小売の本質に目を向けよ
これからの小売業は、複数のチャネルをまたいで情報や商品を得ようとする消費者の実像を把握しない限り、生き残っていくのが難しい局面を迎えている。とくに実店舗を持たない通販企業にとっては、来るべき「オムニチャネル時代」の立ち位置や、小売りとしての魅力、存在感をどう発揮するかは、避けては通れない課題である。
いまや、ネットで見つけた商品を実店舗で購入したり、リアル店舗で確認してからネットで買うといった行為は当たり前になった。スマートフォンやタブレット端末の普及で、いつでもネットに接続できる環境が整ったこともあり、消費者の情報収集の仕方や購買行動は多様化している。そうした中で、昨年辺りから耳にする機会が増えたのが「O2O(オンラインツーオフライン)」や「オムニチャネル」というキーワードだ。
「O2O」はネットを介して来店促進を図る施策を指すケースが多く、「オムニチャネル」については、例えば複数の販売チャネルを持つことを「マルチチャネル」、ネットで注文した商品を店頭で受け取れることなどを「クロスチャネル」とすると、「オムニチャネル」はさらに進んで、商品や顧客のデータ管理がチャネルをまたいでシームレスにできている状態と言える。
従来、実店舗では商品軸でしか蓄積していなかったデータベースを顧客軸に転換し、店頭とネットの会員情報などを一元化することで、より顧客の実像に近い購買履歴が把握でき、消費者一人ひとりに効率的な販促策が打てるようになる。こうした考え方はセブン&アイ・ホールディングスやイオンなどのGMS、三越伊勢丹ホールディングスやJフロントリテイリング、高島屋といった百貨店勢など流通大手を中心に広がりつつあり、すでに人事・組織面を含めた改革に着手している。
1月23日付けでセブン&アイ・ホールディングス子会社によるニッセンホールディングス株式の公開買い付けが成立したが、ニッセン子会社化の理由のひとつが「オムニチャネル化」の補完だったように、複数チャネルを回遊して買い物を楽しむ消費者の実像をとらえてLTV(顧客生涯価値)を向上させるには企業単体の取り組みだけではなく、提携先やグループ企業を巻き込んで顧客を囲い込むことが主流となることも予想され、通販ノウハウはもちろん、顧客情報の活用にも長けた通販企業が異業種から熱い視線を浴びていることは間違いない。
ただし、通販企業は「オムニチャネル」という言葉に過度に踊らされず、腰を据えて小売業としての本質的な価値に目を向けるべきだ。顧客に選ばれ続ける売り場のあり方を描くとき、その選択肢のひとつが異業種との提携となる場合もあれば、自社のサービスに一層の磨きをかけ、通販チャネルだけで生き残る決意と努力も必要になる。昨年までは流行り言葉としてのオムニチャネルだったが、今年は「体現するオムニチャネル」へと、その質が変わっていくだろう。通販企業はいま一度、自社の強みや小売りとしての中長期的なビジョンを明確にする必要があるだろう。
そのほかの注目記事FEATURED ARTICLE OTHER
いまや、ネットで見つけた商品を実店舗で購入したり、リアル店舗で確認してからネットで買うといった行為は当たり前になった。スマートフォンやタブレット端末の普及で、いつでもネットに接続できる環境が整ったこともあり、消費者の情報収集の仕方や購買行動は多様化している。そうした中で、昨年辺りから耳にする機会が増えたのが「O2O(オンラインツーオフライン)」や「オムニチャネル」というキーワードだ。
「O2O」はネットを介して来店促進を図る施策を指すケースが多く、「オムニチャネル」については、例えば複数の販売チャネルを持つことを「マルチチャネル」、ネットで注文した商品を店頭で受け取れることなどを「クロスチャネル」とすると、「オムニチャネル」はさらに進んで、商品や顧客のデータ管理がチャネルをまたいでシームレスにできている状態と言える。
従来、実店舗では商品軸でしか蓄積していなかったデータベースを顧客軸に転換し、店頭とネットの会員情報などを一元化することで、より顧客の実像に近い購買履歴が把握でき、消費者一人ひとりに効率的な販促策が打てるようになる。こうした考え方はセブン&アイ・ホールディングスやイオンなどのGMS、三越伊勢丹ホールディングスやJフロントリテイリング、高島屋といった百貨店勢など流通大手を中心に広がりつつあり、すでに人事・組織面を含めた改革に着手している。
1月23日付けでセブン&アイ・ホールディングス子会社によるニッセンホールディングス株式の公開買い付けが成立したが、ニッセン子会社化の理由のひとつが「オムニチャネル化」の補完だったように、複数チャネルを回遊して買い物を楽しむ消費者の実像をとらえてLTV(顧客生涯価値)を向上させるには企業単体の取り組みだけではなく、提携先やグループ企業を巻き込んで顧客を囲い込むことが主流となることも予想され、通販ノウハウはもちろん、顧客情報の活用にも長けた通販企業が異業種から熱い視線を浴びていることは間違いない。
ただし、通販企業は「オムニチャネル」という言葉に過度に踊らされず、腰を据えて小売業としての本質的な価値に目を向けるべきだ。顧客に選ばれ続ける売り場のあり方を描くとき、その選択肢のひとつが異業種との提携となる場合もあれば、自社のサービスに一層の磨きをかけ、通販チャネルだけで生き残る決意と努力も必要になる。昨年までは流行り言葉としてのオムニチャネルだったが、今年は「体現するオムニチャネル」へと、その質が変わっていくだろう。通販企業はいま一度、自社の強みや小売りとしての中長期的なビジョンを明確にする必要があるだろう。