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楽天が武庫女大で授業、ECへの挑戦で視野広がる

2022年12月23日 13:00

 楽天グループは5月から半年間、兵庫県西宮市の武庫川女子大学において、ECの特別授業を10回に渡り実施した。授業では、楽天のECコンサルタントや地域創生事業の社員、仮想モール「楽天市場」の有名店舗「イーザッカマニアストアーズ」を運営するズーティーの浅野かおり取締役やEC運営担当者が講師を務めた。受講した学生はECについて学ぶとともに、商品ページの作成やマーケティングにも取り組んだ。

 





 授業は、兵庫県の関係人口拡大を目指す取り組み「ひょうごe―県民制度」の一環として行われたもの。同県における次代の食産業界を担う人材育成と、地域の食産業の活性化に貢献する狙いがある。

 食物栄養科学部食創造科学科の1年生から3年生が参加。学生たちが手掛けたのは、健康食品「ねぎのチカラ」のプロモーションと販売だ。同商品は県特産の「岩津ネギ」を材料とし、授業を担当している松浦寿喜教授の研究室が商品開発に協力したもの。「粉末にすることで、11月から3月までの4カ月間しか販売できない岩津ネギを1年中食べられるようにする」というコンセプトの商品だ。

 学生は、商品や岩津ネギの良さを伝えつつ、消費者に買ってもらうための商品ページを作成し、プロモーションにも挑戦。そして、ねぎのチカラを楽天市場内の県公式ショップ「ひょうごマニア」で実際に販売した。

 武庫川女子大の食創造科学科は、2020年に設置された新しい学科で、企業とのコラボレーションを積極的に展開している。特別授業を担当した、同大の松浦寿喜教授は「プロフェッショナルが講義してくれたことで、学生たちの目の色がだんだん変わっていくのが分かりました。楽天とズーティーの担当者は大変な苦労だったでしょうが、思いが通じて独創的なアイデアもたくさん出ていました」と目を細める。

 「単位が出ない」という特殊な授業だったにも関わらず、同学科に所属する約200名のうち、前期は約90名が受講。実践的な取り組みを行った後期も20名が残った。講義では、まずECや商品戦略について基礎知識を解説。その後、商品ページ案のコンテストを実施した。

 7月には「NEGIKO★」と「#ネギしか勝たん」という2チームの案が選ばれ、後期からはページ作成を開始。メールマガジンやインスタグラムによる宣伝を行うなど、ページ公開後はプロモーション活動にも取り組んだ。随時、楽天やズーティーの担当者が学生たちにアドバイスをする形で、楽天の担当者とはビジネスチャットツール「スラック」を使ったやり取りもしていたという。

 「NEGIKO★」チームは、「武庫女生にきいてみた」として、唐揚げやギョウザなどのレシピを紹介し、学生が実際に「ねぎのチカラ」を食べた感想を前面に出した。手書きのイラストや、画像に手書きの惹句を書き込むといった工夫も施している。一方、「#ネギしか勝たん」チームは、郷土料理「そばめし」「すじやき」のレシピ動画や、「(ネギのちからを)50種類の食べ物と合わせてみました」という動画をページ内に掲載。自分たちをモチーフにイラスト化したアイコンも効果的に活用している。

プロの金言も

 12月5日に行われた最終講義では、2班が商品ページで工夫した点やプロモーションの内容などをプレゼンテーション。その後、楽天の担当者から売り上げ結果が公表された。11月22日~12月3日までの実績は「NEGIKO★」が売り上げ件数3件で売り上げ金額は1万200円。「#ネギしか勝たん」が2件で6800円だった。アクセス数はそれぞれ655、338で転換率が0・46%、0・59%と、厳しい数字が並んでいる。

 これを受けて、楽天の担当者による学生への問いかけは「サイトにアクセスしたけど、買わなかった人がいますが、何故、買わなかったと思いますか? どうすれば買ってもらえたでしょうか?」というもの。学生からは「アクセス数が少なかったのが反省点です。販売期間の後半に変更した部分が多く、宣伝も時期が遅れてしまったので、もっとアクセス数が増やせたんじゃないかと思います。また、とにかくページを完成させることを優先させたので、今見ると『消費者に何を伝えたいのか』というキーになる部分が欠けている感じがします。もうちょっと『誰に届けるか』を明確にした方が良かったです」「インスタグラムでの宣伝でアクセスはある程度増えたけれども、自分たち世代が見ただけなので、滞在時間があまり伸びなかったように思います。本来のターゲットは(40~50代の)お母さん世代なのに、そこに広めることができませんでした」といった反省の声が聞かれた。

 さらに、学生たちには「ECのプロ」からのアドバイスも授けられた。実は最終講義の直前、ズーティーの浅野かおり取締役が個人のフェイスブックにおいて、楽天市場の店長仲間に向けて「2つのページを見てどんな感想を持ちましたか? お世辞はいらないので、本音の感想を聞かせてください」という趣旨の投稿を行っていたのだ。

 全国の店長からはさまざまな意見が寄せられた。「ネギが嫌いで食べてくれずに困っているお母さんとか、具体的なターゲットを前面に出すべき」「誰をターゲットにしているのか良く分からない」「いろんな食品やサプリがあるのに、ねぎのチカラでないとダメな理由は? この商品を買いたい『人』は誰なのか?」など、学生たちの反省点と重なる感想が多かった。

 また「粉にしてまで『岩津ネギ』でないと駄目な理由は? 消費者目線で『粉にしてでも絶対欲しい理由』がページの一番上に欲しい」「『この商品を買うお客様の悩みは何だろう?』という視点がもっとあるといい」といった具体的なアドバイスも。

 浅野取締役は「ネギのちからは、売るのが難しい商材。ただ『興味の無さ』を超えていくのが私たちの仕事の醍醐味です。プロは普段から、商品を見たときにメリットやベネフィットを想像するし、『どんな人の心を射抜くか』を考えないとページは作れません。例えば『なんで乾燥ネギでなくて粉なん?』という部分を掘り下げられれば、軽々と壁を超えられたのかも」と、店長たちの感想にコメントした。

良い経験に

 学生たちは約半年間の授業を通じ、何を感じ、学んだのだろうか。「正直、全く売れないのかと思っていたので、少ないけど売れたことに喜びを感じました。もう一度やるとしたら、『お客さんはどう感じるか』という視点を忘れず、焦らず冷静になって商品ページの出来を見つめ直したいです」(大前那美さん)。「売ることが目標というよりも、たくさんの人にページを見てもらいたいと思っていました。ターゲットの人たちには届かなかったけど、それなりの人数に見てもらえたことは嬉しいです。(プロからのアドバイスを受けて)何回も何回も見直して提出した商品ページですが、まだまだ足りない部分がありました。ターゲット設定は見失ったらいけない部分なのに、灯台もと暗しでしたね」(八十瀬初さん)。

 インタビューに答えてくれた大前さん(画像中央㊨)、八十瀬さん(画像中央㊧)はともに同学科の1回生。プロの話を聞き、実際にECを手掛けたことが今後のキャリア計画に影響する部分はあるのか。大前さんは「『食品関係の仕事がいいな』と何となく思っていたんですけど、マーケティングやECなど、面白い仕事の分野がたくさんあることが分かりました。将来の職業としての選択肢に入ったので、とても良い経験になりました」と話す。また、八十瀬さんは「将来は食品分野での商品開発をしたいという夢があります。今回販売した商品はネギを粉末にした健康食品ですが、粉末は調味料やお茶漬けの材料として捉えることもできます。ゼロからの商品開発でなくとも、1つの商材から派生させる開発手法があることを知りました。『何かを生み出す』ためには、1つの考えにとらわれてはいけないんだ、ということを感じました」と視野が広がったことを明かした。


「仕事の楽しさ」伝えたい

 講師を務めたズーティーの浅野かおり取締役(=写真)に、授業を終えての感想などを聞いた。

                                                                        ◇

 ――半年間、学生と接して感じたことは。

 「最初は受け身な印象でしたが、回を重ねるごとに自分たちから発信してくれるようになりました。『プロが作ったようなページを求めるのか』『学生らしさが出せればいいのか』『もっと私たちがフォローしてページを作ったほうがいいのか』と、いろいろ悩んでいたのですが、熱意のある学生に向けて濃い目の授業がしたいな、と思って楽天の担当者と相談し、後期は学生主体でコンテンツを作るという授業内容にしました。難しいことを最後までやりきって、反省すべき点にも気づいた学生たちには、100点をあげたいと思います」

 ――EC企業が大学でこうした授業を行う意義とは。

 「大学生にとって身近な大人って、大学の先生やアルバイト先の社員など限定されていますよね。学校側がもっと社会人と話す機会を設けた方がいいし、企業も学生とつながって欲しい。『就職せなあかんのか』と憂鬱になるのではなく、学生には『試行錯誤しながら仕事に取り組むのは楽しい』ことを分かってもらえれば。楽しく仕事をしている社会人にいっぱい出会い、『早く社会に出たい』と前向きになってもらいたいですね」

 ――「ねぎのチカラ」を売るのは難易度が高いですよね。なぜ課題として選んだのでしょうか。

 「逆に『売りにくい』ところが、学ぶ上ではすごく良いし、自分たちが教わる教授が関わった商品というのも親和性があって良いと思いました」

 ――ズーティーは「ひょうごマニア」の運営も担当しています。

 「イーザッカマニアストアーズは売れる商品を仕入れる、もしくは売れるであろう商品を生産して売っているので、バイヤーの目利きが大事です。しかし、ひょうごマニアは兵庫県産品であれば、基本的に取り扱いを拒む理由はありません。『どんな風に表現すれば興味を持ってもらえるか』『生産者の意図や商品のメリットは』など、掘り下げてページを作ることが大事。そういう意味でねぎのチカラは、マーケティング担当者の実力が問われる、とても良い商品だと思います」

 ――今回の取り組みが会社としてプラスになる部分はありますか。

 「スタッフの学びにつながりますし、取り組みを発信することによるプラスの影響もあります。何より若者とつながるのはすごく面白い。『ブランディング』『社会への貢献』というと構えすぎですけど、『ズーティーってこんな会社なんだ』ということをたくさんの人に知ってもらいたいし、そのきっかけになればいいですね」


 
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