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化粧品特許侵害訴訟の行方② ファンケルVSDHC、他人任せの製品開発、スピード重視、リスク生む

2012年 6月 7日 10:14

通販業界を代表する企業に育ちながら、知的財産に対する甘い認識を露呈させたディーエイチシー(DHC=本社・東京都港区、吉田嘉明会長)。知財軽視のスタンスを生んだ背景に何があるのか。

 化粧品業界は特許が多い。画期的な成分の開発が容易でない中、各社、成分・技術の組み合わせで独自機能を持つ製品を開発。差別化を図っているためだ。特許庁によると、その特許は、「機能性を持つ『独自成分の特許』と、ある成分の機能をよりよく発揮するための『製剤設計に関する特許』に大別される」という。今回、特許侵害が認められたクレンジングに関わる特許は後者になる。

 ではいかなる時に特許侵害は起こるのか。あるOEM事業者が話す。

 「特許侵害の多くは、ある製品のベースとなる処方に、何らかの成分を組み合わせた時に起こりやすい」。特にその状況に見舞われるのが、製造を外部に委託する販売者だ。処方開発の段階で製造側は当然、処方のベースとなる技術の"権利フリー"を確認する。が、「販売者は製造側の提案したものの良し悪しを判断するだけ。納得がいかなければ"ビタミンCを組み合わせてくれ""○○をもっと入れてくれ"と指摘する。だが、それらの組み合わせに誰の権利がひもづいているか分からず、製造側からは処方の詳細も開示されないので調べようがない。複数回のやり取りで処方は決まるので、どちらに責任の所在があるのか明確にするのも難しい」(同)。そこに落とし穴が存在する。

 このため、製造側は販売者と結ぶ契約で自らの責任を回避する。通常、「製造側に責任はない。ただ、販売側に責任があるとも言わず、問題が起きた際はお互い協力して解決しよう」(同)といったニュアンスの取り交わしを行うという。

 ただ、一義的にその責任は販売者にあるといえる。自社ブランドでない製品に製造側が情熱を傾けることは難しく、ブランドが傷ついて最も困る者は誰かを考えると、「DHCさんあなたですよね、ということになる」(同)ためだ。それだけに、リスク管理には企業の意志が強く反映される。「ブランドを持つ者が情熱を注ぎ、本気になれば(特許侵害は)防げる」(同)という見方が一般的だ。

 では、DHCはどうだったのか。かつて製造の一部を請け負ったことのあるOEM事業者は「製造部門を持たないと基本的に製品開発も人任せになってしまう。そうなると開発にひもづく知財にも疎くなる」と話す。

 DHCは2005年以降、自社工場を保有し始めた。だが、今なお製造の大半を外部の手に委ねるファブレス(工場を持たないこと)だ。

 ただ、ファブレスが悪い、というわけではない。既存大手でもP&Gが日本国内でファブレスで展開しているし、急成長を遂げたドクターシーラボも業界で有数のファブレス企業。だが、株主に支えられる上場企業でもあるため、製造委託を事業上のリスクと捉え、管理体制を敷く明確な意志は「有価証券報告書」などにも示されている。DHCの場合「(非上場のため)その必要に迫られない」(同)という状況はあっただろう。

 さらにリスクを高めたのが、製品開発のスピードだ。「とにかく製品開発を急ぎすぎ。業界は各社特許網を張り巡らせており、ほんの少し大股で歩こうとしたらすぐ特許にぶつかる。それを調べるのはかなりタフな仕事だが、調べていられない」(同)。その速さは同業他社をして「CoQ10にしろプラチナナノコロイドにしろ、新しいものを入れるのがとにかく早い。その節操のなさがある意味強み」(通販大手幹部)と捉えられるもの。前出のOEM事業者は「大手の多くは企画から発売まで1年半から2年を要する。慎重すぎることの良し悪しはあるかもしれないが、DHCは半年とか、印象としては他社の倍くらい」と話す。

 ただ、早ければ当然、リスクになる。それでも請け負うOEM事業者はいるが「無理が祟るので本来のパフォーマンスが発揮できず、知財調査、安全確認が疎かになる」(同)という。

 急成長を果たした企業にはスピード感のある企業も少なくない。前出のシーラボもそうだ。だが、それはリスク管理とのバランスの上に成り立っているといえる。DHCが製造上のリスクを疎かにし、売り上げ至上主義に走ったことが今回の結果を招いたとすれば、その企業姿勢は問題と言わざるを得ない。
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