは問題提起

 「楽天側も独禁法のガイドラインは熟知しているはずで、万が一調査が入った場合に抗弁できるだけの資料は作っているだろう」(弁護士)。それでは、楽天の目論見通りに送料課金は問題にならないのだろうか。弁護士は「まずは店側が公取委にこうした問題があることを知らせなければ何も始まらない」と話す。(つづく

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