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【トクホ 終わりの始まり 4.幻の「機能性食品」㊦】

2021年 4月30日 12:30

翼を失い、篭に押し込め

 「機能性食品」は「特定保健用食品(トクホ)」と改名され、目指したコンセプトも大幅に後退する。制度化の最終段階では、さらに厳しい要件が追加される。翼を奪われ、カゴに押し込められたのだ。大きく影響したのは食品のあり方をめぐる原理主義的なイデオロギーである。

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 1952年、戦後の低栄養状態を脱すべく制定された「栄養改善法」。トクホはこの法律に位置づけられることになる。

 しかし、食品成分の機能性を認め、それを活用しようと考えた「機能性食品」の新天地でないのは、時代遅れの法律名からもあきらかだった。

 与えられた場は従来からあった「特殊栄養食品」のうち「特別用途用食品」の一区画。「特殊」や「特別」という言葉が象徴するように、食品の「異端」として扱われたといえよう。

 さらに制度は「個別審査」が導入されることになった。許可を申請したい場合、学識経験者による審査会で、一つひとつの製品ごとに審査の上、許可をあたえるものである。医薬品と同じレベルの厳正さだ。

 当時の厚労省の担当者は(1)厳格で慎重な対応が可能(2)同じ成分、形態でもラベルが違えば表示をチェックする必要ありなどと理由を述べている。

 あまり積極的に制度を広げる意図はなかったことが透けてみえる。

 漢方などの生薬や大衆薬と比しても、臨床試験もある個別許可は厳しすぎる。

 加えて、個別許可制の理由に「最新の栄養学の進歩に的確に対応できる」と言及している。むしろ、栄養学や栄養士のグループが、食品の機能性研究を否定してきたことを考えると噴飯ものである。

 許可要件の文言にも栄養原理主義的イデオロギーが垣間見える。

 まず(1)「食生活の改善が図られ健康の維持増進に寄与することが期待できるものであること」。

 「食生活の改善」と食品の機能性の有効活用は本来、別次元の話である。正しい食生活をしたから、食品が生体調整の機能を発揮する訳ではない。

 思想性が顕著に表れているのが後段の3つだ。(6)「同種の食品が一般的に含有している栄養成分の組成を著しく損なったものでないこと」。

 パンやご飯に特定の機能性成分を入れるのなら、たんぱく質などの他の栄養もそのままでないとダメとの意である。正に余計なお世話であろう。

 (7)「まれにしか食されないものでなく、日常的に食される食品であること」。日常的とはどういう意味で誰が決めるのか。なぜこの要件が必要か、意味が不明である。

 (8)「錠剤型、カプセル形状型をしていない通常の形態をした食品であること」。最も摂取しやすく続けられる剤型を否定。その理由は「これまでの食品らしくない」からだ。

 最も重要な表示の範囲は「容易に測定可能な体調の指標の維持に適する又は改善に役立つ」「身体の生理機能、組織機能の良好な維持に適する又は改善に役立つ」「身体の状態を本人が自覚でき、一時的であって継続的、慢性的でない体調の変化の改善に役立つ」と割に幅広にとられている。

 しかし、表示は許可であり、決めるのは事業者ではなく検討会の有識者。実質的には厚労省だ。

 このため「お腹の調子を整えます」「血圧が高めの方に適しています」などの表示しか認められていない。

 連載で後述するが安全性についても、厳しい枷がかけられた。

 機能という食品の新しい扉を開こうとしたところ、薬だけでなく、食品のあり方を変えることを危惧した栄養原理主義のグループがそれを強く阻んだ。

 トクホの成立過程から浮かび上がるのはこの構図である。

 そしてこの間、米国では90年に栄養表示教育法が施行され、「食物繊維とがん」「カルシウムと骨粗しょう症」などの表示が社会実装され、以後世界最先端を突っ走る。

 「機能性食品」で世界をリードした日本は、大幅にトーンダウンしたトクホにより周回遅れで91年に制度をスタートする。

 しかし、93年にようやく誕生した第一号の製品は、先行きの不透明な状況を象徴することになった。(つづく)

 
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