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【ファブリックトウキョウ D2Cの成功要因と次の一手㊤】 旧態依然とした業界にメス、カテゴリー絞って品質担保

2019年10月10日 13:55

FABRIC TOKYO(ファブリックトウキョウ)は、初回のみ店舗で採寸し、2回目以降は簡単にオーダースーツやシャツなどをウェブ注文できるD2Cブランド「ファブリックトウキョウ」が好評だ。今年5月には丸井と資本業務提携を結び、実店舗展開も加速している。足もとでは同ブランドでサブスクリプションサービスも開始。「物販にとどまらず、より付加価値の高い小売りのサービス化に挑む」と語る同社の森雄一郎CEO(=顔写真)に、D2Cの事業環境や取り組み状況を聞いた。
 
 ――米国ではD2Cブランドでユニコーン企業が誕生しているが、事業環境の違いは。

 「まずは資金力が違う。日本ではこれまでメディアサイトやC2C、プラットフォーム事業にベンチャーキャピタルや投資家が出資することが多く、大きく資金調達できる物作り企業はなかった。また、日本では起業家や経営者、幹部クラスの人材の流動性が低く、優秀な人材が物作りの会社に入ってこなかった。いまは少し変わってきていて、一定の認知度と規模感のある当社には、大きな企業の転職組も注目してくれている。ただ、起業直後のベンチャーが優秀な人材を確保できるかというと難しい」

 ――環境の変化は。

 「実店舗の出店に際して日本の百貨店では、出店料は売上歩率で徴収するケースが多いが、丸井さんのような有力小売り企業が賃貸テナント型に転換したことは大きな変化だ。また、最近は日本の資金調達も数億円規模では驚かない水準になってきた。ベンチャーマーケットが非常に活況なため、ベンチャー企業に流れ込む投資がこの数年で倍増している」

 ――投資先は。

 「インターネットセクターだけでなく、リアルの場が絡むようなベンチャー企業にも資金が流れ始めている。足もとではインターネットで完結するビジネスではなく、OMOと呼ばれるリアルなものをオンラインとマージ(併合)して新しい事業モデルを作ろうという機運が盛り上がりつつある。現状、GDPの6%くらいが小売り産業で、そのうち約10%がECチャネルということは、インターネットをメインにした小売りはGDPの0・6%くらいにしかなっていない」

 「いま何が起こっているかというと、DGPの大半を占める部分にもインターネットやデジタルドリブンなやり方が入り始めていて、この部分はインターネット業界の人たちだけが取り組むのではなく、既存産業の人たちも一緒になって改革していく必要があり、そこにいち早く動き始めたのが丸井さんだ」

 ――D2Cブランドが次々と誕生しているが、成功に不可欠な要素は。

 「4つあって、ひとつはプロダクトが差別化可能かどうかで、これが大前提になる。消費者に選んでもらえ、メリットがある商品かどうかだ。ふたつ目はLTVがしっかり出せるプロダクトであるかが利益ベースでは大事になる。売って終わりではなく、継続して利用してもらえるとか、1回の利益が大きいなどで、LTVを確保できることが重要だ」

 「3つ目は、リプレイスすべきモンスター企業がいるかどうか。ライバル企業が数百億円、数千億円の売り上げ規模を持っている場合、大企業であるが故に卸に頼っていたり、マス広告だけに投資していてデジタルを活用できていなかったり、デジタル領域に長けた人材の採用が進んでいない企業がシェアを持っていれば、リプレイスするチャンスがある」

 ――最後の要素は。

 「4つ目は創業メンバーがなぜその事業を行うか、ストーリーがあるといい。また、ストーリーだけでなく、D2Cはパラメーター(変数値)が大きい事業モデルで難易度が高いため、勢いだけでなく、人材やサプライチェーンのマネジメントなどさまざまな要素が経営に求められる。そうした部分をしっかり管理できる経営層かどうかも大事だ」

 ――利用者がITリテラシーの高い人だけで終わらせないようにするには。

 「最初のプロダクトは作れても、顧客数が5倍、10倍と増えたときに、それに耐えられるオペレーションを構築できているかが問われる」

 ――ゾゾもPBで失敗した。

 「ゾゾさんは質を担保できるようになる前に広げ過ぎたことが敗因として大きいのではないか。ゾゾさんとしても初めての物作りだったわけで、第1弾のデニムパンツとTシャツの時点でしっかりノウハウを貯め、サプライチェーンまわりが安定してから横展開すれば良かった」

 ――御社も意識的に商品カテゴリーを広げていない。

 「『ファブリックトウキョウ』はスーツとシャツに特化しているし、新たに始めるブランド『スタンプ』では、当面はデニムパンツに徹して認知度を高める戦略をとるのも、品質面で信頼を獲得し、しっかりとノウハウを貯める必要があるからだ」(つづく)


 
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