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適格団体、高裁でも敗訴<インシップ広告差止訴訟> 「不実証広告規制」の威力明らかに

2024年 1月25日 12:00

 岡山の適格消費者団体が、インシップを相手取り起こしていた差止請求訴訟は昨年12月、広島高裁が請求を棄却した(1923号既報)。「いわゆる健康食品」の暗示訴求に対する景品表示法の優良誤認の該当性が争点。高裁で適格団体は、「不実証広告規制」の規定を持ち出し事業者に根拠を要求したが退けられた。判決は、消費者庁にのみ運用が許される「不実証広告規制」がいかに強力な権限であるかを示唆している。
 








 「前記の表示について、当庁は景表法第7条第2項の規定に基づき、表示の裏づけとなる合理的根拠を示す資料の提出を求めたところ、資料が提出された。しかし、当該資料はいずれも、表示の裏づけとなる合理的根拠を示すものとは認められなかった」。消費者庁が、不実証広告規制を用い、優良誤認事件を公表する際の定型文だ。

 規制は、景表法処分において、事業者に根拠の提出を求めるもの。本来、立証責任は行政側にあるが、立証に時間を要し、その間も被害拡大のおそれがあることを踏まえ、立証責任の転換を目的に導入された。

 処分に際し、消費者庁は、表示内容・媒体・期間に加え、「あたかも」という文言を用いて誇大と決めた表示を認定。「実際」とのかい離を指摘する。ただ、根拠を否定した理由の詳細は明らかにされない。

 これについて、同規定で景表法処分を受けた大正製薬の審査請求(22年)では、行政不服審査会が「理由が理解しやすく記載されているとは言い難い」「具体的記載が望まれる」と付言している。

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 消費者ネットおかやまは19年7月以降、インシップに複数回に渡り表示の是正を求めてきたが、いずれも「受取拒絶」で返送されたため、20年2月に提訴した。

 対象の広告は、インシップが展開するノコギリヤシエキス配合の健食の新聞広告(=画像㊤)。一審、岡山地裁で適格団体は、イラストや「何度もソワソワ」等の表示から消費者の多くが「頻尿」を改善することがあると認識する可能性が高く、「医薬品」との誤認を招き、景表法の優良誤認にあたると主張していた。想起される頻尿改善効果の根拠の脆弱性も指摘した。

 一方、インシップは、表示は抽象的内容で一般に許容される誇張の範囲にとどまると反論。仮に頻尿改善効果が想起されても、合理的根拠があり、表示と商品内容にかい離はないと主張した。

 岡山地裁は、広告は全体印象から「頻尿の男性に向けた商品との印象を受ける」と判断している。ただ、疾病名や症状、具体的な治療効果の記載はなく、体験談も抽象的内容にとどまると評価。加えて、「個人の感想です」、「健康食品のインシップ」等の打消し効果の有効性を認め、「医薬品との誤認を引き起こすおそれはない」と判断した。

 頻尿改善効果も双方が示した肯定・否定を含む前立腺肥大症の男性を対象にした複数の研究論文を評価。「肯定する研究報告も相当数みられ、「一定程度の改善効果が認められる可能性は否定しきれない」と判断。広告は「効果が得られる可能性があるとの印象を生じさせるものにとどまる」と、請求を棄却した。

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 そこで、消費者ネットおかやまが高裁で新たに持ち出したのが冒頭の「不実証広告規制」の規定だ。

 規定は、昨年の景表法改正議論でも複数の消費者団体が権限付与を求めたが、見送られており、適格団体に運用権限はない。昨年5月の法改正でも「相当な理由」がある場合、差止請求権の行使にあたり要請できる規定にとどめられている。事業者が応じるかも努力義務だ。

 だが、消費者ネットおかやまは規定の趣旨を前提に、頻尿改善効果の立証責任が事業者にあると指摘。インシップが示した配合原料の根拠資料では足りず、製品自体の根拠を提出していないことを理由に、根拠の未提出をもって「優良誤認」と推認できる不実証広告規制の「みなし規定」同様、優良誤認であるとした。

 インシップは、適格団体に根拠の要求権限はなく、企業機密である製品の根拠情報を「公開の場である裁判で提出しないことをもって優良誤認と推認するのは暴論」と反論。頻尿改善効果は実証されており、消費者の認識と内容に齟齬はないため、優良誤認にあたらないと主張した。

 高裁は、地裁判決を踏襲した上で、適格団体による差止訴訟で同様の規定はないと判断。「差止請求を行う場合の立証責任は、適格団体自身が負うとした。

 頻尿改善効果についても、合理的根拠の要件として定められている「客観的な実証」(試験・調査結果や専門家・専門家集団の見解、学術論文)と「実際の表示」が適切に対応していなくても「その指摘や根拠提出がないと主張するだけでは全く足りず、効果の否定を自ら立証すべきところ、特段の立証をしていない」として、優良誤認に該当しないと判示した。

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 適格団体敗訴の理由の一つは、争点となる誇大と決めた表示、いわゆる”あたかも認定”を「医薬品との誤認」とした戦術ミスなど景表法に関する専門的知識の不足が指摘される。インシップは医薬品でないことを立証すればよく、広告では繰り返し商品が健食であることを表示していた。そもそも医薬品的効果の標ぼうであれば、薬機法上の「未承認医薬品」の問題になる。「具体的にどのような表現が『あたかも頻尿を改善する効果』であるかを示す必要があった」(公取OB)との指摘がある。

 それ以上に、立証責任が適格団体側にあることも、敗訴の大きな要因だろう。別の関係者は、「適格団体は、差止請求でもう迂闊に景表法の優良誤認を指摘できない」と指摘する。

 一定のルールに基づき根拠資料をそろえる機能性表示食品であれば、適格団体の立証のハードルはさらに上がる。海外で医薬品として使われるノコギリヤシエキスの研究論文が根拠資料として認められていることもインシップに有利に働いた。

 一方で、判決は、根拠否定の理由を示さず、処分を下す「不実証広告規制」がいかに強力な権限で、行政による景表法執行を支える重要な権限であるかも示している。

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 判決を受け、消費者ネットおかやまは、「立証できるだけの証拠がなく、裁判所を納得させられなかった」とコメント。最高裁への上告を「検討中」としている。

 ただ、上告は、判決に憲法解釈の誤りや、裁判手続の規定違反などの理由が必要であり、仮に上告しても受理される可能性は少ないとみられる。



適格団体の責任追及へ、「消費者庁まがいで権限逸脱」

<訴訟の影響と今後>

 訴訟の影響と今後の対応をインシップ担当者に聞いた。

 ――判決の所感は。

 「高裁の指摘のとおり、適格消費者団体側の根拠資料が皆無であるにもかかわらず営業妨害を繰り返したと感じている」

 ――請求が認められた理由をどう考える。

 「原料メーカーと協議を重ね、きちんと製品を作っていた。存在するヒト試験データが完璧でなくても仕方ない面はある。とはいえ、データに基づきよい製品を売りたい。(今回でいえば)ポイントは成分量。根拠データと同量を配合していた。どこまで一致を求めるかはあるが、主張が認められた。少なくとも1%のものを100%かのように詐欺まがいのことは言わない」

 ――判決に納得しているか。

 「満足というか、当社の場合ここから動きだすのではないか」

 ――そのような気もする。

 「適格団体理事を含め責任を追及していくことを検討している」

 ――訴訟が多いイメージがある。

 「被害を受けた側が泣き寝入りするのはおかしい。本来はむしろ逆ではないか」

 ――企業イメージへの影響の懸念もある。

 「イメージが悪くなる理由が分からない。当社は主原料の採取地、配合量、配合濃度など『5W1H』の情報開示している。原価率が高く、知名度もないためテレビなど拡販に乗り出せないが、製品情報を詳細に示し、購入されるお客様は聡明だと思っている。理解してくれる方とつながることが重要だ」

 ――訴訟の影響は。

 「大手日刊紙一紙は、訴訟後に対象製品の掲載を断られ、地裁判決後に許可された。もう一紙は訴訟後も掲載可能だったが地裁判決後に断られ、今も止まっている。同梱チラシは、対象製品に限らず掲載を断られている」

 「風評被害も受けた。ツイッター等で消費者団体関係者から”(当社が)指摘を無視してひどい”など複数の投稿が行われている。どこまで追及するかはあるが、責任は取ってもらいたい」


 ――損害は。

 「新聞広告が新規獲得のメイン。複数回の出稿で月数千件(本紙推計・1~3000件程度)あった獲得がゼロになった」

 ――適格団体に対する思いは。

 「正義感を振りかざし、立証責任をこちらに求めるなど法律で与えられた権限を逸脱して消費者庁まがいのことをしている。当社の調べでは、消費者ネットおかやまの理事、職員の多くは生活協同組合の関係者が務めている。生協の外圧団体のような組織が経済活動を邪魔してよいのかという思いはある」

 ――打消し表示の文字の大きさなど一部広告内容を変更した。

 「大きく変えていない。ただ、誤解を生むのであれば改善するのが当社の姿勢だ。一部の穿った見方には対応しないが、法的観点より指摘が適切か見極めている」

 ――表現で留意されている点は。

 「DMでも病名は禁じている。サプリメントの役割・本質は補うことだ。だから医薬品と思われたくない」


「問題提起」が目的化

適格団体三連敗

 適格消費者団体による差止請求訴訟で敗訴が相次いでいる。定期契約条件の表示など最近の注目される訴訟を含め三連敗だ。いずれも、法の趣旨を逸脱した暴走が目立つ。

 定期契約条件の表示では、消費者被害防止ネットワーク東海(=Cネット東海がファビウスを対象にした訴訟で22年、最高裁の上告不受理により高裁判決が確定した。昨年8月には、京都消費者契約ネットワーク(=KCCN)がCRAVE ARKSに対して行った同様の訴訟も京都地裁が請求を棄却した(大阪高裁で控訴審が継続中)。

 いずれも指摘を受けた企業は、広告で契約条件を繰り返し表示している。Cネット東海の訴訟では、「契約内容に関心のある消費者なら、少なくとも1つは見る。この部分にすら全く目を通さない消費者がいるとすれば、もはや保護に値しない」とまで判示。KCCNの訴訟でも「すべて見落として認識する可能性は低い」と判決が下された。

 だが、判決後、Cネット東海は、「消費者保護に反する不当な判断」との見解を公表。そこに謝罪や反省はない。
 「特定商取引法における契約条件の表示は、義務表示の遵守で問題ないとされる。表示はしていても誤認があるという景表法上の問題にしたい」とKCCNは話す。コメントからは、義務表示ではなく、広告の印象で妥当性が変わる景表法で勝訴を得たいとの思いがにじむ。

 ただ、法の趣旨を超え、自らの信念に基づく「問題提起」が目的化するのは問題だ。事業者側は、訴訟で「レピュテーションに大きな損害を受ける」(ファビウス)。インシップの訴訟でも、自らに「不実証広告規制」の権限がないことを知りながら、これを法廷で主張し敗訴しても社会的ダメージは少ない。団体の「適格性」を慎重に判断する必要があるのではないか。
 
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