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中国越境EC拡大続く、「独身の日」日本商品人気根強く

2019年12月 5日 13:15

 中国で毎年恒例となっている11月11日の「独身の日」について、今年はアリババグループが流通総額で過去最高となる約4兆1602億円を達成した(1中国元=15・5円換算)。国・地域別流通総額ランキングでは日本が4年連続で1位を獲得するなど中国での人気は依然として根強くある。商品戦略や販売手法など、年々トレンドが変化しつつ続けている中国市場に挑む日本企業各社の取り組みに迫った。
 




 今年初頭から大きな動きがあった中国ECビジネス。1月から施行された「電子商務法」は、中国のEC市場の管理を強化するもの。転売などを目的とした国外での個人の大量購入を厳しく取り締まる側面もあり、同法の影響でいわゆる”関税逃れ”を目論むような個人事業者による大量購入が減少。そのあおりで、海外向け転送サービスなどを活用したCtoC経由での越境ECが縮小される動きが見られた。

 当然ながら、法人による正規のECにとっては追い風で、独身の日などに代表する大型セールイベントでは好調だった企業の声がいくつか聞かれている。

 まず、アリババの中国国内向けサイトの「Tモール」では、美容家電の製造販売を手がけるヤーマンが「ブルームレッド『答えの箱』コラボセット」や「HelloKitty45周年限定コラボセット」などを販売して、電子美容機器部門における販売実績、売り上げシェアで4年連続1位を獲得。同モールにおける独身の日のトータル販売実績は前年よりもさらに伸長し、昨年に同社が記録した美顔器カテゴリーにおける史上最高売上額を更新した。

 1日の売り上げが1億元を超えたブランドとして美顔器カテゴリーから唯一、2年連続でリストインし、同時に1日の売り上げが1億元を超えた単独店舗として、美顔器カテゴリーから唯一「雅萌(ヤーマン)旗艦店」がリストインした。

 また、フィギュア商品・玩具を取り扱う大網では、フィギュアや女性向けのグッズ(雑貨類)が好調に推移。フィギュアはもともと高額であり、グッズもまとめ買いがあったため、購入単価は平常よりも50%増となり、いかにこの機会にお得に購入するかという傾向が見られたという。一方で、独身の日の直前に買い控えが発生する傾向もあったという。

 同カテゴリーでは日本のアニメやゲームのキャラクターグッズなどを扱うトーキョーオタクモード(TOM)が「Tモールグローバル」に出店しており、今年の独身の日は通常日の約80倍の売り上げを記録。独身の日の売り上げとして同社で過去最高となった。中でも食玩やフィギュアの売り上げが好調。同社によると、越境ECに限ったことではないもののウェブ広告費が年々上昇していることから、幅広いマーケティング施策が必要だとしている。

 オルビスでは中国越境ECにおいて、Tモールグローバル、「KAOLA」、「ワンドウ」の販路を活用し、インナーケアや健康食品を中心に販売している。今回の独身の日においては、「ORBIS DEFENCERA(オルビス ディフェンセラ)」をはじめ、「プチシェイク」「インサイトフォーカス」などの販売が好調に推移した。

 今後は、成分や科学的根拠にこだわりを持つ「成分党」という層にターゲットを絞り、日本政府のお墨つきという啓発を通して効果効能を訴求していくという。

 美容ベンチャーであるロフスは、Tモールグローバルなどで自社のボディケアブランドである「マプティ」の、当日の出荷合計数(全5商品)が10万個を突破。同社は17年12月より中国でのECを開始し、現地のインフルエンサーなどを起用した販促を展開することで、徐々に知名度を上げていき、この2年間で中国での販売数は60万個を突破するなど順調な成長を続けている。独身の日は2回目の参戦となったが、ブランド認知が大きく進んだこともあり、売り上げを伸ばすことができたようだ。

ユニークな商材発掘で成果

 アリババ以外での売り場の状況はどうか。

 楽天では中国などの海外仮想モールで「楽天市場」公式旗艦店を出店しており、売り上げが伸びている。中国では京東集団が運営する、国際版仮想モール「JDワールドワイド」、NetEaseの越境ECサイト「Kaola(カオラ).com」、さらには韓国ではebay Koreaの「Gmarket」、SK planetが運営する通販サイト「11STREET」にも出店している。11月11日における中国での流通額は前年同期比約180%増と好調に推移した。

 コマースカンパニー クロスボーダートレーディング事業部の高橋宙生ヴァイスジェネラルマネージャーは「今まで中国向け越境ECといえば化粧品やおむつなどのベビー用品が主流だったが、それ以外にも男性向けの家電製品や、ボディーケア用品、ファッションアイテムも伸びた」と振り返る。

 メーカーとのタイアップにより、従来人気だった有名ブランドの商品以外でもヒット商品が出てきている。例えば、カオラで販売したオリジナルブランドの真珠「パール優美」や「松山油脂」のスキンケア商品などが売れた。また、食品でもヒット商品が生まれており、ミツカンが扱う「鍋つゆ」がヒット。楽天とミツカンが中国向けプロモーションを練り、SNSで影響力を持つ「KOL(Key Opinion Leader)」を起用したマーケティングも実施した。高橋氏は「日本の文化的なもの含めて商品の楽しみ方を紹介するというのは、メーカーのニーズともマッチするので引き合いも増えている」と手応えを口にする。

 旗艦店で販売する商品は、メーカーや楽天市場出店店舗から集めたもので、楽天が買い取っている。好調だった理由について、高橋氏は「飛び道具的なプロモーションを行ったわけではなく、カオラとじっくり戦略を詰めた結果。商品を提供する企業とも密に連携を取り、11月11日に備えて在庫を用意してもらった。また、中国では『皆と同じもの持ちたい』という感覚が年々薄れてきており、よりユニークな商材を発掘できた結果ではないか」と分析する。

 KOLに関しては、同社が直契約しているグループがあり、相場よりも安い価格で実施可能という。高橋氏は「著名なKOLを使い、ウィーチャットやティックトックで露出すれば良いわけではない。オフラインも含めて多方面で”流行ってる空気”を醸成することが重要だ」と話す。

 そのほか、中国向け越境ECアプリ「ワンドウ」を展開するインアゴーラでは独身の日に合わせてKOLを20人以上起用してショート動画を作成し、事前に現地のSNS経由で配信するなど販促面を強化した。

 千葉県の倉庫では物流面でもてこ入れを図った。平時の5倍の荷動きに備えて倉庫の人員を3倍増強したほか、リードタイムの短縮や梱包にも気を配るなど物流品質の向上を目指したようだ。

 インアゴーラは今年、中国の顧客への認知が十分ではない優れた商品を発掘し、中国市場での育成を図ることに軸を置いた戦略を展開。独身の日もこの戦略に重点を置き、割引を重視した価格訴求よりも目新しい高品質商品の認知拡大と購入を促すプロモーションを実施。その一環でKOLを起用して中国向けのSNSで動画の配信を行った。結果的に独身の日の売れ筋として爆買い品が目立った前年までとは異なり、今回はメイダイの機能性インナーのほか、日本酒や化粧品カテゴリーなどの売り上げが伸びたという。

 インアゴーラでは今回の独身の日の特徴として「一過性」ではなく「定着」としており、「今後につながる商機として活用できた」(同社)と説明。今後は今回獲得した顧客をリピート化させることに注力していく。


協力企業やKOL選び、慎重に

<中国市場で見えた課題>


 アリババグループでの数字が示すように、全体的に見ると大きく成功したといえる今回の独身の日だが、当然ながら参加した企業の全てが恩恵を受けることができたわけではない。競争が激しい分だけ、淘汰も進んでいる。

 ある大手有店舗企業では数年前から中国越境ECモールに出店しているが、今年については「以前よりも大分勢いが弱くなった。独身の日も現場からは特に良い声は聞かなかった」と説明。現在は直接小売りではなく、提携した中国現地企業に商品を卸すBtoBtoCでの売り方にシフトしている。

 自分たちで販路を広げるよりも現地のパートナー企業が持っている販路を活用する方が効率的であることに加え、中国での独特の商慣習やノウハウ、海外企業が現地での信用を勝ち取るためのハードルの高さがその理由にあったという。

 また、中国市場そのものに日本とは違った問題点があることも指摘されている。その一つが商品キャンセルの問題で、受注後に入金があると思って商品を発送したものの、顧客都合で一方的に急遽キャンセルされるケースが日本と比較して多いとの声が聞かれている。

 ”W11(独身の日)赤字”なる言葉もあるようで、送料なども含めて自社で負担することから、当日、大量に売れたからといって入金があるまでは利益として確定できないというのだ。ある企業によると、物流サービスも提供している現地のECプラットフォーム側としては販売手数料だけでなく配送費も収益源となっていることから、返品も含めてとにかく多くの荷物が動くことを重視している側面もあるとする。

 そのほか、KOLの活用についても注意点がある。現在は中国の有力なKOLを仲介するような代理店などが数多く存在するが、その選び方次第では期待しているほどの成果が得られないケースもあるという。ある企業では「業者が価格を高騰させている印象はある。商品が売れるKOLと、喋りが面白くてフォローワーを得ているKOLとはまた別。実際にフタを開けてみたら全然商品が売れなかったということもある」と指摘。

 これは日本のインフルエンサーマーケティングでも同様に指摘されている問題で、抱えているフォローワー数だけが企業のマーケティングにとって正しい指標になるとは限らないのだ。現地の市場を理解した実績のある業者選びができるかどうかがポイントになるだろう。

 これ以外にもコピー商品被害やその防止対策など、参加する上で様々なハードルが存在する中国市場。成功者には市場規模に見合ったリターンが得られるものの、そこに至るまでの道のりは単純ではなく、協力企業選び、商品選定、担当する人材の確保など、あらゆる角度から”中国仕様”で臨めるかが鍵となりそうだ。

 
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