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TOPに聞く・オークローンマーケティング ハリー・A・ヒル社長 「新商品なし」でも25%増収に  

2010年 7月28日 19:09

171.jpg 不況で通販各社が苦戦する中、オークローンマーケティング(OLM)の2010年3月期の売上高は前年比2・5割増の約460億円、経常利益は3割アップの約75億円と高い成長力を示した。OLMの好調要因とは何なのか。ハリー・A・ヒル社長に前期と振り返りと今期の戦略、昨年4月に資本提携したNTTドコモとの連携の進捗状況などについて聞いた。(聞き手は本紙編集長・鹿野利幸)











不況はチャンスと通販枠を拡充


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――2010年3月期は増収増益で売上高、利益とも過去最高額だった。「ビリーズブートキャンプ」で急激な成長を遂げた08年度の業績をも超えた。好調要因は何か。
 「まずテレビ通販のメディア枠を増やしたことだ。不況は当社にとってはチャンスだと考え、前期はこれまでより15%くらい枠を増やした。不況で外出を控え、在宅率が高まると考えたからだ。するとテレビの視聴も増し、自宅で過ごす時間で学習や運動、ダイエットなど自分に投資する人が増えるだろうと。実際、その通りで拡充したテレビ通販を中心に業績を伸ばすことができた」

――前期のヒット商品は何だったのか。
 「面白いことなのだが、前期は目立った新商品はなかった。当社は主に米国で商品を調達するが、この年は米国は元気がなく、新商品が少なかったことなどが理由だ。では業績をけん引したものは何だったのかと言うと、継続的に販売している既存の主力商品群だ。『コアリズム』は一昨年に少し売れすぎ若干、落ちたが、ほぼすべての商品が前年比で増収となった。例えば『トゥルースリーパー』(低反発マットレス)と『ヒルズダイエット』(ダイエット用食品)の売上高は前年比で30%増。『レッグマジックX』(運動器具)は20%アップ。すごいのは『トゥルースリーパー』は販売開始から7年目。『ヒルズダイエット』は4年目だが、前期が過去最高の売り上げだったこと。このほか『マジックブレット』(フードプロセッサー)も5年目で1番の売り上げとなった」

――通販枠を増やしたからか。
 「それもあるが、それだけではない。当社は特定のヒット商品に依存するビジネスではなく、安定的な売り上げを上げられるブランド(※商材別に『ショップジャパン』『ヒルズコレクション』『エクサボディ』の3ブランドを展開中)とロングセラー商品をこの数年間、作り上げてきた。また、前期は映像製作、映像表現のレベルアップやアフターサービスの強化などの基礎となる能力の強化に注力した。これにより、商品に対するロイヤルティと顧客満足度が上がり、リピート率が上がったからだと思う」

――映像製作のレベルアップとは。
 「細かいことの積み重ねなので具体的には言いにくいが、お客様に映像で何を訴えたいかだ。単に商品の特徴を伝えるよりも、『商品を使ってどう変わるか』を重視してきた。そういった意味でわかりやすさや訴求力を高めるべく、昨年は映像に積極的に愛用者のご意見を取り入れた。例えば昨年は『トゥルースリーパー』の愛用者であるタレントのピーターさんに出演して頂き、非常にお客様からの反響が良くなった。愛用者は以前から出演させているが、ここ数年は海外の愛用者ではなく、日本人の愛用者を登場させる回数を圧倒的に増やしてきた。このあたりもレスポンスアップに貢献していると思う」

――アフターサービスの強化とは。
 「例えば『ヒルズダイエット』では昨年7月ごろに、通常のコールセンターとは別に、定期購入者であれば無料で栄養士と相談でき、ダイエットに関するアドバイスが受けられる専用ダイヤルを設置した。『ヒルズダイエット』でダイエットを開始するに当たって『どういう風にやればよいのか』『何に気をつけねばいけないのか』『どう商品を使えば効果的か』などを当社が依頼した栄養士約20人が相談を受けるものだ。『トゥルースリーパー』では一昨年からだが、購入者全員により良い睡眠のための『スリープマニュアル』を配布している。『こういう姿勢で寝たらより効果的ですよ』というようなものだ。

 販売したら終わりではなく、『ダイエット』や『熟睡』などお客様が商品で実現したい目的が達成できるように支援した。実際、『ヒルズダイエット』は我々の行動支援で成功率が高まっているようだ。『トゥルースリーパー』はお客様の満足度が高まり、低反発の効果が弱くなる3年後に、リピートで購入頂けるお客様が全体の30%と非常に多い。お客様が目標を達成できれば、当社へのロイヤルティは高まる。そうなれば必然、リピート率も良くなるということだ」

――通販以外のチャネルはどうか。
「リテール(小売店舗への商品卸)が伸びている。数年前に一旦、卸先も絞って、再スタートしたが、去年の年末あたりから卸先を一気に増やした。ブランドによってリテールの戦略変えているが『ヒルズコレクション』は卸展開を強化して取引先は前年の3倍。『ショップジャパン』でも2倍くらいは増えたと思う。先ほど映像製作の話をしたが、基本的には店舗でもデジタルサイネージで同じ映像を売り場で流してもらっている。良い映像はテレビで流しても店舗で流しても反応は良い。ここは今後も強化する」

ドコモとの連携進捗状況は?

――昨年4月にNTTドコモと資本提携を結んでから1年が経過した。業務連携の進捗は。
 「前期の増収増益にどれだけドコモとの相乗効果が貢献したのかといえば、ほぼゼロだ。資本提携後、すぐには具体的な連携は難しいため、この1年はお互いについて勉強し最近になって動き始めてきた。マクロ的に言うと、当社のモバイル経由の売上高と利益が最近、すごく伸び始めてきた。これまで当社のモバイル経由の売上高は全体の4%(ネット売り上げは全体の3割程度)だったが、この数カ月間は毎月、1~2%くらいずつ全体の売り上げに占めるモバイル通販のシェアを伸ばしている。特に『ヒルズダイエット』や『レッグマジックX』などはモバイル経由の伸びが良い」

――何がモバイル通販を押し上げているのか。
 「お客様がモバイルで注文しやすくなったことが大きいと思う。前期はテレビ通販枠を増やしたが、テレビを見たお客様が昨年に開設したドコモのiモード内の3つの公式サイト(『ヒルズコレクション』は昨年2月、『ショップジャパン』『エクサボディ』は昨年9月に開設)で注文できたり、モバイルが使いやすくなったと思う。他には今年4月から『ドコモポイント』(賞品などに交換できるドコモの独自ポイント)の対応を開始したが、良い反応があった。当社のモバイルサイトで商品を購入頂いたお客様に商品購入額100円に付き、1ポイントを付与している。またポイント付与だけでなく、『ドコモポイント』の交換対象商品としてモップやフードプロセッサーなど3商品を提供したが、ドコモがびっくりするくらい当社の商品の交換が多く手ごたえを感じた。

 また、『ドコモ動画』でタレントのいとうあさこさん出演の『ヒルズダイエット』のショートムービーやスポットCMを流した。非常に話題になり、アクセスもよく『ヒルズダイエット』のモバイル通販売上高だけでなく、ネット販売全体の売上高を押し上げている。現状(今第1四半期=4~6月)のネット販売売上高は前年同期比20%増となった。ドコモと様々な連携を進めることで、それぞれ単体の施策というよりも、よりクロスメディア展開が積極化し、お客様にとって買いやすくなったと思う。ほかにドコモとの連携で言うと、ドコモの決済サービス『iD』はすでに開始した。『DCMX』も一部のブランドで導入し始めたところだが、本格的には来年度からになる。今、様々なプロジェクトを進めている最中だ」

来年4月に基幹システムを刷新

――前期は好調だったが、今期はどうか。
 「2011年3月期は前期比で10%程度の増収増益を目標としているが、第1四半期は予算を達成でき、良いスタートをきれた。今期も通販枠は多少、増やすつもりだ」

――今期は大型の新商品はあるのか。
 「米国も元気を取り戻し、面白い商品がいくつか出てきた。例えば犬のしつけ用DVD『パーフェクトドッグ』。始めたばかりだが、レスポンスはいい。また、7月中旬からテスト販売を始めたスプレー式ファンデーション『ルミネスエアー』も期待している。前期も好調だった『レッグマジックX』だが、5月のイベントで、新色(白とピンク)を発表したのだが、反応がよく、売り上げも伸びている。このほか、本来は来年度の主力商品として考えていた『レッグマジックX』の後継機『レッグマジックサークル』だが、まだインフォマーシャルは未放映で納期も2カ月後になるにも関わらず、ネット注文が結構入っている。『アブサークルプロ』(運動器具)も来期から本格販売する商品だが、非常に反応はよい」

――今期は年商500億円の大台に乗りそうだ。業容拡大に備えたバックヤード強化などの投資は考えているのか。
 「新たな配送センターの立ち上げなどを考えているが、決定しているのは基幹システムの刷新だ。来年4月からのカットオーバーに向けて、現状、構築中だ。現状のシステムでは年商規模では650億円くらいが限界だ。システムの刷新で現状の3~4倍の売上規模になっても十分に対応できる。また、お客様が電話、ネット、モバイル、店舗などどこで商品を購入されてもフォローできるようになる。こうした投資は常に先を見ながら実施してきている」

――今後の通販市場についてはどう見るか。
 「通販はどんどん人々の生活に入ってきている。するとより伝統的なブランドも通販に参入してくるだろう。大分、垣根はなくなったと思うが、やはりまだ通販会社は一般の会社に比べ、ランクが低く見られがちだ。だが、様々な会社やブランドが参入することで通販のイメージはよくなるはずだ。ただ、逆にこれからの通販市場はより良い商品、強いブランドメッセージがない企業は、競争に勝てなくなる。当社としては非常に面白い状況だと考えている」
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