化粧品"危機管理"を再考せよ
悠香の「茶のしずく石けん」による小麦アレルギー発症問題が今年4月、集団訴訟に発展した。全国で立ち上がった弁護団が一斉提訴で求めた損害賠償は70億円超。原告は500人超に上り、2次、3次と続く提訴で原告総数は1000人に達する見通しだ。2001年、化粧品の「全成分表示制度」が導入され、化粧品製造販売の責任主体が事業者に移って以降、誰もが化粧品にこれほどのリスクがあるとは考えなかったに違いない。悠香の問題はその認識を根底から覆し、通販事業者に改めて「危機管理」の重要性を問うものだ。
制度品大手の担当者の一部には、悠香の問題を「ぽっと出の通販事業者が安直に化粧品販売に乗り出した結果」と見る者もいる。だが、問題は通販が持つ特性が招いたものではなく、化粧品業界全体で考えねばならない課題を示唆するものだろう。化粧品の安全性に関わるものだ。
今回、小麦アレルギーは肌への浸透が想定される化粧水などではなく、肌表面で洗い流される「洗顔料」で起きた。昨今、化粧品各社は美容成分の浸透技術を競い合うが、その点、安全性をいかに担保するか、また、洗顔料における安全性試験のデザインの再考も必要だろう。
また製造、販売事業者間で秘匿し合うことが通例となっている自社調達・開発の原料情報の扱いをどうするかも検討が必要だ。アレルギーの原因は「グルパール19S」という原料にあるとの見方が濃厚なためだ。
これまで委託関係にある化粧品の製造、販売事業者間では、自社調達・開発の原料情報を開示しないことが慣習となっていた。自社調達の原料には、その製品の魅力を決定づける秘密が隠されていることが少なくないためだ。「グルパール」もその分子量の大きさが泡立ちが良いなど魅力的な機能を担保した反面、アレルギー発症のリスクを高めたとされる。悠香が原料情報をどこまで知っていたかは不明だが、訴訟では販売事業者だけでなく、原料の供給元、製造元も被告となった。非常に難しい問題だが、この点をいかに解決するべきか、考える必要がある。
こうした議論になると、「全成分表示制度」が導入される以前、「化粧品原料基準」という規格で化粧品原料を国が管理していた時代の方がやりやすかったのではないか、とも思う。だが、「化粧品原料基準」は、原料の個性、ブランドの"らしさ"をなくし、コモディティ化を進行させる要因となっていたもの。回帰を望む事業者はいないだろう。
全成分表示制度で自己責任が重くなる反面、事業者はオリジナリティのある、ユニークな商品設計が可能になった。このことが海外市場における国内ブランドの国際競争力を高め、既存大手が先行し、飽和状態にあった化粧品市場に通販各社が切り込む好機ともなった。
だからこそ、悠香の問題に端を発した危機管理のあり方を、日本通信販売協会の「コスメティック部会」など業界全体で議論する必要がある。海外に目を向ける通販事業者が増える中、安全性に対する信頼を土台とした国際競争力を維持していく上でも、悠香の問題を風化させることがあってはならない。
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今回、小麦アレルギーは肌への浸透が想定される化粧水などではなく、肌表面で洗い流される「洗顔料」で起きた。昨今、化粧品各社は美容成分の浸透技術を競い合うが、その点、安全性をいかに担保するか、また、洗顔料における安全性試験のデザインの再考も必要だろう。
また製造、販売事業者間で秘匿し合うことが通例となっている自社調達・開発の原料情報の扱いをどうするかも検討が必要だ。アレルギーの原因は「グルパール19S」という原料にあるとの見方が濃厚なためだ。
これまで委託関係にある化粧品の製造、販売事業者間では、自社調達・開発の原料情報を開示しないことが慣習となっていた。自社調達の原料には、その製品の魅力を決定づける秘密が隠されていることが少なくないためだ。「グルパール」もその分子量の大きさが泡立ちが良いなど魅力的な機能を担保した反面、アレルギー発症のリスクを高めたとされる。悠香が原料情報をどこまで知っていたかは不明だが、訴訟では販売事業者だけでなく、原料の供給元、製造元も被告となった。非常に難しい問題だが、この点をいかに解決するべきか、考える必要がある。
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全成分表示制度で自己責任が重くなる反面、事業者はオリジナリティのある、ユニークな商品設計が可能になった。このことが海外市場における国内ブランドの国際競争力を高め、既存大手が先行し、飽和状態にあった化粧品市場に通販各社が切り込む好機ともなった。
だからこそ、悠香の問題に端を発した危機管理のあり方を、日本通信販売協会の「コスメティック部会」など業界全体で議論する必要がある。海外に目を向ける通販事業者が増える中、安全性に対する信頼を土台とした国際競争力を維持していく上でも、悠香の問題を風化させることがあってはならない。