経営トップ自らリスクに臨め

2012年06月07日 10:22

2012年06月07日 10:22

悠香の「茶のしずく石けん」による小麦アレルギー発症問題と、ディーエイチシー(DHC)によるファンケルの特許侵害問題は程度の差こそあれ、根を同じくする問題だ。通販大手2社が招いた騒動は、各メディアに取り上げられ、ブランドイメージを深く傷つけることになった。だが、これに留まらず、「通販化粧品」に対する消費者の信用失墜すら招きかねないものだ。化粧品市場の飽和感が高まる中、通販化粧品は店頭市場との競争に勝ち抜いていかなければならない。ブランド価値を高める努力を尽くす一方、今後、業態の枠を超えた競争の勝敗を分かつ要諦となるのが「危機管理」だ。

 業界を揺るがした悠香の小麦アレルギー発症問題。6月に行われた日本通信販売協会の懇親会である通販大手元代表は「化粧品の危機管理は、もはや一担当部署が認識していれば済む問題ではなく、経営トップ自ら把握するべきこと」と語った。大半の製品を自社製造する同社だが、事後対応のあり方を再考する上で参考となる部分が多かったという。だが、製造をOEM事業者に委ねるケースが多い中小の通販事業者の場合、この問題は品質や安全性など製造上のリスクまで広範に及ぶ、より深刻な課題となるだろう。

 DHCの特許侵害問題も、見方を変えれば悠香の問題と同根の課題が潜んでいる。自社製造の製品でない場合、他社の有する知的財産に対しても疎くなりかねないためだ。

 本来、通販業界を代表し、後進に範を示すべき企業が侵した特許侵害は、消費者にコンプライアンスに対する認識の甘さを露呈させることになった。製品回収や健康被害に比べれば、特許侵害がブランドイメージに与える影響は小さい。だが、OEM事業者への丸投げが招いた結果だとすれば、このことはより大きな問題に結びつきかねないリスクを孕んでいる。品質や安全性、コンプライアンスに対処できる人材を育成し、OEM事業者といかに強固な信頼関係を築くかは課題になるだろう。

 通販業界全体にすらネガティブなイメージを与えかねない報道が続く一方、店頭市場では業態改革の試みが着実に進んでいる。三越伊勢丹ホールディングスはルミネに高級化粧品の専門店を出店し、イオンは外資系ブランドを含むセレクトショップ「コスメーム」を開店させた。ネットを媒介に顧客の購買行動が変わり、通販化粧品が「通販」という業態の特性を活かしにくくなる中、制度品大手によるネット販売参入も、いずれは脅威となるかもしれない。

 通販の強みといえば、対面販売でないからこそ培うことができた"接客力"だろう。最近も日本ブランド戦略研究所の行った顧客サポート評価でファンケルが1位を獲得し、オルビスもサービス産業生産性協議会が行う顧客満足度調査で1位を獲得。ヘルプデスク協会が行うコールセンターの格付け調査では両社が最高評価を得るなど、外部の評価がその実力を証明している。強みを活かすためにも、足元をすくいかねないリスクに敏感になる必要がある。危機管理に向けた各社の取り組みが、ひいては業界全体の信頼を高め、市場のシェア拡大を進めることにもなる。

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