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【トクホ 終わりの始まり17.エコナ油.大炎上③】

2021年12月 2日 12:58

騒動の外縁をめぐる点と点

 配合成分に発がん性の懸念がにわかにクローズアップされ、1カ月あまりで特定保健用食品制度(トクホ)の自主失効に追い込まれた花王のエコナシリーズ。トクホを代表するブランドでもあり、消費者だけでなく、業界心理に与えたダメージも大きかった。発足間もない民主党政権と消費者庁というタイミングも影響したが、ここに至るプロセスには別のファクターも垣間見えた。

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 「またA社がグリシドール脂肪酸エステル(=GE)の安全性を持ってきた。いい加減にして欲しい」。エコナ問題が大炎上する前、東京都の女性担当者はこうぼやいていたという。エコナに含まれる成分に問題があるということを繰り返し説明に来ていたというのだ。このA社は、エコナと競合関係にある企業。いわば、安全性問題を行政にチクっていた訳だ。

 GEの安全性問題は消費者団体が、かなり以前から指摘していた。これを消費者系の専門紙も紙面で追求していた。

 これを素直に受け止めれば、消費者団体の積年の食の安全性をめぐる問題提起が、市民運動の実践者、理解者であり民主党政権で消費者相となった、社民党党首の福島瑞穂氏によって、取り上げられ、社会問題化したということであろう。

 一方で、GE問題を紙面化していた消費者系の専門紙に、前述の東京都の女性担当者を困惑させていたA社が定期的に広告を入れていた。

 騒動の外縁をめぐる小さな点と点。ここに相関関係を見出すのは考えすぎであろうか。

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 エコナシリーズが食用油や調味料メーカーの脅威であったことは想像に難くない。

 そもそも、食用油や調味料のメーカーは、大手の寡占で古式ゆかしい市場だ。2020年度でも売上高は1600億円。サプリメントの1兆2000億円規模に比せば、さして大きくはない。

 ここへ、花王はトイレタリーという異業種から参入し、瞬く間に推定で200億円規模の売り上げを構築した。しかもエコナシリーズの売上規模は年ごとに成長。つまり、他メーカーの焦りも拡大していた訳だ。

 食用油市場には周縁に、マヨネーズやドレッシングなどの調味料も存在している。こちらも花王の動きに神経を尖らせていたとしてもおかしくはない。エコナシリーズには、調味料も登場していたからだ。

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 加えて、「トクホ」という切り口と表示もインパクトを与えたであろう。

 「身体に脂肪がつきにくい」「コレステロールを下げる」という表示は、カロリーが高く、太りやすいのではという油に対するイメージとは、真逆の健康イメージ。さらにこれが国のお墨付きだ。

 「人間ドック学会推奨」などの巧みな販売促進ツールも他社を刺激した一因であろう。

 さらにテレビを用いた積極的なCM戦略。「食用油のマーケットは贈答用がかなり大きい。そこに我々は気づいていなかった」。ある花王の関係者はこう話す。当時、花王が積極的に展開していたのが、檀ふみさんと阿川佐和子さんをキャラクターとした、贈答用のCM。これはいみじくも、競合の一番の急所を突いていた訳だ。

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 「新規参入の難しさは、当面、周りがほとんど敵であること。さらに一番、足をすくいやすいのは安全性問題だ」(大手サプリメントメーカー)。

 「トクホは国の許可。安全性で炎上すると、担当省庁はどうしても守りの対応とならざるを得ないのだろう。国の許可で表示の信頼性を担保できるが、いざ問題が起こればそれが仇となる。両刃の剣だ」(食品メーカー)。

 にわかに浮上したエコナの安全性問題は、1カ月あまりで収束する。

 しかし、この後、消費者庁は2009年11月に「健康食品の表示に関する検討会」を発足させる。トクホ制度の見直しだけでなく、食品の機能性表示そのものが問題視されることになる。

 「エコナの安全性問題がきっかけで、なぜか健康食品の表示問題がクローズアップされる。まったく意味不明の政策だったが大きな危機感を感じた」。当時を知る関係者はこう話す。

 いずれにせよ、トクホを代表する成功事例が炎上したことで、多方面に影響が及ぶこととなる。(つづく)

 
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