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苦情割合「0.73%」【Cネット東海差止訴訟の影響④】 印象論で進む「相談」評価に一石

2021年11月 5日 13:00

 消費者被害防止ネットワーク(=Cネット東海)は差止請求訴訟において、消費者が「誤認する」根拠として、国民生活センターに寄せられた相談件数を示した。これに対し、一審、二審とも「商品の発送件数に占める割合」との比較から妥当性を評価した。印象論で語られがちな「相談件数」の評価に一石を投じる判例になる。

販売実績と比較で妥当性評価

 Cネット東海は、17年3月に国センに寄せられたファビウスに関する相談のうち、「解約可能と思って注文した」との相談が54件(54%)あったと指摘。初回価格を強調したことで「中途解約できない」と誤認する根拠にした。ファビウスが月間の申込み件数を300人に限定していた時期があったことから、仮に300件の注文を受けていた場合でも約18%が誤認した計算になると主張した。

 一方のファビウスは、指摘を受けた表示を行っていた16年度の相談件数が2969件あり、Cネット東海の主張が正しければ1603件(54%)が誤認した計算になるとした上で1年間(16年4月~17年4月末)の商品発送件数が219万件であると説明。仮に「中途解約できない」といった相談が1603件寄せられていたとしても、その割合は「0・073%」に過ぎないと指摘した。

 これをもとに、「1万件に7件程度の相談でも寄せられることがないよう過度に委縮した広告をしなければならないことになる」、「ごく少数の消費者すら誤認し得ない表示を強い、商行為に通常許される範囲の誇張すらも禁じる」と反論した。

 地裁もこの主張を容れ、「17年3月の発送件数約44万件のうち、『初回のみの契約』との誤認は54件で0・012%に過ぎない」と評価。16年度の同社に対する国センの相談件数(約3000件)で捉えても「0・073%に過ぎない」として、被告の主張を採用した。

 一方、Cネット東海の主張に対しては、300人限定の募集を行っていたのが16年9月であったことから、あてはめについて「時期が異なる」と指摘。仮に毎月300人限定であった場合も「発送件数からしても、健全な常識を備えた消費者の認識を基準に、有利誤認とはいえない」とした。

過去にも妥当性評価で議論紛糾

国センのPIO―NET(パイオネット)の統計データは、これまでも立法根拠や法運用の根拠に用いられてきた。

 記憶に新しいのは19年に行われた消費者安全法に基づく注意喚起。短期間に「下痢になった」等の健康被害が急増しているとして健康食品の商品名、社名が公表された。販売企業は、指摘の期間の販売実績(6万5000個)と比較した発生件数は「1000分の1」と主張。業界内でも因果関係が不明であることや、解約の理由に体調不良を挙げるケースもあることから、明確な基準がないままの法運用に懸念の声があがった。

 16年の特定商取引法改正でも立法根拠に国センに寄せられた通販等の苦情件数が引き合いに出されている。

 当時、日本通信販売協会は、「詳細な分析を行い、改正を要するような問題がどこにあるか明確にする必要がある」と懸念を表明。検討委員の間でも議論が紛糾したが、最後まで平行線だった。

 JADMAは、通販の相談件数が25万件、うちネット通販が17万件であるところ、アダルト情報サイト等の相談が7割以上を占めていると指摘。「通販による物販の契約件数(約13億件)」との比較から苦情発生率は「100万件に1件(0・000097%)」と指摘。25万件を母数としても「100万件に2件(0・000187%)」とした。

 相談件数の評価には、氷山の一角で「相談する割合は3%程度」(村千鶴子座長代理、当時)、「多いか少ないかは印象論だと思うが、1000件の苦情件数の裏には大体その50倍は実数がある」(山田正人取引対策課長、当時)との指摘もあったが、「根拠が不明でミスリード」との委員の意見もあった。JADMAも「実際に何倍もの被害があったとしてもなお少なく、規制強化の立法事実として根拠が極めて希薄」と指摘している。

 判例は、相談件数の妥当性評価を行う上で、一つの指標になる。(おわり)
 
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