高裁判決を真摯に受け止めよ
第1、2類医薬品のネット販売を行う権利確認や医薬品ネット販売を規制する省令規定の無効・取り消しなどを求め、ケンコーコムとウェルネットが国(厚生労働省)を相手取り提起していた行政訴訟の控訴審で、東京高等裁判所は4月26日、1審判決の一部を取り消し、ケンコーコム側にネット販売を行う権利を認める逆転判決を下した。国側は5月9日に上告したが、弁護士など法律の専門家の間では、高裁判決は理にかなったもので、最高裁でも覆すのは難しいとの見方が少なくない。
1審では、原告であるケンコーコム側の訴えを全て退けた。理由は、ネットは対面に劣るというものだ。ケンコーコム側はこの判決を不服として控訴したが、確かに、ネットが対面に劣ると判断した根拠は曖昧で、おかしな判決と言わざるを得ない。
実際、医薬品販売制度を巡る過去の検討過程をみても、ネット販売を行う事業者が蚊帳の外に置かれ続け、ネットでの情報提供や販売手法などを十分に検証した形跡はない。また、事業者の経営に影響するような規制をかけるのであれば、相応の理由があってしかるべきだが、過去の医薬品の健康被害について見ても、ネットという販売手法に起因した事例は見当たらないのが実情だ。こうした状況を考えると、1審判決は、国の主張する優劣論を鵜呑みにしたものとしか言いようがない。
これに対し控訴審では、高裁側が規制の必要性と合理性に焦点を当てる方針を提示し、ネット販売を一律に規制する省令規定は改正薬事法の委任範囲を超えた違法なもので、ケンコーコム側に医薬品ネット販売を行う権利があると認める判決を下した。表面的な優劣論ではなく、規制の必要性と合理性という本質的な部分に軸足を置いたこの高裁判決は当然の結果だろう。
また、同判決では、医薬品ネット販売の利用者や、営業をしてきた事業者があることを勘案した規制による利益の侵害、規制の根拠となる事実の調査、合理的な規制方法の検討など立法過程にまで踏み込んで言及している。これは医薬品ネット販売規制の検討段階での問題を指摘したものだが、ある弁護士は、医薬品ネット販売だけでなく、行政が行う規制の在り方、安易な規制に釘を刺すメッセージが含まれているとする。
医薬品ネット販売規制を巡る一連の経緯を辿ると、薬業団体などから"ネットは危ない"というレッテルを貼られた挙句、立法事実となる健康被害やネットでの情報提供方法などの十分な検証がないまま、時間切れの形で規制が導入されたが、この構図は医薬品ネット販売に限ったものではあるまい。特に成長著しいネット販売に対しては、懐疑的な見方をする既得権益者は少なからずいるはずで、今後、何か問題が生じた場合、イメージ先行の規制議論が浮上することも考えられる。その意味でも、検討経緯にまで踏み込み規制の在り方に言及した高裁判決は重いものだ。
国側はすでに最高裁に上告したが、高裁判決を真摯に受け止め、消費者や事業者に不利益を与え続ける理不尽な医薬品ネット販売規制を早急に見直すべきだ。
そのほかの注目記事FEATURED ARTICLE OTHER
1審では、原告であるケンコーコム側の訴えを全て退けた。理由は、ネットは対面に劣るというものだ。ケンコーコム側はこの判決を不服として控訴したが、確かに、ネットが対面に劣ると判断した根拠は曖昧で、おかしな判決と言わざるを得ない。
実際、医薬品販売制度を巡る過去の検討過程をみても、ネット販売を行う事業者が蚊帳の外に置かれ続け、ネットでの情報提供や販売手法などを十分に検証した形跡はない。また、事業者の経営に影響するような規制をかけるのであれば、相応の理由があってしかるべきだが、過去の医薬品の健康被害について見ても、ネットという販売手法に起因した事例は見当たらないのが実情だ。こうした状況を考えると、1審判決は、国の主張する優劣論を鵜呑みにしたものとしか言いようがない。
これに対し控訴審では、高裁側が規制の必要性と合理性に焦点を当てる方針を提示し、ネット販売を一律に規制する省令規定は改正薬事法の委任範囲を超えた違法なもので、ケンコーコム側に医薬品ネット販売を行う権利があると認める判決を下した。表面的な優劣論ではなく、規制の必要性と合理性という本質的な部分に軸足を置いたこの高裁判決は当然の結果だろう。
また、同判決では、医薬品ネット販売の利用者や、営業をしてきた事業者があることを勘案した規制による利益の侵害、規制の根拠となる事実の調査、合理的な規制方法の検討など立法過程にまで踏み込んで言及している。これは医薬品ネット販売規制の検討段階での問題を指摘したものだが、ある弁護士は、医薬品ネット販売だけでなく、行政が行う規制の在り方、安易な規制に釘を刺すメッセージが含まれているとする。
医薬品ネット販売規制を巡る一連の経緯を辿ると、薬業団体などから"ネットは危ない"というレッテルを貼られた挙句、立法事実となる健康被害やネットでの情報提供方法などの十分な検証がないまま、時間切れの形で規制が導入されたが、この構図は医薬品ネット販売に限ったものではあるまい。特に成長著しいネット販売に対しては、懐疑的な見方をする既得権益者は少なからずいるはずで、今後、何か問題が生じた場合、イメージ先行の規制議論が浮上することも考えられる。その意味でも、検討経緯にまで踏み込み規制の在り方に言及した高裁判決は重いものだ。
国側はすでに最高裁に上告したが、高裁判決を真摯に受け止め、消費者や事業者に不利益を与え続ける理不尽な医薬品ネット販売規制を早急に見直すべきだ。