産業沈滞招く法執行は慎め

2009年11月20日 16:34

2009年11月20日 16:34

 おにぎりの包装袋に貼付したシールに"国産鶏肉使用"と表示していたにもかかわらず、実際にはブラジル産の鶏肉を使用していたとして、消費者庁は11月10日、ファミリーマートに対し「景品表示法」違反(優良誤認)で措置命令を出した。消費者庁設置後初の「景表法」による行政処分となるものだが、実績作りを急いだ観が強く、その実質的な効果にも疑問が残る。

 今回の事件は、今年6月にファミリーマートが独自に行った調査で判明した。これは、度重なる食品偽装表示の問題を受け同社が自主的に行ったもので、おにぎりに使用する鶏肉の部位を変更した際、米飯製造業者がブラジル産の鶏肉に切り替えていたが、この確認を怠っていたことが誤表示の主因だ。ファミリーマートでは、事件発覚直後に農林水産省に事実を報告し商品の販売を中止、さらに自社サイトでも告知を行うなどの措置を講じている。確認を怠り誤表示を行ったという時点でファミリーマートに落ち度があるのは明らかだが、その後は、誤表示による消費者被害を最小限に抑えるための対応を行ったと言っていいだろう。

 事業者側が誤表示に関する報告を行政側に行い、顧客への告知や返金・返品を完了した後に「景表法」違反で処分されるという事例は、これまでに幾つもあった。消費者庁がファミリーマート対して行った措置命令も、同様に対応を完了した後に処分を下したものだが、この手法は、公正取引委員会時代から事業者側が違和感を覚えていたものだ。

 過去に遡って違反事業者を処分すること自体に問題はないにせよ、消費者被害の抑制に自主的に取り組んだ事業者側とすれば、行政処分という追い討ちをかけられることは相当なダメージになる。行政側では一罰百戒のつもりかも知れない。だが、こうした構図は事業者側の萎縮、或いは誤表示の事実は隠した方が得という歪んだ考え方を招く懸念があり、ひいては消費者被害を拡大させることにもなりかねない。消費者庁も、消費者利益を念頭に置いて法を運用するのなら、この辺りを十分に考える必要があるはずだ。

 また、法執行に当たっては、消費者庁設置の検討を進める中で打ち出された、"消費者行政の体制強化は消費活動だけではなく産業活動を活性化するものでなければならない"という原則との整合性も考えなければなるまい。この原則は、消費者利益にかなうことは企業の成長と産業の発展にもつながるというロジックによるものだが、今回のファミリーマートの事件は、3カ月も前の事案で既に商品も販売が中止されている。措置命令を出しても、実質的な消費者の利益にかなうとは考えにくく、消費者庁がわざわざ過去に遡って措置命令を出さなければならない事案だったのかは疑問だ。インパクトのある実績を作ることを急いだと受け止められても仕方ないだろう。

 消費者行政の舵取り役である消費者庁にとって、消費活動と産業活動を活性化という原則は順守すべき事項だ。消費者保護を名目にした過度な法執行で事業者を萎縮させ、産業を沈滞させるようなことがあってはならない。

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