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KDDI 売り場の“空気”伝える、仮想店舗サービス、「カート」は課題

2023年11月24日 12:00

 KDDIは10月24日から、メタバースサービス「αU(アルファユー)」において、実店舗と連動したバーチャル店舗でショッピングができる「αU place」を提供している。実店舗とECを展開する企業がバーチャル店舗を手がけるメリットはどこにあるのだろうか。

 同社事業創造本部XR推進部ビジネス・プラットフォーム企画Gの茂木信二グループリーダーは「次世代のインターネットは3次元への流れが強まるのは確実。スマートフォンのスペックが上がり、回線速度も5Gとなり速くなったので、店舗をスマホでスキャンし、立体化して再現するための環境が整ってきた」とサービスを始めた背景を説明。その上でαU placeで、実店舗の良さや、売り場の素敵さを消費者へ伝えることに貢献したい」と話した。

 店内空間をスキャンするスマートフォンアプリ「αU place for BIZ」は年内にも提供を開始する予定。茂木グループリーダーは「店内の展示や商品が変わった場合でも、最初から撮り直すのではなく、変えたい区画をスキャンして部分的に更新することができる点が、他のスキャンアプリより優れている」と語る。また、店内の3Dデータは、周囲約10メートル四方のデータを移動するたびにスムーズに読み込む形式。店舗にアクセスした際、全データを読み込むといった形式ではないため、利用者のストレスを産まない点も特徴という。

 メタバース内に店舗を構える意義について、茂木グループリーダーは「実店舗が強い小売り企業にとって、一番の広告塔は店舗。ブランドの価値観伝達や旬な商品の打ち出しなど、ECではやりにくい部分もある。メタバースなら、言語化するのが難しい”雰囲気”や”空気感”を伝えることができるし、実店舗に来訪するきっかけにもなるのではないか」と説明する。

 例えば、アパレルであれば試着サービスの提供も考えられる。ただ、茂木グループリーダーは「最近の若年層は、自分と似た体型の店員をインスタグラムなどで見つけ、その人が合うサイズの服をネットで買う、というやり方をしているようだ。もちろん技術的には試着も可能だが、若年層にとっては不要かもしれない。本当に必要なサービスかどうかを見極めながら、順次追加していきたい」と話す。

 店内で展示する商品を購入したい場合は、通販サイトに遷移する必要がある。茂木グループリーダーは「理想はバーチャル店舗内に買い物かごを設けること。ただ、そこは利用企業の戦略に左右される部分なので、企業と議論しながら使いやすい仕組みを構築していきたい」とする。

 出店店舗の募集を開始しており、ECの売り上げにつながるかどうかを気にする企業もあるが、「店舗を知ってもらいたい」「来店へとつなげたい」といった目的で出店を検討する企業が多いという。特に海外在住者に店舗をアピールするためのインバウンド需要が大きい。そのため、多言語対応のほか、海外からのダウンロードを可能にすることを検討している。

 また、アパレルのほか、高級食材を販売する店舗や書店などが興味を示しているという。「例えば書店の場合、キュレーション的な要素が重要なので、視覚的にも空間的にもショーケース化しているわけで、それを丸ごとデジタル化できたら面白いのではないか」(茂木グループリーダー)。また、海外の店舗を日本から閲覧できるようにすることも視野に入れている。

 今後は、売り場に変更があった際などに、ユーザーへ通知する機能の導入を検討しているほか、インスタライブを活用したイベントの開催など、定期的にバーチャル店舗へ訪れてもらうためのきっかけづくりや、滞在時間を伸ばすための工夫をしていく。「店員は店内にどんなポップなどの掲示をすれば顧客が足を止めて商品を見てくれるか、ということを分かっている。バーチャル店舗においても、実店舗にポップを出すのと同じ感覚で販促できるようにしていきたい。実店舗と同じ販促を体験できるのは顧客にとってメリットが大きいし、店員もリアルと同じやり方でバーチャル店舗の顧客に情報を伝えられるようになる」(同)。

 最近取り組みが増えてきた、メタバースにおけるバーチャル店舗。単に店内や商品を立体化したというだけでは、「物珍しさ」だけで終わってしまう。継続して利用してもらうためには、操作性などユーザビリティーを向上させた上で、利用者の興味を引く仕掛けを定期的に行っていく必要がありそうだ。
 
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