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足立醸造 有機しょう油でEC拡大、“ストーリー性”打ち出す

2023年 2月 9日 11:00

 1889年に創業したしょう油製造業の足立醸造では、20年前から国産の有機大豆を使ったしょう油を製造している。15年前にはECにも参入。楽天グループが提供する、有名店舗が講師となり、他の出店店舗にネット販売に関するノウハウを伝授する企画「NATIONS(ネーションズ)」に参加したことを契機にEC売り上げを拡大している。

 創業から130年以上を迎える同社だが、有機しょう油への取り組みを始めたのは比較的最近。2002年に有機JAS認証を取得し、吉野杉の木桶で醸造する国産有機しょう油の製造を開始した。同社の足立学専務取締役(=写真)は「自分たちが扱う原材料に関して、誰が作っているかをしっかり把握しなければいけないと、トレーサビリティーについて考えはじめたのがきっかけ。そういう視点で考えると、有機大豆でしょう油を作るのが一番信頼できるのではないかと思った」と有機しょう油に取り組み始めたきっかけを話す。神戸市の消費者団体から「有機しょう油を作ってくれれば購入する」という後押しもあった。

 同社のしょう油は、一般的なしょう油に比べると、価格が2倍近くする。「有機農法について消費者があまり知らない時代だったので、最初はなかなか売れなかった」ものの、消費者向けの試食会といったイベントを重ねるにつれ、くちコミで徐々に売れるようになってきたという。当初はラインナップの1つに有機しょう油がある形だったが、現在は売り上げの90%を占めるまでになっている。生産したしょう油のうち、半分ほどを海外に輸出しており、アメリカやタイなどへの販売に力を入れている。「コロナ禍で消費者の考え方が大きく変わったのではないか。『良い商品なら高くても売れる』という流れが加速化した印象だ」。

 楽天市場に出店するなど、ECへの取り組みを始めたのは15年ほど前。「もっと木桶で作ったしょう油を全国に届けたいと考えた」(足立取締役)のがきっかけ。ただ、当初はあまり売れなかったため「どうやったら買ってもらえるのか」(同)と悩んでいたという。ネーションズに参加したのは2015年のこと。「徐々にファンを増やして売り上げを伸ばしていくイメージで商売をしていたが、売り上げの伸びがかなりゆるやかで、停滞している時期もあった。ネーションズに参加して売れるようにならなかったら撤退も覚悟していた」(同)という。

 ネーションズへの参加以前は、年10%程度の増収ペースだったものが、年50%ペースで伸びていった。2021年のEC売上高は前年比70%増で着地している。講座では、まず「消費者に伝わりやすいような商品画像や商品ページを作らなければいけない」と指摘されたという。商品写真に関しては、同じ県内のEC企業であるベルヴィに撮影を外注している。ベルヴィではプロのカメラマンによる商品撮影サービスを展開しており、ネーションズのリーダー店舗(講師)を務めた、宮崎義則CEO兼COOにECのノウハウを教わったという縁もある。「商品画像は入り口なので非常に重要。クリック率やアクセス数が全く変わってくる。当社のしょう油は他店より2倍ほど価格が高いので、商品画像も2倍こだわらないといけない」(足立専務)。

 看板商品は「国産有機醤油」だが、一般的なしょう油よりも高価だけに、以前はなかなか売れなかった。足立取締役はネーションズで学ぶうちに「消費者に商品の裏側にあるストーリーを分かってもらう工夫が足りていなかった」ことに気づいたという。そこで、「コンクリートやプラスチックではなく、独特の風味が出る木桶仕込みの製法を130年以上守り続けている」ことや「加熱して発酵させる製法よりも、しょう油こうじを木桶に仕込んで1年以上発酵・熟成させる昔ながらの天然醸造の方がうま味がある」、「希少な国産有機の小麦と大豆、国産塩を使用している」ことを商品ページでアピール。原材料に関しては産地を明記、「誰が作っているか」をはっきりさせるために、原材料を生産する農家や同社の職人の写真も掲載し、親近感を持ってもらうための工夫を心がけた。

 2012年には本社に新たな蔵を建設し、吉野杉の木桶を6本新調。昨年には本社近辺に2つ目の蔵を建造して20本の木桶を備えた。足立取締役は「有機しょう油に人気が出てきたため、本社だけでは生産がまかなえなくなってきた。投資金額を考えるとかなりの冒険だったが、委託製造ではなく自社生産にこだわりたかった」と話す。

 しょう油関連以外の商品として、多可町の名産である「播州織」による「健康布ぞうり」を販売している。以前は本社付近に織物工場が多かったものの、今はほとんど無くなっており、端切れの布が余っている家が多かったのだという。これを受けて、余った布でぞうりを作り販売してみたところ、楽天市場で人気商品となり、夏場には欠品になるほどだという。ぞうりの製造は近隣の高齢女性が手掛けており、地域の雇用を生み出すことにも一役買っている。

 足立専務は「廃棄する布を再利用することで、ぞうりを生み出したというストーリーが良かったのではないか。商品としても肌触りが良いし、フローリングの家で使えるという点も便利」と分析。さらには、ぞうりを購入した、健康への意識の高い顧客が、有機のしょう油を購入するケースも目立つという。
 
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