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【揺れる景表法⑩ 課徴金の“呪縛”】 みなし違反に課徴金の不条理、予想通りに取り消し事件が発生

2019年 6月20日 15:00

 景品表示法には2016年、課徴金制度が導入された。謝罪だけでは済まず、不当利益が徴収されることになったが、当初から問題が指摘されていた。「違反とみなす」という不実証広告規制も対象としたからだ。

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 課徴金は、景表法の措置命令に対する罰則として課される。算定率は、売上額の3%。低いように思えるが、利益ベースで考えれば高水準だ。ヒット商品であれば、事業継続も危ぶまれる。

 対象は、「優良誤認」「有利誤認」「不実証広告規制」。だが「優良・有利誤認」と「不実証広告規制」は、違反の性格に決定的な違いがある。「不実証広告」は、根拠を提出しないことをもって、違反と「推定」する処分であることだ。

 違反に対する制裁は強化されたが、景表法の取締りは逆に簡略化された形がさらに進んでいる。 不実証広告規制を使っての取締りが急増しているからだ。13年度に約50%だった措置命令に占める不実証広告規制の割合は、17年度に85%にまで増加。取締りの大半を「推定有罪」の不実証広告規制に頼り、課徴金を徴収していることになる。事業に多大な影響を及ぼす罰則であるにもかかわらず、推定有罪で進むスキームは妥当といえまい。

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 懸念は、導入時の議論でも指摘されていた。適格消費者団体理事であり、制度設計にかかわった宮城朗弁護士は15年、日本弁護士連合会(=日弁連)が発行する「消費者問題ニュース」で、その経緯に触れている。

 「不実証広告」対象化の是非をめぐり、優良性をうたい広告する事業者が根拠を持たないこと自体が社会的非難に値するため対象にすべきとの意見があったこと。他方、根拠が出てこないことによる「推定」に過ぎず、優良誤認そのものではないため過剰規制になる、という懸念があったというものだ。

 強力な権限であるため、法改正に際しても国会で「事業者の萎縮を招かないよう配慮する」という付帯決議がされた。

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 案の定、懸念は現実になる。昨年末、消費者庁が日産自動車への課徴金を取り消した問題だ。

 当初、消費者庁は日産の違反を「相当の注意を怠った」と評価。課徴金を課した。日産はこれを不服として審査請求。行政不服審査会が出した答えは、「調査確認義務はなかった」というものだ。

 結論を受け、消費者庁は課徴金を撤回した。だが、事業活動に重大な影響を及ぼす自らの判断の誤りに接しても、「法的評価は分かれ得るもの」(岡村和美消費者庁長官)と他人ごとのようなコメントで反省の弁はなかった。

 不服請求は大手だから可能だったものでもあるだろう。中小が、消費者庁の決定に抗うことは容易ではない。

 実際、過去に処分を受けた事業者からは「自主申告したのに処分された」との声も聞かれる。公正取引委員会の元執行担当官も「制度前は指導で済んでいたものが、今は減額するものの措置命令、課徴金対象」と最近の運用を振り返る。

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 日産の例が示すように、「推定有罪」で進む課徴金調査は危うさをはらんでいる。これを自覚しての運用からか、消費者庁の取締りにも変化が生じている節がある。処分の公表前に、自主的に社告を出すように推奨しているようだ。

 「社告を出せといったニュアンスを暗に伝えられた」、「社告の案を持ってこいと言われた」。16社の一斉処分が行われた「葛の花事件」。処分を前に、複数の事業者が調査段階で消費者庁にお詫び社告の掲載を求められたと口にする。企業による処分前の社告掲載は、課徴金導入以前はなかったこと。前出の行政関係者は、「違反行為を認めさせ、課徴金を妥当なものとしているのでは」との見方を示す。企業の社告=自白こそ、処分の正当性を示すからだ。

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 ただ、この手法も危うい。日弁連は長年、人権擁護の観点から自白の獲得を最優先課題とする日本の捜査のあり方を批判し、刑事司法改革を求めている。消費者庁による企業に対する事前の社告提案が行われていたとすれば、自白強要であろう。真っ先に問題視すべきは日弁連だろう。

 さらに不可解なのは課徴金の使い道の議論だ。消費者委員会では、消費者系団体から繰り返し、課徴金を消費者団体の支援に充てるべき、との意見が出されている。

 誇大広告の課徴金がなぜ、消費者団体の活動資金源となるのか。意味不明であろう。これがまかり通れば、消費者団体の活動維持のために、取締りが強化されることになりかねない。(つづく)

 
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