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返却予測のAI活用で成果【エアークローゼットの天沼社長に聞く サブスク事業の現状と展望】 遠隔スタイリングも開始

2020年 7月23日 13:00

 前号に引き続き、エアークローゼットの天沼聰社長兼CEOにサブスクビジネスの現状や展望などを聞いた。

 ――既存客に離脱されない工夫などは。

 「考え方の基本は顧客体験が中心になる。加えて、マーケティングチームであれば新規会員のKPIをしっかり追うことが大事で、退会率は少なくとも週次で見る必要があり、数字の動きに組織が柔軟に対応できる準備を常にしておく。退会理由を明確に仮説として持つことも大事で、それがないと対策が打てない。当社では実際のお客様や退会された方にグループインタビューなどを通じて頻繁に意見を聞いている」

 ――スタイリストの品質を維持・向上させるための取り組みは。

 「お客様から各スタイリングに対して評価を頂いていて、評価をデータとして蓄積することでさまざまな軸で見ることができる。例えば、毎月スタイリストアワードを開催し、評価や販売率などの高いスタイリストを表彰している。アワードを通じてスタイリングのコツを共有したり、なかなか成績につながらないスタイリストには当社のスタイリングメンバーが個別指導してスコアの底上げを図っている」

 ――研修などは。

 「新規契約するスタイリストには当社の研修制度を受けてもらっている。また、当社が発起人となって日本パーソナルスタイリング振興協会を設立させて頂いた。協会には文化服装学院やモード学園、バンタンといった教育機関にも参画してもらい、パーソナルスタイリングそのものを振興するのと、知識をまとめるという観点からパーソナルスタイリングの測定試験を作った。当社スタイリストにも試験を受けてもらい、経験だけでなく知識としても身につけてもらうことを含め、教育体制を整えている」

 ――AI技術活用の現状は。

 「顧客それぞれに何が合うかはスタイリストの感性の方が上回っており、基本的にはAIでサポートしている感じだ。スタイリストのサポートにも2種類あり、ひとつはデータを活用して検索を最適化する考え方で、たくさんある商品の中から今のシーズンに必要ない商品や、過去にそのお客様がレンタルした商品に似通った洋服を省いたりする」

 「ふたつ目がAIの活用になるが、今ある商品の中から顧客ごとに何が似合いそうかを算出する技術を持っていて、AIが『これが似合うと思う』ということをスタイリストに提示できる。例えば、1万点の商品がある場合、1番から1万番までの商品でその人に似合う確率を出せるが、そのうちの上位をおすすめとしてスタイリストに表示できる。それ以外にもAIはいろいろな活用法があり、お客様とスタイリストのマッチング度合いも大事なため、そこにもAIを使う」

 ――AIの活用領域も広がっている。

 「当社のレンタルサービスは借り放題のサブスクリプションで、お客様から今日、何着の洋服が返ってくるのか分からなければ、倉庫の人員やクリーニングの担当者を何人配置すればいいかも分からず、コスト構造に大きく響いてしまう。当社では返却予測にもAIが動いていて、今は予測値からほぼ外さなくなっている」

 ――優先的に取り組むべき課題は。

 「主力の『エアークローゼット』はこれまでの事業構造を作るフェーズから、より多くのお客様に使ってもらうフェーズに切り替わってきている。既存会員により満足して頂けるようにサービス品質を高めていくほか、新規開拓に向けてはサービスを知って試してもらう機会を増やす」

 「一方、ファッション業界は割とコラボが生まれやすく、さまざまな企業と相互送客などマーケティング面のコラボも含めて取り組みたい。コロナ禍で残ってしまった在庫活用の問い合わせが増えており、当社が取引先の在庫を活用してシェアリングするなど、直接協力できることも多いと感じる」


 ――コロナ禍で取り組んだことは。

 「『エアークローゼット』はこれまで必ずコーディネートした洋服を届けていたが、オンライン会議でボトムスよりもトップスの需要が高まったため、トップス3着でも届けられるようにした。また、利用者が1カ月ごとに解約できる仕組みを設けているが、コロナの影響が大きくなってきたタイミングで、解約ではなく一時的な休会に対応し、その間は届けた服もそのまま着用できるようにした」

 「あとはスタイリストが活躍するリアルイベントがなくなったことで、センスの良いスタイリストが従来以上にオンラインの仕事に就ける状況となった。そこで、スタイリストが『Zoom』を通じてお客様にスタイリング提案を行う遠隔パーソナルスタイリングサービス『エアクロトーク』を急きょ始めた」


 ――ウィズ・アフターコロナ時代のサービスのあり方は。

 「これからはリアルとデジタルのハイブリッドで体験設計をしていくべきだ。実店舗もECも、レンタルも販売もいずれも良さがある。それらはあくまで”手段”で、大事なのはお客様がそのとき本当に求めていることを読み解き、適切な形で提供できるようにすることだ。今後、ライフスタイルや価値観は多様性が求められるし、ファッションもより一層多様性が求められるため、パーソナライゼーションを追求していくことが重要だ。サービス提供側が一人ひとりのお客様に柔軟に変容し続けることにつきる」(おわり)


 
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