有店舗小売のネット販売戦略に注目
本紙姉妹紙の「月刊ネット販売」が実施した2010年度のネット販売売上高調査によると、上位300位のネット販売売上高合計はおよそ1兆9400億円で前回調査から約15%伸びた(今月25日発売の月刊ネット販売10月号にランキング表を掲載)。この調査結果を見て印象に残ったことの1つは、EC市場における有店舗小売業の存在感の増大だ。2010年度は不況や震災の影響で伸び悩んだネット販売実施企業は少なくないが、イトーヨーカ堂やユニクロ、丸井、ヨドバシカメラなど多くの有店舗小売業者が安定的にネット販売の売上規模を拡大させている。
無論、世間的にも知名度が高く、「小売り」としての元々のポテンシャルもそもそも高いわけで、ネット販売でも売り上げを伸ばすことは当然と言えなくもない。実際、ネット販売の黎明期から「クリック&モルタル」という言葉に代表されるように、有店舗小売業者はネット販売においても大本命の有力プレイヤーと目されてきた。しかし、その実、前評判ほどの実力が発揮されることはなく、長らく「ネット上における小売り」の主役はアマゾンや楽天市場に代表されるネット販売専業者、仮想モール運営者であった。
「ネット上の小売り」においては、これら新興企業の後塵を拝す結果となっていた1つの理由として考えられるのは、有店舗小売業者特有のネットに対するスタンスだ。結局のところ、彼らにとってネットは、あくまで本業である実店舗ビジネスの「広告宣伝」であり、通販サイトや通販戦略に必要な経費は、来店促進として出稿する新聞折込チラシやテレビCMと同じ捉え方だった。「クリック&モルタル」などと言葉では言ってはいても、実際のところ、店舗を中心に据えた長年のビジネスやそれに伴う考え方から、そうやすやすと抜けられるものではなく、「その先」まで考えが及ばないでいた事業者が多かったように思われる。
それがここにきて、ネット販売市場において有店舗小売業者が存在感を見せ始めたのは時代の要求はもちろんのこと、これまでの手痛い失敗や上層部と現場との軋轢を乗り越えようやく有店舗小売業者としてのネットの活用の仕方が分かってきたためだろう。あるGMSは通販サイトでの実績データを活用し、売れ筋を実店舗でも専用コーナーを設けて販売し店舗においても売れ筋に。有力セレクトショップでは戦略商品をネットで先行予約販売し実店舗での本格展開を前に仕入れ量などを見極めるための重要な指標として活用し効果を上げているようだ。あるアパレル企業は通販サイトで気になる商品を顧客に選んでもらい、当該商品を指定する実店舗に取り寄せて実物を店舗で確認できる仕組みを始め、好評を得ているという。
ネット上の小売りでは独走態勢にある「アマゾンの天下の揺るがない」という見方もあるが、本来、小売りとして強力な力を持った有店舗小売業各社がネットを使いこなし始め、既存の通販企業もまた新たな次の一手を模索し始め、成果を上げ始めている。今後、ネット販売市場の勢力図がどのように変化していくのか。まだまだ目が離せそうにない。
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無論、世間的にも知名度が高く、「小売り」としての元々のポテンシャルもそもそも高いわけで、ネット販売でも売り上げを伸ばすことは当然と言えなくもない。実際、ネット販売の黎明期から「クリック&モルタル」という言葉に代表されるように、有店舗小売業者はネット販売においても大本命の有力プレイヤーと目されてきた。しかし、その実、前評判ほどの実力が発揮されることはなく、長らく「ネット上における小売り」の主役はアマゾンや楽天市場に代表されるネット販売専業者、仮想モール運営者であった。
「ネット上の小売り」においては、これら新興企業の後塵を拝す結果となっていた1つの理由として考えられるのは、有店舗小売業者特有のネットに対するスタンスだ。結局のところ、彼らにとってネットは、あくまで本業である実店舗ビジネスの「広告宣伝」であり、通販サイトや通販戦略に必要な経費は、来店促進として出稿する新聞折込チラシやテレビCMと同じ捉え方だった。「クリック&モルタル」などと言葉では言ってはいても、実際のところ、店舗を中心に据えた長年のビジネスやそれに伴う考え方から、そうやすやすと抜けられるものではなく、「その先」まで考えが及ばないでいた事業者が多かったように思われる。
それがここにきて、ネット販売市場において有店舗小売業者が存在感を見せ始めたのは時代の要求はもちろんのこと、これまでの手痛い失敗や上層部と現場との軋轢を乗り越えようやく有店舗小売業者としてのネットの活用の仕方が分かってきたためだろう。あるGMSは通販サイトでの実績データを活用し、売れ筋を実店舗でも専用コーナーを設けて販売し店舗においても売れ筋に。有力セレクトショップでは戦略商品をネットで先行予約販売し実店舗での本格展開を前に仕入れ量などを見極めるための重要な指標として活用し効果を上げているようだ。あるアパレル企業は通販サイトで気になる商品を顧客に選んでもらい、当該商品を指定する実店舗に取り寄せて実物を店舗で確認できる仕組みを始め、好評を得ているという。
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