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再配達問題が再び浮上【イー・ロジット 新規上場記念インタビュー 角井社長に聞く これからの通販物流】 顧客視点に立ち商品の受け渡しを

2021年 4月30日 12:30

 通販物流のイー・ロジットが3月26日、JASDAQスタンダードに新規上場した。設立当初から念頭に置いていたという株式上場は、フルフィルメントセンターの拡充とスタッフの働きやすい職場環境の整備を一層推進することになりそうだ。通販企業向け物流代行事業の運営に加え、コンサルティングや著作活動にも尽力する角井亮一社長に、今回の上場の狙いや、これまでのイー・ロジットの歩み、今後の成長戦略などについて聞いた。
 








 ――株式上場おめでとうございます。上場の率直なご感想は。

 「コロナ禍という大変な時期ではあったが、コロナがあったとしてもなかったとしても、今回、計画した時期に上場が果たせたことは喜ばしく思う」

 ――株式上場を考え始めたのはいつ頃か。

 「創業当時からパブリックカンパニーということを意識していて、監査法人も初年度から入れていた。実家の光輝物流がプライベートカンパニーだったので、自身が立ち上げる企業はパブリックカンパニーにしたいと考えていた。社内的に上場へ向け本格的に動き出したのは2017年で、そこから勉強しながら進めてきた。次も考えているので、まだまだこれからも頑張らなければならない」

 ――ということは、東証の「プライム」(来年4月に市場再編が予定され、現1部市場に相当)を目指す。

 「そう。我々は今回の上場で約8億円を調達したが、シリコンバレーでその話を聞かせると、『そんなので上場するの』と驚かれた。『資本金1億円で上場が可能なのか』とも言われていた。”プライム市場への上場で100億円調達”ということがあって初めて、シリコンバレーでは『上場したね』と言われる。今回上場したと言っても、シリコンバレーのベンチャーから見ると、『ちょっと増資したんだね』という感覚のようだ」

米国の市場見据え国内の変化を予想

 ――00年創業だが、そもそもイー・ロジットを設立した狙いは。

 「EC企業の物流を受託するという事業目的があり、その際に既存の企業(角井社長の実家の物流会社である光輝物流)で行うよりは新しい体制で取り組んだ方が良いというアドバイスをいただいた。ECはスピード感などが全く違っていて、既存の物流では対応できないと考えた」

 ――当時からEC市場の成長を見通していたのか。

 「船井総合研究所に所属していた1996年に同社初となるネット通販に関するセミナーを開催したが、それがきっかけと言える。市場の成長というよりも、大きく変化していくだろうなと当時は感じていた。セミナーの参加者も皆さんが熱をもって聞かれていた。ただ、当時は、まだまだ小さい市場だった。当然、どれだけ広がるかは想像がつかなかった。また設立時にアメリカのシリコンバレーへ赴き、ネットの物流を行っている企業の役員クラスの方々とお会いさせていただいたが、彼らも興奮しながら仕事をされていて、高揚感を強く感じたことが印象深かった」

 ――日本もアメリカのようになるとの見立てをしていた。

 「そう。やはりアメリカの進化と日本の進化は似ている」

 ――設立以降は、どのような道のりを辿ったか。

 「当時、無料で登録できるECサイトがあり、2000社ほどが登録されていて、そのサイトと提携して自動で申し込みができてイー・ロジットと契約できるような取り組みなどを行った。規模の大きな企業は非常に少なく、小さいところばかりだった」

 ――どのように、御社は成長してきたのでしょう。

 「と言うか、市場の変化だと思う。設立当時、受託した1社目は大企業で、売り上げは月商で2000万円ほどだったが、それ以外のところは本当に小さい企業ばかりで、どうやって売り上げを伸ばすかと皆さん苦労されていた。当社としても売上拡大のために、カタログ送付(メール便)ビジネスにも取り組んだりした。その後にそのビジネスを止め、今に続く通販物流に集中することを決断した。このタイミングでの選択と集中ということが大きな転機になった」

バリューチェーン生む事業展開を

 ――今後の成長戦略は。

 「基本的には3つあり、1つ目が、我々の事業はフルフィルメントビジネスであり、そこからもっとバリューチェーンを生んでいくこと。我々のお客様がもっと伸びるような機能を提供していく。当社へ委託されたお客様は当社とのお付き合いを通じて伸びるところが多く、それ故に長くお付き合いいただくこが重要と考えており、お客様のさらなる事業成長に寄与するよう取り組んでいく。2つ目は、新規のお客様の拡大だ。エリア的にも国内だけでなく東南アジアを含めた戦略を持っている。

 そして3つ目がフルフィルメントセンターを拡充していくこと。新規でつくることはもちろん、既存センターも含め進化させていくことであり、つまりセンター機能の強化だ。この機能強化の例として過去の事例を挙げると、センターに写真スタジオを作ったりしているが、新たな機能を強化してイノベーションを図っていきたい」


 ――今回、約8億円を調達資金したが、その使途も主にフルフィルメントセンター開設に投資するのか。

 「開示資料でも記しているが、フルフィルメントセンターの開発や既存センターの改変・作り替え、そして現場スタッフが安心して働ける環境をより整備していくことが主なところ。特にスタッフには安心して働いていただき、長く働いていただきたい。そして頑張ろうと思ってもらって、そのような思いを持つスタッフ皆でより良いサービスを作っていき、さらなる成長を目指していけるようにする」

 ――フルフィルメントンセンターは、全国の主要都市に置くようなイメージを描いているのか。

 「我々は基本的にはドミナントで開設している。それにより波動対応ができるというのが一番の強みだ。6月には埼玉・草加市に新拠点の開設を予定しており、東京の東側エリアは6拠点体制となる。十分にしっかりとお客様の伸びに対応できるキャパシティができる。政令指定都市すべてに拠点を擁するというようなことは考えていない」

 ――大阪にも1カ所あるが、今後、大阪もドミナントで開設し波動に対応できるようにするのか。

 「その通り」

 ――ドミナント開設というのはこれまでの経験で培ったノウハウに基づくのか。

 「我々独自の考えに基づくもので、当社ほどの規模で行っているところはないと思う。全国の主要エリアにセンターを構えるというところが多いが、我々はそうではない。拠点間のコラボレーション、拠点間同士が協力できる体制を築くことを最重要ポイントとしている。

 一方、通販企業すべてそうだと思うが、それぞれ考え方をお持ちであり、そのような価値観を物流でも表現できるようにしていくことも重視している。現場では基本的に標準化をベースとして作業に取り組むが、プラスアルファとして例えば母の日ギフトで1点当たり5分もかかるような複雑なラッピングなど、そのようなことも受け入れられる体制にしている。他社が規格化・画一化で対応できない柔軟性のある対応が行えている。エコへの対応でも緩衝材などで再生紙を使ったりといった、お客様の考え方に合わせて変えることなどもできる。波動への対応に加え、お客様ごとのカスタマイゼーションが我々の強みとなっている。通販会社では同じ化粧品を扱っていても、ポリシーは違っていて、それぞれのポリシーに沿って変えて提供できるというところは重要だ」


オムニ展開が今後の鍵に

 ――角井社長はコンサルタントとしても活躍している。

 「『そこまで見てくれるんだ』とのお声は良くいただく。このような取り組みを行うところは他にはないし、私自身は物流に関する著書が34冊あり、そういった意味では唯一無二の存在ではあると思う。コンサルティングと実務との関連という観点では、コンサルティングを通じてイー・ロジットのスキルを買っていただき、さらにそこから我々のフルフィルメントセンターという現場でもお付き合いいただけるという流れになる。我々が開催するセミナーでも錚々たるネット通販企業の方がいらっしゃってくれるし、ネット通販専業以外の小売業の方などもいらしてくれる」

 ――海外市場についても詳しく、海外視察も行っている。

 「現在は行ける状況ではないが、11年から行っている。当時、年間30日間は海外でと決めて活動してきた。30日間というのは結構大変なことだった。最初の頃は東南アジアも入れて、各国EC市場の状況確認を行って年に5カ国くらい視察していた。どこが次に来るかを確認していた」

 ――コンサルタントの立場として、現状の通販・ECの物流全般での課題はどのようなこととお考えか。

 「再配達問題ではないか。この問題は今現在こそ隠れているが、再発すると思う。荷物が大幅に増えながらも、コロナ禍での在宅率の高さで再配達がなかったからうまく配達できたが、徐々に情勢が変わりつつある。在宅が減るようになり、元に戻れば同じ問題が起こる可能性が高い。いずれにしても率直に言えば、問題を先送りしてしまっている」

 ――その再配達が再び増えたときに備え、どういう対策が必要になるか。

 「再配達の数を減らす努力、そもそも再配達の件数、送ってから荷物を受け取るといったサイクルの数字というのは、一般の通販企業では把握していない。そこにこそ問題があり、努力しようがなくて、数字がないからPDCAを回して検証することもできない。通販企業の多くは、送ってしまって完了ということにしてしまっている。例えば、ふるさと納税で宮崎のマンゴーの返礼品があった場合、再配達が受け取れない、ワーケーションで遠方にいるという場合、ずっと届けらずに、商品が戻ってしまい、そうなると食べられる状態でなくなる。でも本当はその点にも対応し、送り先を切り替えられるようにすることが顧客満足を考えたら必要不可欠になる。この問題の解決は時間を要すると思う。実際のところは宅配便企業と連携したらすぐ解決する問題だと思うが、お互いに別々の事業主体でもあり、恐らく事情があるのだろう。

 もう1点が、オムニチャネルの取り組み。ネット通販企業であっても、身近なところにリアル店舗があれば親近感を抱かれるので、ネットでも買いやすいし、誘発もできる。ネット通販だけでは忘れられてしまうので、そのためにも店舗も設けたい。ネット通販のお客様に買い続けてもらおうと思ったら、物理的な距離感を縮めるためにもオムニチャネル化が必要になる。まずはポップストアからスタートしていくことを考えるべき。ネット通販だけでなく、カタログ通販もそうだが、ちょっと顧客との距離感があり、縮められないので、それを縮めた方が売れることにもなる」

                       ◇


角井社長プロフィール
1968年大阪生まれ。上智大学経済学部を3年で単位修了し、米ゴールデンゲート大学でMBA取得。船井総合研究所、不動産会社を経て、家業の物流会社である光輝物流に入社。2000年にイー・ロジットを設立。物流に関する34冊の書作があり、代表作は「物流革命2021」(日本経済新聞社)、「アマゾンと物流大戦争」(NHK出版)、「オムニチャネル戦略」(日本経済新聞社)。


 
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