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「ライブ」「コト系」で独自性<auPAYマーケットの戦略> 「スマパス流通額」が急増

2021年 4月30日 12:30

 KDDIとauコマース&ライフ(auCL)が運営する仮想モール「auPAYマーケット」の流通総額が伸びている。2020年流通総額はコロナ禍を受けて、前期比63%増と好調に推移。ただ、競合となる仮想モールには依然大きな差をつけられている。こうした中でauCLでは、独自性を打ち出すための戦略を推し進めている。

 








 同モールの好調は、ネット販売市場の伸長だけではなく、有料の優待サービス「auスマートパス(スマパス)プレミアム」を核とした「au経済圏」が拡大したことも要因だ。スマパスプレミアム会員による流通額は、全体の約70%まで伸びた。auCLの八津川博史社長は「スマパスプレミアムが流通額の拡大を大きくけん引している。会員として加入するユーザーも増えており、ロイヤリティーの高い顧客が積み上がってきている」と評価する。

 スマパスプレミアム会員は、毎月3のつく日に開催される「三太郎の日」でポイント還元率がプラスされたり、対象商品が送料無料になる特典などがあることから、単価増や購入回数増の後押しをしているようだ。

 昨年下期からは、アイドルグループ「乃木坂46」が出演している、同モールの宣伝用ウェブ動画を配信しており、3月上旬には累計再生数が1500万を超えた。八津川社長は「認知率がかなり改善してきた」と手応えを口にする。

 同モールはKDDIによる買収以降毎年流通総額を伸ばしており、本紙による推計では、2020年の流通総額は1500億円前後となったようだ。ただ、競合となる「楽天市場」の2020年流通総額は3兆円を超えているほか、ヤフーの親会社であるZホールディングスのショッピング事業取扱高(『ヤフーショッピング』や『ロハコ』、『ゾゾタウン』などの合計)は、20年4~12月期の累計で1兆円を突破している。

 楽天もヤフーも携帯キャリアとしてのライバルだが、仮想モール事業ではかなり水を開けられている。また、NTTドコモもアマゾンとの結びつきを強めている。政府の要請で各キャリアは携帯料金の値下げに踏み切っており、ネット販売は収益源としての期待が高まっている。

 八津川社長は「昨年5月に『auPAYマーケット』に名称を変更したが、『auPAY』というスマホ決済ブランドと一つになって動くためのものだ。今期も、より連動したプロモーションや、タッチポイントの増加などを進めていきたい」と話す。

 もう一つ重要になってくるのが、同モールならではの独自性を出していくことだ。こうした観点からauCLでは、ライブコマースに注力している。3月1日から、アプリ内のサービス「ライブTV」において、吉本興業のお笑い芸人が商品を紹介するライブコマース番組「生配信!よしもと市場」を開始した。

 auPAYマーケットアプリからの集客だけではなく、ニュースアプリ「グノシー」にライブコマースの画面を設けるなどの取り組みで、視聴者数の増加に取り組んでいる。

 「視聴者数は右肩上がりで伸びているが、どうしてもらえば商品を買ってもらえるか、また動画を視聴してもらえるかが課題なので、今期は店舗と一緒にチャレンジしていきたい」(八津川社長)。現状では、通常のネット販売に比べると、コンバージョン率は低い状況という。アプリの機能改善なども進めていく計画だ。

 1月19日には体験型サービスの取り扱いも開始した。八津川社長は「モノだけを売っている仮想モールとは違う、『より良いモノ』や『より良いコト』を提案していけるサービスにしていきたい。コト系商材を扱うことで、サービスそのものの価値や表現力引き上げにもつながるのではないか」と期待を込める。


「コロナ禍で男性比率高まる」、広告利用店舗が20%増

【auCLの八津川博史社長に聞く①】


 auCLの八津川博史社長(=(上)写真)に2020年の取り組みを聞いた。

 ――2020年の流通総額は。

 「前期比63%増で推移した。昨年4月の緊急事態宣言下では、新規購入のユニークユーザーが前年同期比42%増となったほか、継続購入率も1・5倍に引き上がった。さらに、20年の購入者数は前期比51%増だった。数字としては流通総額の伸び率の方が上回っていることになる。つまり、1人あたりの購入額や購入回数が増えている」

 ――コロナ禍でユーザー層にはどんな変化が起きたか。

 「購入者の男性比率が増えたほか、50代以上の比率が高まっている。au経済圏のユーザーは、iPhoneよりもアンドロイド端末の利用者が多い傾向があり、年代でいえばやや上に偏っている。そういったユーザーに購入してもらえたのではないか。また、平時であれば女性が多数なのに対し、ネットで『買う必要がある』という状況になったことで、男性の流入が増えたと推測している」

 ーーコロナ禍でどんな店舗支援策を展開したか。

 「巣ごもり需要を促進するような企画を展開し、店舗に利用してもらう流れを促進した。実店舗事業や海外向け事業が厳しい状況で、ネット販売で何とか埋め合わせたいということで出店した企業に向けて、新規出店店舗で使えるクーポンを配布するなど、アシストした。また、オンラインでの商談が増えた結果、店舗との接触数や接触時間が多くなっている。開店準備のサポートや、販促のサポート、広告提案なども以前よりやりやすくなった。広告を利用する店舗は20%ほど増えており、ネット販売に本気で取り組む店舗が増えてきたという手応えがある」

 「機能面の強化も継続的に進めており、店舗の声を受けて、管理画面『ワウマネージャー』の改修を行っている。以前は『機能が足りない』という声をもらうことも多かったが、そういった不満も少なくなってきたようだ」


 ――出店店舗数は。

 「実数は公開していないが、増加基調で推移している。コロナ禍で、誰もが知っているメーカーやブランドからの引き合いがあるし、地方の中小企業に間でもネット販売への温度感が高まっているように感じる」

 ――KDDIのスマートフォン決済「auPAY」との連携も進めている。

 「auPAYアプリが『スーパーアプリ』的な形で各サービスを内包する形となっており、auPAYマーケットへのユーザーの流れがシームレスになってきている。auPAYアプリのほか、スマパスプレミアムアプリからもユーザーが流入しており、購入転換率が伸びてきている。ポイントを割増レートでauPAYマーケット限定ポイントに交換できるサービス『お得なポイント交換所』も継続的に展開しており、au経済圏のユーザーが来訪する場所とモールが密に連携するための動きを加速している」


「ライブコマースは工夫が必要」

 ――ライブコマースも強化している。3月からは、吉本興業のお笑い芸人が商品を紹介するライブコマース番組「生配信!よしもと市場」を開始した。

 「視聴者数は右肩上がりで伸びている。ただ、動画を視聴したユーザーが商品を購入するという部分に関しては課題となっている。どうすれば買ってもらえるのか、そして視聴し続けてくれるのか、課題解決に向けて店舗と一緒にチャレンジしていきたい。いかにライブ感を持って価格を示せるかなど、サービスに関しても改修の余地があると思っている」

 ――購入の動線は。

 「画面下部のボタンを押すことで、仮想モールの商品ページに飛ぶことができる。通常のネット販売における購入転換率に比べると、上がりづらいのは事実。吉本興業のお笑い芸人が面白おかしく番組を盛り上げてくれるという流れなので、ユーザーにとっては気になる商品はあっても、まずはエンタメを楽しむという部分が先立つ。そのため、通常のネット販売に比べると購入転換率は低いのが現状だ。共同購入や価格の変動など、エンターテインメント感のある買い物を実現するために、創意工夫の余地はまだまだあると思っている」

 ――
中国ではライブコマースが主流となっているが、日本と違う部分はあるのか。

 「中国では産直商品などが動いているようだが、当社ではまだチャレンジできていない。また、インフルエンサーが商品を褒めたときの瞬発力に関しては、中国は非常に高く、恐らくそこにはユーザーの信頼や信用が伴っているのだろう。文化の違いもあるのだろうが、日本はまだそこまで来ていない。また、ライブコマースの機能的にも中国の方が作り込まれているので、当社でも探求していきたいと思っている」

 「日本でもテレビショッピングは中高年を中心に支持されている。全ての商品がライブコマースに向いているかは別として、親和性の高い商品はあると思っている」

 ――
ライブコマースに商品を出した店舗からの声は。

 「新規顧客の開拓につながっているという声をもらっている。ライブコマースという、一般的な通販サイトとは違う領域からの流入なので、新たな顧客層の開拓という点で、可能性を見出していただいているようだ」

 ――
デジタル・トランスフォーメーション(DX)がキーワードになっているが、モールとして対応する部分は。

 「KDDIグループは通信が屋台骨なので、5Gが重要になってくる。より高速に、かつリアルタイムにやりとりする環境が整ってくるわけで、DXが進むと、ユーザーの要求水準やリテラシーも上がってくるはずだ。その『ちょっと先』を提案するのが、ライブコマースや、1月から始めた体験型サービスだ。ライブコマースと体験型サービスを組み合わせた『ライブコマース×コト系』もできるのではないか。ユーザーに新しい価値の提案をしていきたい」

 ――
今年のネット販売市場をどうみるか。

 「もともと日本のEC化率は低かったわけだが、コロナ禍により数年単位でEC化が早まったと考えている。ただ、海外は同様にコロナ禍でEC化が進んでいるので、欧米や中国・韓国などに比べると、日本のEC化率はまだまだ低い。今後はさらにEC化が伸展していくだろうが、ユーザーが商材やサービスに求めるレベルも高まっていくだろう。それに対してしっかりと応えていく、かゆいところに手が届くようなサービスを提供できる事業者が、ユーザーに選ばれ、さらには選び続けられるだろう。当モールがユーザーの選択肢に入る状態を作っていきたい」

 ――
2月には巨大IT企業を規制する「デジタルプラットフォーマー取引透明化法」が施行された。

 「当モールは法の規制対象となる『特定デジタルプラットフォーム提供者』として入っていないが、マーケットの中で影響力は強まってきている。業界として準拠しなければいけない部分に関しては、しっかりと対応していく(おわり)


 
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