行政は健食制度の整備急げ

2012年03月07日 18:03

2012年03月07日 18:03

食品の機能性に対する消費者の関心の高まりを示す出来事が続いている。健康食品素材「レスベラトロール」はテレビ番組で取り上げられたことから脚光を浴び、トマトは脂肪燃焼効果が注目された。食品の機能性が注目されることは、健食業界にとっても追い風であり、喜ばしいニュースに思える。だが、こうしたブームが起こっては立ち消えていく背景には、消費者が機能性に関する確かな知識を持ち得ていないことがあるのではないか。これは、健食にまともな表示制度がないことが一因だ。機能性に関する不確かな情報が垂れ流され、健全な市場発展を阻害する可能性もある。行政は制度整備を急ぐべきだ。

 昨年6月、NHKは「レスベラトロール」が、老化の原因を抑えるとされる遺伝子の働きを活性化させる可能性を番組で取り上げた。「あなたの寿命は延ばせる 発見!長寿遺伝子」というあまりに刺激的な番組タイトルが消費者に与えるインパクトは大きく、放送以降、健食通販各社に問い合わせが殺到した。

 今年2月には京大の研究グループがトマトに含まれる成分の一つがメタボリック症候群の改善に役立つ可能性があることを発表した。研究は動物試験に拠るもの。だが、発表を受けてテレビ各局が「人間で作用を得るためには○個のトマトを食べることが必要」「毎日トマトを食べているトマト農家の人はみんな痩せている」などと面白おかしく伝えたことから消費者が情報に飛びつき、店頭ではトマト関連商品が品薄となる事態に発展した。

 機能性が関心を集めるのは今に始まったことではない。過去から現在に至るまで、さまざまな食品、健食が注目されてはそのブームが終息してきた。"フードファディズム(食品の一時的流行)"という現象だ。

 だが、こうして消費者の関心が高まる事態を楽観視していて良いだろうか。「レスベラトロール」を摂ったからといって長寿が約束されるわけもなく、ただトマトを大量に食べさえすれば痩せるわけでもない。複数のフィルターを介して消費者に伝えられる情報は、時として誇大なものとなり、間違った形で伝わっている。にもかかわらず情報に飛びつく消費者の行動に、いびつな形となって現われた、機能性情報に対する"飢え"を見ることはできないか。

 時に健食に対する過信を抱かせ、時に不安を抱かせる原因となる不確かな情報。原因は健食に表示制度がないことがある。事業者は健食について適切な情報を伝える手段を持ちえず、一部の悪質事業者にはこれを悪用して根拠が薄弱な情報を垂れ流すことさえ許している。

 ファンケルの宮島和美会長は09年、消費者庁で行われた「健康食品の表示に関わる検討会」など、ことある場面で健食を巡る議論に必要な視点として米国ケネディ大統領が示した「消費者の4つの権利」(安全である権利、知らされる権利、選択できる権利、意見を反映させる権利)を挙げている。今の健食の表示制度がこれを満たす制度と言えるのか。行政は情報の氾濫に自らの失策を省みて、消費者の権利を真剣に考えるべきだ。

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